悩むまでもなくポチっとな! 1巻完結&Kindleで読めるおすすめマンガ7選:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第13回
ユー、ポチっちゃいなよ。忙しいあなたに送る、1巻完結&Kindleで読めるおすすめマンガ7選です。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
本連載のテーマは毎回美人編集M女史と相談しながら決めているのですが、そんなある日のエピソード。
UK 「マンガを読みたくても時間がない」っていう人も多いと思うので、今回は1巻完結をテーマにしようと思うんですよ
M女史 いいですね! あとKindleで読めるものだともっといいと思います!
UK 了解です! (はて、なんでだろう……?
後日――。
UK ここがM女史のデスクか。あっ……(察し)
というわけで、今回は収納にも困らないKindleで読める1巻完結マンガ7作を紹介していきます。特に今回はこのレビューすらじっくり読んでいる暇がない多忙なマンガ好きのために、作品ごとの特徴を冒頭で短くまとめました。このワンフレーズにひかれた方は、社主のくだらない解説などすっ飛ばして、とにかく実際に読んでみてください!
結婚したい男はまず女心を知るべき! 「他人暮らし」(谷川史子)
ストーリー
バツイチの書道の先生・純花、やり手の独身編集者・頼子、新婚早々逃げ出したサワ。33歳になる3人は高校時代からの仲良し同級生。ひょんなことから、3人は純花の家で1カ月間同居生活を送ることに――。
生活観の違いから離婚し、今は両親がのこした自宅で自由な一人暮らしを満喫する純花、一回り下の職場の男子に恋するも多忙な雑誌編集の仕事との両立に悩む頼子、「学歴良し、年収良し、性格良し、家族関係良し」という最高の条件に恵まれた結婚を果たしたものの本当に彼を愛していたのか分からなくなってしまうサワ。
三者三様の恋愛観を3連作で描いた同作は、彼女たち3人の独白を通じ、この世代の女性の気持ちを丁寧にくみ取っています。こう断言してしまうと「そういうお前は男だろ!」というツッコミが来そうですが、こう言い切れるのは社主自身が彼女たちと同い年であることに加え、何より本作を勧めて実際に読んでくれた同年代の女性がみんな口をそろえて「分かります!」と熱く語るのです。極端な話、谷川先生が嫌いな女子なんていないのではなかろうか、と。
そんなわけで、いわゆるアラサー女性のみなさまには自分の生き方の指針として、この三者三様のライフスタイルと、「りぼん」時代から続く谷川先生のほのかな甘さとやさしさを。またそういう気持ちがとんと理解できず、とにかく「結婚!」「女!」と焦っている男どもはこれを読んで、まずは同世代の女心を知ればよいかと。なおこれを読んだ社主は独身のまま孤独死に向かうもよう。
萌える主人公にならなかった少女への鎮魂歌 「もう卵は殺さない」(香魚子)
ストーリー
マンガや映画、この世の「物語」の主人公が在籍する「主人公斡旋所」に在籍する少女・笹木綾子。彼女が背負う「生きるとは何かを春の海辺で考える」という物語は、どんな作家からも見向きもされない。誰からも必要とされず、孵化しない「卵」のままである少女の悲痛な叫び。卵が孵る日は果たして。
表題作を含む4本からなる短編集。香魚子先生の作品は、その表紙の美しさにひかれてオリジナル/原作付きを含め全て所有しているものの、これまでストーリーとしてはやや地味な印象が強かったのですが、本作は出色の出来。この短編1本を読むためだけに買っても損はないと断言します。
このストーリーのように、作中人物が「私は作中人物である」と理解して振る舞う作品は「メタフィクション」と呼ばれ、文学史的に言うと80年代に流行したスタイル。日本では筒井康隆氏の「朝のガスパール」などが有名で、社主も大好きな文学ジャンルです。
「あたしの話、オタク寄りの小中学生がターゲットなの!」と、主人公斡旋所にやってきたツインテールの少女・そまりが、綾子に放つ「何言ってんの? 売れ残りのくせに」という言葉は、萌え要素をこれでもかと詰め込んだ極端な商業主義の行きつく先のようにも見えます。とは言え、昨今のオタク寄りは「あざとい」が自虐的なほめ言葉になっている点で、すでに本作を超越したアルティメットな存在になりつつあるのですが。
