ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
昨年1年間のマンガ生活を振り返ってみると、昨年ここで1位に挙げた、つくしあきひと先生の「メイドインアビス」(竹書房)3巻の帯に、この「ランクインしなかったけどすごい!1位」の文字が踊ることになって恐縮したのを皮切りに、夏には岩岡ヒサエ先生、田中相先生のおふたりにインタビューさせてもらうなど、誤報による地下牢監禁とおやつ抜きのペナルティを打ち消して余りある充実ぶりでした。
さて、2016年最初の本連載は、マンガ界ではもっとも影響力を持つ「このマンガがすごい!2016」(宝島社)の<オトコ編><オンナ編>にランクインした計100作品には含まれていないマンガの中から、社主が「これはぜひぜひ読んでみてほしい!」とおすすめする作品10本を紹介する特別企画「『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい!2016」をお届けします。
「いつ連載が終わるか分からないので、とりあえず詰め込めるだけ詰め込むか!」と始めたこの企画ですが、おかげさまで今年で3年目。いつもご愛読ありがとうございます。
ちなみに今年の「このマンガ〜」では、九井諒子先生の「ダンジョン飯」(KADOKAWA)と、ふじた先生の「ヲタクに恋は難しい」(一迅社)がそれぞれ1位に選出。密かに「ダンジョン飯」を1位にしようと企んでいた社主ですが、世のマンガフリークがこの傑作を見逃すはずがなく、この結果には「異議なし!」としか言えません。
毎年書いてますが、やはり「このマンガ〜」の上位に入る作品はまず間違いなくおもしろいです。そしてまたこれも毎年書いているように、この企画は本家「このマンガ〜」に異議を唱えたいのではなく、社主個人が愛する良作を補完的に推薦するものだということを、あらかじめご理解くださいませ。
というわけで、これから上位10作品を紹介していくわけですが、特に今年は「年内で完結した作品」と「1巻で完結する作品」を中心に選びました。
理由はいくつかありますが、まず連載継続中の作品はこれから紹介する機会が残っていること、そしてもう1つは――こちらの方が重要なのですが――、マンガ好きの多くが経験するであろう「最初はおもしろかったけど……ムニャムニャ」や「買い始めたはいいけど、これいつまで続くんだ」という不安を除きたいという思いから。今日これを読んだ後、本屋に買いに走ったり、電子書籍をポチったりしても、心残りなく読み終えてぐっすり寝られる――、そんな満足度の高い作品であることも重視しました。
というわけで、お待たせしました。第1位から発表です!
今年のベストには「月刊コミック@バンチ」(新潮社)から、灰原薬先生の平安クライムサスペンス「応天の門」(〜4巻、以下続刊)を選びました。
1巻を読んだ段階で、「この完成度の高さならわざわざ取り上げる必要もないだろう」と、昨年紹介を見送ったところ、なぜか今年も入っていなかったので、「もう待てない!」としびれを切らした次第です。今年の「このマンガ〜」では、社会学者の古市憲寿先生と書店員さんがランキングに入れておられましたが、しかしひょっとすると、選者のマンガ読みの人たちも同じように「自分が紹介しなくても他の誰かが……」と考えて、「遠慮のかたまり」と化した結果なのかもしれません。
本作の主人公は、後に学問の神様と呼ばれる文章生・菅原道真と、「伊勢物語」の主人公として有名な、女好きの有力貴族・在原業平。学校の縦割り授業ではまるで別世界の人物であるかのように扱われる同時代の2人がコンビを組んで、京の都で次々起こる怪事件を解決していきます。
物忌(ものいみ)や方違えといった怨霊・言霊信仰の時代にあって、それら怨霊、物の怪を「ありえない」「ばかばかしい」と徹底して切り捨てる現代人的感性を持った道真と、学問しか知らず頭でっかちになりがちな道真に、政治の現実を突きつける業平とのアンバランスでユーモラスな掛け合いも見どころ。
また、最初から最後まで完全なフィクションではなく、事件を解決していく過程で、後に摂関家として栄華を誇ることになる藤原氏一族によって、伏魔殿と化した宮中の様子も描いています。史実として、道真と藤原氏のその後を知る人なら、この先ストーリーがどのように進んでいくのか一層わくわくできるのではないでしょうか。
取り立てて歴史マンガが好きというわけでもなく、むしろ学生時代、ひたすら単語の暗記ばかりさせられたせいで、歴史への苦手意識が強い社主ですが、だからこそ本作のように歴史のおもしろさを味わわせてくれるマンガは、それだけですごくありがたい。2年前にはD・キッサン先生の平安貴族コメディ「千歳ヲチコチ」(一迅社)を選びましたが、それと同じく、史実を正確になぞるよりはエンターテインメントとして楽しめる作風の方が好みです。本作は連載継続中ですが、素晴らしい完結に向かっていることはまず間違いないでしょう。
なお余談ではありますが、ストーリーの合間に挟まれる、本作監修の東京大学・本郷和人先生のコラムも毎回おもしろいです。それによると、平安時代の成人男性にとって烏帽子を取った姿を見られるのはチン○を見られるか、それ以上に恥ずかしいことだったそうですよ。
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続いて第2位は「月刊コミックゼノン」(徳間書店)より、大久保圭先生の「アルテ」(〜4巻、以下続刊)です。
舞台は16世紀初頭のイタリア・フィレンツェ。貴族出身の少女・アルテは画家を志し、弟子入りするために工房を回るも、女であることを理由にその望みはことごとく拒まれます。あまりにひどい門前払いに「そんなに言うなら…――/もう女捨ててやるわよ!」と、公衆の面前でその長い髪をバッサリと切り捨てるという、驚きの行動に出たアルテ。そしてそんな彼女を押し付けられるように引き取った寡黙で強面の親方・レオ。
何とかレオに弟子入りを許されたアルテですが、彼女を待つのは厳しい修行生活と、行く先々で「女だから」「貴族出身だから」と立ちはだかる世間の壁。しかしそれをものともせず、画家になる夢を追いかけて奮闘する彼女の内からは、誰もが惹きつけられる強さがにじみ出ています。
近ごろニュースなどを見ていると、「女性の活躍」が何だか流行りのテーマっぽくありますが、本作を読んでも、「女なのにすごい」「女だけどがんばってる」という、女の自立を称賛するような気持ちにはなりません。もちろん16世紀という時代の壁、身分の壁、性の壁という、今以上に厳しい条件の中で、画家を目指していくのは並大抵の努力で成し遂げられることではないでしょう。けれど、社主が心打たれるのはそういう価値観のハードルを乗り越えようとする女・アルテの姿より、それ以前に一人の人間として何事にも全力で打ち込むそのひたむきさです。
それはちょうど、コルティジャーナ(高級娼婦)・ヴェロニカの家に呼ばれたアルテが、教養ある彼女を「職業で尊敬しているのはなく、あなたの努力を尊敬してしまうんです」とまっすぐな眼差しで述べた気持ちと変わりません。そもそも画家という職業自体、本来は男も女も関係ない実力主義の世界なわけで、フェミニズムがどうたらこうたらというレベルではなく、常に前に向かっていく彼女のエネルギーそのものに惚れてしまうのです。
最新4巻では、舞台がフィレンツェから新天地・ヴェネツィアへ。これもまた続きが待ち遠しいマンガの1つです。
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