アイドルのピンチを救うのは“同じ声”のお笑い芸人 ダブルヒロインのドタバタコメディマンガ「O/A」:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第27回
ダブルヒロインの作品といえば映画「アナと雪の女王」や「思い出のマーニー」が話題ですが、社主のおすすめはこの「O/A」です。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
前回は本連載初めての試みとして、現在「ライアー×ライアー」などを連載中のマンガ家・金田一蓮十郎先生にお話をうかがったインタビュー記事を掲載しましたが、もうお読みいただけましたか? 「動物化するポストモダン」などの著書で知られる作家・思想家の東浩紀先生も「ぼくも金田一さん大好き」とツイートしておられて、意外なところからやってきた反響に社主としても少し驚いた次第です。とても面白いお話がたくさん聞けたので、まだの方はぜひぜひご覧ください!
さて話は変わりますが、以前「あの娘にキスと白百合を」を紹介したときに「これ百合だろ!」と勝手に決めつけた映画「思い出のマーニー」。社主もさっそく見に行ってきましたが、杏奈とマーニーという2人の少女の友情を描いた、そしてどことなくほのかな百合っぽさを漂わせた良い作品でした。百合好きの方にはおすすめです。
この「思い出のマーニー」は、大ヒット映画「アナと雪の女王」と並び、ダブルヒロインの作品として注目を集めているとのこと。そんなわけで今回は「マンガでのダブルヒロイン」をテーマに、「ヤングエース」(KADOKAWA)にて2009年から2012年まで連載された、渡会けいじ先生のコメディ作品「O/A」(全7巻)をご紹介します。
マンガでダブルヒロインと言うと、男の主人公1人に対して2人の対等なヒロインがいるといった三角関係のイメージが強いですが、本作は女子だけが主人公、本当の意味でダブルヒロインな作品になっています。この社主の連載がもうあと1、2年が早く始まっていれば、リアルタイムで紹介できたのに……とは言え作品自体はまったく色あせていません。
アイドルゆたかと若手芸人はるみ 物語は2人の強烈な出会いから
ヒロインは現在人気急上昇中のアイドル・堀内ゆたか。彼女に舞い込んだ新しい仕事はラジオの生番組「堀内ゆたかオーロラ作戦」。くしくも人気を二分するライバル・海江田ミホの番組と同じ時間に放送されることになった第1回の番組開始直後、強烈な腹痛がゆたかを襲います。朝に飲んだ牛乳、昼に食べた特大パフェ、夜に食べた生ガキ……思い当たる節はありすぎますが、ともかくトイレに駆け込むゆたか。そう、アイドルもトイレに行くのです。
CMと曲で番組をつなぐものの、このままゆたかがトイレから出て来られなければ完全に放送事故。抗議のファックスが届く中、ディレクターが思い出したのが、番組直前に出会った若手芸人・田中はるみでした。もう一方のヒロインである彼女の声は偶然にもゆたかとそっくりだったのです。
突然スタジオに呼び出されマイクの前に座らせられたはるみ。無茶ぶりにおじけづく彼女に対し発せられた「あなたも芸人のはしくれなら、この場を面白おかしく乗り切ろうと思わないの!?」という番組プロデューサーの強引な一言で、はるみはゆたかになりきることを決心します。そして、その第一声が針が振り切れる勢いで――。
オープニングとはまるで別人のような(別人ですが)テンションで復帰。さらにトークは続きます。
「えー、大変長らくお待たせしちゃってスミマセン。私少々お便所の方に行っておりまして、大なり小なり用を足してきた次第であります。ま、どちらかと言いますと……大のほうです」
まるで中の人が変わったかのような(変わりましたが)トークはさらにはずみます。「ゆたかさんは休日何をして過ごすのが好きですか」とリスナーからの質問への答え。
「これはアレですよ。写経です!! ずっと文字ばかり書いていると気持ちよくなってきて…法悦境って言うらしいですけど」
かくして下ネタトークOK、趣味は写経の人気アイドル・堀内ゆたかが誕生しました。
