「宇宙作戦隊」とは? 宇宙ごみ=デブリの現状
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、2020年度に新設予定の「宇宙作戦隊」について—
改正防衛省設置法、航空自衛隊に「宇宙作戦隊」なる組織を新設
新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、国会では4月17日、ある法案が成立しました
それは改正防衛省設置法、航空自衛隊に「宇宙作戦隊」なる組織を新設するというものです。
今年度(2020年)中に東京・府中市にある航空自衛隊府中基地に、およそ20人体制で発足する予定。主な任務は宇宙に漂うごみ、いわゆる「スペースデブリ」を監視することです。
「宇宙作戦隊」というと、何やら「宇宙戦争」や「スターウォーズ」をイメージしますが、このスペースデブリは宇宙空間において決して無視できない問題です。2007年に中国が自国の衛星をミサイルで破壊する実験を行ったことで、この問題が大きくクローズアップされました。
その2年後の2009年には、アメリカとロシアの衛星が衝突する事故も起きました。これによって無数の衛星の破片=デブリが宇宙空間に飛散してしまったわけです。
例えば地上で交通事故(物損事故の場合)が起きたとき、飛び散った車両の破片はいずれ片づけられますが、宇宙空間ではそうはいきません。さらにデブリは秒速7~8kmという高速で動いています。拳銃の弾丸が秒速数百メートルと言われていますので、衝突したときの破壊力がいかにすさまじいか、おわかりいただけると思います。
そのデブリの数は、JSpOC(アメリカ国防総省戦略軍統合宇宙運用センター)によると、確認されているだけで1万7000個以上。さらに地上からの観測が難しい直径1センチより小さいものを含めると、1億個を超えるのではないかとも言われています。
宇宙には無数の人工衛星があります。通信衛星、気象衛星、測位衛星、観測衛星…これらは天気予報や衛星放送受信、カーナビなどに活用され、身近な生活に欠かせないものになっていますが、こうした衛星は常にデブリ衝突の危険にさらされています。
日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)では、先のJSpOCとデブリの情報を共有していますが、JAXAのHPによると、JAXAの衛星にデブリが衝突しそうなときに出される情報は、2016年度の1年間に何と9万件。軌道変更をするほどの危険が迫ったのは年間約30件、実際に軌道変更したのは5件あったということです。
衝突から衛星を守るためには、24時間365日体制でデブリを監視。新型コロナウイルス感染拡大のなかでも、作業を怠ることはできないというわけです。
日本の設備はミサイルとは関係ない世界初の“平和利用”
JAXAでは先のアメリカとの情報共有の他、岡山県にある2ヵ所のスペースガードセンターで、レーダーや光学望遠鏡を使ったデブリの観測を行っています。このセンターの建設に携わった元JAXA国際部参事の辻野照久さんによると、こうしたデブリ観測装置は外国では多くがミサイル検知用設備の転用だそうで、いわば“軍事用途からの転用”。
これに対し、日本の設備はミサイルとは関係ない世界初の“平和利用”、辻野さんは「日本が打ち上げた衛星の管理をするのは当然のこと」と話します。
また、JAXAは民間のベンチャー企業とも共同でデブリ対策を模索しています。注目されるのは導電性テザーという仕掛けを使った「宇宙デブリ拡散防止装置」。テザーとは、動物などをつなぐなわのこと。衛星が任務を終えて引退するときに、長いひも(テザー)を外に伸ばして電気を流し、地球の磁力を使って衛星の軌道を変更するものです。
私にとっては懐かしい「フレミングの左手の法則」、この原理により、衛星の進行方向と逆向きにローレンツ力なる力が発生します。これによって衛星のスピードが落ち、地球の重力により高度が低下、いずれは大気圏に近づき、再突入して燃え尽きるという仕組みです。
この装置による実証実験をJAXAとベンチャー企業のALEが始めています。ALEの岡島礼奈社長は「本装置を通じサステイナブル(持続可能)な宇宙環境づくりに取り組む」とコメント。この会社は世界で初めて、人工衛星による「人工流れ星」にも挑戦しています。
まさに「立つ鳥、跡を濁さず」。ちなみに、このことわざは他国の故事成語ではなく、日本発祥と言われています。この鳥は日本に飛来する白鳥を指すという説も。そう考えると、この取り組みは日本の美徳を体現しているとも言えるでしょう。
一方、こうした任務に防衛省が参画することで、日米の軍事一体化が進むと懸念する声もあります。デブリの監視や除去は、いわば地球上における「掃海作業」のようなものかもしれません。
2008年に成立した宇宙基本法では、軍事以外の目的に限定されていた宇宙開発・利用の制限が緩和されました。しかし、第一条には「日本国憲法の平和主義の理念を踏まえ」と記されています。今回の「宇宙作戦隊」なるものも、その理念は忘れないでほしいものです。(了)
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