その魅力、毒針のごとし ストライクゾーンは超狭いけど刺さる人にはクリティカル「死神ナースののさんの厄災」:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第40回
担当患者が次々と死んでしまう“死神看護婦”野ノ崎のの。ある日、隔離病棟に入院している12歳の少年・左桂鶫(ツグミ)の世話を命じられ……。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
コーナーのタイトルにもあるように、「おもしろいから騙されたと思って読んでください!」を旗印にさまざまなマンガを紹介している本連載ですが、これまで取り上げてきた作品の特徴のひとつとして「ヒロインの魅力」があります。
社主も男である以上、作中に登場する野郎どもよりヒロインに目が行ってしまうのですが、どうにも自分の趣味に偏りがあるのか、見た目は美人なのに性格に難がある“残念美人”が出てくる作品ばかり取り上げてしまいます。
かつて残念美人の魅力について友人に力説したものの、「いくら美人でも性格が残念な人とは付き合いたくないわー」などとあっさり返された挙句、「何でや! 美人なうえに性格まで良かったら何もおもしろくないやろ! 帰る!」と逆ギレしたこともある社主ですが、今回はそんな社主でもちょっとご遠慮するタイプのヒロインが登場するマンガをご紹介。
マッグガーデンのWebコミック「Beat's」にて2014年11月まで連載されていた、麦盛なぎ先生のレトロサスペンス「死神ナースののさんの厄災」(全2巻)です。先月完結巻となる第2巻が発売されました。まずは簡単にあらすじから。
舞台は昭和初期のサナトリウム
舞台となるのは昭和初期、国内屈指の巨大結核保養院「命幸院」。この命幸院で看護婦として勤める野ノ崎ののは、自身の担当する患者ばかりが相次いで1カ月以内に死ぬことから「死神看護婦」とうわさされ、患者だけでなく同僚からも忌み嫌われる存在になっていました。
担当患者のいない日が続いた彼女でしたが、ある日、隔離病棟に入院している12歳の少年・左桂鶫(ツグミ)の世話を命じられます。その特異な症状のため「日暮れ前に必ず四肢を拘束して睡眠薬を打つこと」が条件になっているツグミ。病棟に案内されたののは彼の姿を見て絶句します。その顔はかつて死なせてしまった弟・時雄に瓜二つだったのです。
見た目は弟にそっくりなものの、中身は幼児のように甘えん坊なツグミ。ののもまたそんなツグミに亡き弟の姿を重ね合わせながら世話をしていました。
しかしその世話にも慣れてきたある夕方、いつものようにののが日没前の注射を打とうとしたところ、ツグミは突然血を吐き、苦しみだします。
「やはりあの女は死神なんだわ」
吐血の原因は誰かが食事に盛ったヒ素による中毒。幸いツグミは一命を取り留めたものの、「死神看護婦再び」となる事件に、ののの関与が疑われます。
まもなく意識を取り戻したツグミ。しかし突然彼はこれまでとは全く違うはっきりとした口調で「これまでの患者が死んだ日近辺の物品購入記録を見てきてほしい」と彼女に告げます。そしてそこで判明する「自分の担当患者の死の前日には必ず血痰壺が納品されていた」という事実。
誰がいったい何のために彼女を陥れようとしたのか――。推理ものをネタバレしてしまうと、おもしろくないので、解決編は実際に読んで確かめてみてください。
ただの「おねショタ」にとどまらない二面性
さて、このように推理サスペンスの様相を帯びる物語序盤ですが、中盤以降はサイコサスペンス的展開に。ののに瓜二つの“男”雲雀(ヒバリ)の出現に始まる、物語の土台そのものが次々と覆っていく感覚はなかなかにスリリングでした。社主が子どもの頃に見たサスペンスドラマに「沙粧妙子 -最後の事件-」(フジテレビ系/1995年)という傑作があるのですが、読み手の裏の裏を行く「死神ナース」の結末はかのドラマを思わせる美しさを持っています。
そして何より作品を印象付けているのはのの&ツグミの魅力に他なりません。前作「17歳℃」(全1巻/マッグガーデン)では関西弁のヒロイン・黒川なつきの色気と暴力を併せ持つ危うい魅力が際立っていましたが、本作の死神看護婦・野ノ崎ののもまた前作と同じく、1人の人格の中にマゾっ気とサドっ気の両極が存在し、なおかつ一人称が「僕」という、いわゆる「ボクっ娘」属性があるフェチにフェチを重ね合わせたような女性。
またもう一方のツグミも幼児のような昼の顔とは別人格の「夜の顔」を持つ少年。普段はののに絵本を読んでもらったり、子どもであるのをいいことにラッキースケベを画策するような「おねショタ」関係なのに、覚醒後のツグミとの間ではその関係が対等・逆転する被虐/嗜虐の描写もまた見どころです。
「サイコサスペンス」かつ「ボクっ娘」かつ「おねショタ」かつ「昭和初期のサナトリウム」というオカルトめいた舞台設定――。本作は読み手を選ぶ要素を何重にも重ねた「ゾーンは超狭いけど、入れば必ずクリティカルヒット」という毒針の一刺しのような魅力を備えています。冒頭「ちょっとご遠慮したいタイプのヒロイン」と書きましたが、作品全体が持つ雰囲気としては社主にとってクリティカルヒットでした。
それにしても、本作「死神ナース」もそうですが、以前紹介した「少女終末旅行」(つくみず)や「メイドインアビス」(つくしあきひと)などのように、初出がウェブ媒体というマンガが最近急激に増えてきました。「デスゲームマンガ」「漫画家マンガ」「食べ物マンガ」というように一般マンガの世界にも時代時代ごとに流行りのジャンルがあるのですが、そういう主流とは一線を画した個性的な作品を発表する場として、今後ウェブコミック発の単行本がさらに活発になっていくのではないかな、と社主は考えています。
スマホの大型化とともにコミックアプリに人気が集まりつつある昨今、大手出版社も本格的にウェブコミックに力を入れ始めてきました。それに伴って本作のような毒針マンガが増えていくかと思うと、マンガ界の未来が楽しみでなりません。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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