学校とは明るく、暗く、楽しく、悲しく、そして優しく懐かしく 「花ボーロ」(岩岡ヒサエ)
ストーリー
腰痛でバレーをあきらめ、合唱部に入部する女子高生、友人をケガさせてしまったことから怒らないことを誓った元不良、夏休み最後の日の夜、クラスメイトを体育館に集めて子どもの王国を作ろうとした少年など「学校」を舞台にした短編集。
本連載第11回「『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどスゴイ!2014」で第7位に選んだ「なりひらばし電器商店」に引き続き、2度目の登場となる岩岡ヒサエ先生の短編集。本作に関してはこの「岩岡ヒサエ」という作者名だけでためらうことなくダウンロードしてもらってもよいのですが、一応紹介。
全10作を所収する本作ですが、おすすめの短編は第8話「かまとりさんは空を飛ぶ」。主人公の女子高生・美浜さんが通う予備校にいる謎のブラジル人帰国子女・鎌取さん。将来イギリス紳士になるため大学を受験するという彼は、日々予備校で熱心に勉強に励むものの、まだ日本語に慣れておらず、模試は自分の名前しか書けずに0点。しかしそれでも彼はイギリス紳士になるという目標を捨てることなく突き進むのです。
そんな夢に向かって必死にまい進する鎌取さんを見て、「私には、現実がぎゅうぎゅうですよ」と心に思う美浜さんのあきらめとあこがれの入り混じった表情は必見。まさに「現実がぎゅうぎゅう」でマンガを読む時間と余裕さえない我々にとって、鎌取さんという夢がぎゅうぎゅうに詰まった存在は、日々の生活に勤しむなかで失ってしまったものを取り戻すヒントを示してくれるかもしれません。
落語マンガの先駆け、まずはここから 「しゃべれどもしゃべれども」(勝田文)
ストーリー
俺は今昔亭三つ葉。当年二十六。三度のメシより落語が好きで、噺家になったはいいが、いまだ前座よりちょい上の二ツ目。自慢じゃないが、頑固でめっぽう気が短い。女の気持ちにゃとんと疎い。そんな俺に、落語指南を頼む物好きが現れた。だけどこれが困りもんばっかりで……。
本連載では初めて取り上げる勝田文先生ですが、ジーン・ウェブスター「あしながおじさん」を日本を舞台に置き換えてリメイクした「Daddy Long Legs」(集英社)や、イギリスのユーモア作家P・G・ウッドハウスの「プリーズ、ジーヴス」(白泉社)のコミカライズを手掛けるなど、少し変わった方向性からの作品を描いておられる一方、和風レトロな作品も多いマンガ家さんです。
本作「しゃべれどもしゃべれども」は、佐藤多佳子さんによる原作小説が映画にもなった作品。少女マンガ出身にしては人物の表情がやけにコミカルでのびのびしていて、男女問わず読みやすく、落語をテーマにした本作のストーリーに打ってつけの画風ながら、「ここぞ!」という本気の場面になると女性の顔が途端に美しく変ぼうするのも見どころ。
雲田はるこ先生「昭和元禄落語心中」(講談社)や、ヤス先生の「じょしらく」(講談社)、新しいところでは、秋山はる先生「こたつやみかん」(講談社)など、昨今落語をテーマにしたマンガが人気ですが、2007年発売の本作はその先駆けとして、マンガ好きなら読んでおきたいところです。
声にならない声、だけど気持ちは…… 「空声」(こがわみさき)
「陽だまりのピニュ」(スクウェア・エニックス)などで知られるこがわみさき先生の短編集。「直接声に出して伝えられない、けれど、その気持ちを伝えたい」という“空声”をテーマに5編収録。中でも社主は第4話「空声 Night Piece」がお気に入りです。
テストの問題用紙を盗み出すため、夜まで校内に隠れることを計画した高校生カップル篠とモモ。夜がふけるのを待つため、音楽準備室に隠れていた2人は、いつの間にか眠り込んでしまいます。「夕暮れ迫る放課後、好きな女子と二人きりで肩を寄せ合い夜を待つ」なんてシチュエーション、この上なくベタだけど、やっぱり胸に突き刺さってしまうじゃないですか! こがわ先生の描く女子がナチュラルでかわいらしいのが悪いんです!
