“子ども時代に、大切なものを奪われてはいけない” 「屋根裏のラジャー」西村義明 1万4000字インタビュー(6/10 ページ)
プロデューサー自らが脚本を手掛けた理由と、本編で描ききれなかったキャラクターの背景とは。
エミリとジンザンの悲しい背景
――先ほど、エミリがオーバーオールを着ている、ゴーグルをつけてる理由も考えているとおっしゃっていましたが、具体的にその理由はどのようなものなのでしょうか。
エミリを想像した人間の子どもは、生まれてからずっと病院にいて、寝たきりだったんです。その子の無意識がエミリを生んだんですね。その子から「私の代わりに色んなものを見て、私に聞かせて」と頼まれて、エミリは空を飛びながら病院の中なり、周りを飛び回って見てきて、「あのお医者さんとあの看護師さんはたぶん付き合ってる」とか、いろいろな話を毎日毎日その子のベッドサイドで聞かせていたんです。だから、彼女ってすごくお喋りなんですね。あそこはこうなってる、ここはこうなってるとかね。よーく見えるようにゴーグルを付けてもらって、ムササビのようなオーバーオールで飛んでいろいろと見て回る。でも、その子はエミリに翼を付けはしなかった。ベットにいる自分から離れて欲しくなかった。どこかに飛んでいってしまうのが怖かったんでしょうね。
エミリは、その友だちと他のイマジナリとは少し異なる別れ方をしたんですが、イマジナリの町に導かれてきた。でも、本当は「友だちと分かれたときに、消えてしまえばよかった」って、ずっと思っている子なんです。それほど、その子のことが好きだった。だから、アーケードの場面でラジャーからアマンダの状況を聞いたときにギクっとしてしまう。自分と同じ境遇だと思っていたラジャーに痛く感情移入して、自身が最も大事にしていた想像の小物をラジャーにあげるほどに。想像が次なる者へ受け渡された瞬間ですね。
でも、そのことがあるからこそ、エミリはラジャーを生かそうともするんです。友だちと分かれるのがつらいのはエミリもとてもよく知っているからこそ、イマジナリの町でラジャーにはっきりと諦めろと伝える。それは厳しさの中の優しさでもあった。思い続けたところで、二度と会えないんだから。でも、その後の局面でエミリはラジャーにはアマンダと再会してほしいとも願った。
エミリは自分の友だちを「忘れた」というようなことを言うんだけど、忘れるわけなんてないんですよ。私を想像してくれた友だちが最高の友だちだと思い続けているエミリが、忘れるわけがない。自分を想像してくれた友だちのことを、決して忘れることが出来ないからこそ、エミリはラジャーの悲しみが誰よりもよく分かっていた。
――エミリは厳しいルールも告げたりするリアリストな一面もありましたが、それでも表向きは明るい子で、でも実は悲しいことさえ抱えてるっていう……あらためて、とても優しい子で、愛おしくなりました。
そのエミリがいる図書館って、養護施設のような場所です。自分を生んでくれた友だち、いわば親と共にいれない子たちが集まっている場所です。ほんの短い時間だけ過ごして生みの友だちと離れてしまったイマジナリだけでなく、数年間も友だちと一緒にいた子もいるでしょうね。でも、そこは悲しみの場所ではなくて、一見バラバラなイマジナリたちが集まって楽しくやっている。とはいえ、そこで使われる劇中歌はガリアッツィというイタリア人歌手の「Vogulio una casa」という歌曲ですが、日本語に訳すと「家が欲しいな」という意味を歌い上げているんですね。みんな家が欲しい。
友だちのことをすぐに忘れることもできるイマジナリもいる。でも、エミリは友だちと一緒にいた時間が10数年と長いため、その記憶を留め置いている。だから、エミリはイマジナリの町での仕事はするけれど、他の子の友だちになりたいとは微塵も思ってはいない。エミリはイマジナリの中で最も友だちを愛した子だからこそ、人間たちと別れた後の悲しみが一番理解できる。その優しさと慈しみを持っているエミリだからこそ、イマジナリの町のリーダー足りうる人物なんです。
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