このままではどこまで前代未聞の奇アイドルに仕立て上げられるか――何とかトイレから出てきたゆたかは猛ダッシュでスタジオに戻ると、もはやノリノリのはるみに向け、顔にめり込むほど強烈なジャンピングニーをかまし、あらためて番組はCMに入りました。
事務所が巨額の負債!? ゆたかを突然襲うスキャンダル
そんな強烈な第1回放送でしたが、同時間帯の他番組をはるかにしのぐ高聴取率を記録。ネット上にも「堀内ゆたかハジマタ」などの書き込みがあふれ、さっそく話題に。
自分のイメージが崩されそうになったことに腹を立てるゆたかですが、そんな最中、彼女の事務所が巨額の負債を抱えていたことが発覚。社長は夜逃げ、さらに追い打ちをかけるようにゆたかには社長の愛人疑惑という根も葉もない噂まで襲い掛かります。
突如襲ったスキャンダルと人気の失墜――。「私はもうアイドルじゃない。アイドルじゃなくなった私に価値なんてない」と、完全にふさぎこんでしまったゆたかは、はるみの元を訪れます。そしてやってきた番組第2回放送日。「みんなゆたかさんの声が聞きたいはずです」と、はるみは呼びかけますが返事はなし。しかしはるみはラジオ局に赴き、「自分にしゃべらせてほしい、きっとゆたかはやってくる」と番組継続を訴えます。
スキャンダル後初めての生放送。マイクの前ではるみは語りはじめます。
「私達アイドルは夢を与える仕事と言われていますが、夢は私たちが与えるものではありません。私たちとみんなで思い描く、それが夢です。みんなと一緒に夢を見ることでアイドル(私たち)は輝くことができるのです」
芸人らしからぬ良い話です。
「アイドルだってひとりの人間です。疲れもします。トイレにも行きます。毛も生えます。結構毛だらけ猫灰だらけ………」
早くも限界がやってきたようです。しかし番組を聞いていたゆたかは立ち上がり、ラジオ局に向かうことを決めます。
「直接言ってやらないと 下ネタはやめろって」
この日の放送にはファンからたくさんの応援ファックスが届き、アイドルとファンが夢を共有しているということをあらためて感じさせたのでした。
アニメ化してほしいなー(社主の願望)
この日の放送をきっかけにゆたか&はるみの「二人一役」の番組体制「オペレーション・オーロラ(O.A)」が開始。ゆたかは再び人気アイドルとして返り咲くため、そしてはるみは芸人としての成功を夢見て、それぞれの物語が互いに交差していきます。さらにライバル・海江田ミホや、「フミヨ・アゲンストマシーン」の異名を持つ女子アナ・如月文代など、個性的な人たちも続々登場。
最初にも書いたように本作はすでに完結した作品ですが、全体として振り返ってみると、ドラマとして大変見どころの多い良作だったと思います。ストーリーの本筋はアイドル・堀内ゆたかの転落と復活ではありますが、もしこれがゆたか一人の物語だったならどうにも味気なく、今こうして何度読んでも楽しめるほど面白く華やかにしたのは、もう一人のヒロイン・田中はるみの存在があってこそのものでしょう。
全体的にはコメディなのですが、ゆたかがトップアイドルを目指す理由など人間心理の部分では実は結構シリアス。けれど物語が重くなり過ぎず、むしろ読後感としてはなぜか数々の下ネタばかり印象に残ってしまうのは、コミックリリーフとして果たすはるみの存在感に他なりません。
ちなみに社主は基本的に下ネタ御法度の人間なのですが、本作に関して言えば、渡会先生独特のポップで親しみやすい絵柄もあり、全く嫌な感じがなかったことも付け加えておきます。下ネタを敬遠気味の女性でもきっと楽しく読めるはずです。
巻数にして全7巻ということで、週末にまとめて一気に読むのにもちょうどいいくらいの分量なので、ぜひ手に取ってみてほしいです。
本作は連載中にノベライズされたこともあり、社主は「これアニメになるんじゃないか」と期待していたのですが、残念ながらそうはならず……。遅れはしたものの、このダブルヒロイン人気で再注目されて、どこかでアニメ化してくれないかなと淡く期待しております。角度に定評ある某アニメ会社の方とか、いかがでしょう。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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