1本の短編としては電車で出会った向かいの席の気になるあの子との交流を描いた「空声 The Girl Opposite」の方がストーリーとしての完成度は高いけれど、もう二度と戻らない「誰もいない放課後の音楽準備室」というシチュエーションの勝利ということで。
誰にも言えないやましさ、倒錯した性…… 「回游の森」(灰原薬)
ドラマ「SP」や、ゲーム「戦国BASARA」のコミカライズで知っている人の方が多いかもしれない、灰原薬先生のオリジナル短編集。デビュー作「とかげ」(一迅社)を読んだ当時、このスタイリッシュでドライな画風は、もう少し高い年齢層の方が受け入れられそうだと思っていたので、その後、山本直樹先生、沙村広明先生らを執筆陣に持つ「マンガ・エロティクス・エフ」での連載が決まったのを知ったときは、ここでどういう作品を描かれるだろうかと楽しみに思っていた記憶があります。果たして、灰原先生はその作風を発揮し、本作「回游の森」を描き上げました。
本作のテーマを一言で表すなら「やましさ」。それは少女愛であり、同性愛であり、爬虫類しか愛せない性癖であり、溺れゆく妻の「手」に感じたエロティシズムであり、教師と生徒という禁断の関係であり、つまり心の中に秘めた倒錯であるわけです。
この作品の魅力は個々のエピソードもさることながら、やはり灰原先生の鋭角的でエロティックな画風があってこそ引き立つというもの。なお、変な期待を抱いてクリックする前に書いておきますが、直接的な性描写はほとんどありません。でも、むしろ描かない方がエロスってものじゃないですかね?
シュール&ノスタルジー 短編の名手・小田扉先生の大傑作「江豆町」
今回最後を飾る7作目は、「団地ともお」(小学館)で知られる小田扉先生の連作集「江豆町」。
社主がマンガ読みになるきっかけの1つともなった先生初の短編集「こさめちゃん」(講談社)以降、「そっと好かれる」「男ロワイヤル」(いずれも太田出版)、「○被警察24時」(小学館)などリリースされる短編集全てが傑作という奇跡を目の前に、どんどん小田扉ワールドに引き込まれていったわけですが、それらの中でも社主が最も完成度が高いと思っている「傑作・オブ・ザ・傑作」がこの「江豆町」。今回Kindle対応しているかどうか調べていく中で、発売後10年経ったとはいえ、この不朽の名作が当時の定価の半額500円で買えることを知って、本当にいい時代になったものだとしみじみ感じる次第です。
江豆町の橋本宅で起きた、地元でも評判の良い甘木老人の怪死事件「とるに足らない甘木太郎の死」から始まる江豆町を舞台にしたこの連作は、この町の謎に迫るジャーナリストの目を通して語られていきます。
江豆町唯一の囚人、突如消えた町のシンボル「犬像」、謎のスポーツ「ドリームバリュー」、乗り物/犬/宇宙/老人を手で表す四すくみの「江豆じゃんけん」など、小田扉ファンにはおなじみのシュールさと、その後「団地ともお」へと引き継がれていくノスタルジックで哀愁漂う世界観、また各短編間での伏線の絡め方とその回収など、作品構成の全てにおいて非の打ち所がない完璧な1冊としか言いようがありません。
このような短編集の名手としては、「それ町」や「木曜のフルット」で知られる石黒正数先生も評価が高いですが、推理小説的、理知的色彩の強い石黒先生と比べると、小田先生は読み手のノスタルジックな感情に訴えかける部分が強いのが特徴。石黒先生の短編集が好きな方なら、ぜひ本作もご一読を。
というわけで、こうして振り返ってみると何の統一性もない7作を紹介してきました。逆に言えば、今回紹介したマンガのどれか1つくらいは、読者のみなさんの興味関心に引っかかったのではないでしょうか。
最後の「江豆町」で少し触れたように、どうやら現在、過去の名作が電子書籍として、しかも作品によっては定価の半額というお値打ち価格でどんどんリリースされているようです。今となっては実物が手に入りにくい作品が、こうして手軽に読める環境が整いつつあるのは大変喜ばしい。「Kindleで読めない」という理由で今回紹介できなかったほかの名作も、おそらく今後随時電子化されていくことでしょう。
その時はまた改めて「1巻完結&Kindleで読めるマンガ」第2弾として紹介していきたいと思います。あとM女史のデスクもいつか電子化されるといいなと思いつつ、これにて筆を置きます。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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