インタビュー
» 2018年03月09日 11時00分 公開

「何者なのか分からないものが面白い」 たばこのふりをしてトランプを売る「うそのたばこ店」潜入レポート

スカイツリーの足元に、うそと本当のあわいの店あり。名を「うそのたばこ店」という。

[Bee,ねとらぼ]
うそのたばこ店 「うそのたばこ店」とは?

 東京「新」名所と呼ばれて久しいスカイツリー、平日も国内外のお客さんで賑わっています。2018年某日の金曜日19時、この青く輝く塔の下にやってきました。


スカイツリー

 今日の目的地はスカイツリーから徒歩3分のところにあるカフェです。とはいっても、お茶を飲みに来たのではありません。金曜日にだけ現れるという、蜃気楼のような「うそのたばこ店」が目的です。

 昨年末、Twitterを中心に不思議な店の話が、タイムラインに流れるようになりました。毎週金曜日だけ、たばこを販売するようにトランプを売る店があるというのです。名前は「うそのたばこ店」。しかも、トランプを売るだけではなく、カフェとしても営業しているとか。

 手品を愛好している身としては見逃せません。というわけで、興味本位で行ってみることにしたのですが、想像以上に面白い場所でした。

ライター:Bee

アラフォーの手品愛好家。手品道具や手品資料を買うのが趣味だが、手品を演じるのはそれほど好きではない。手品歴大体15年。

Twitter:@small_magician

ブログ:Small Magician MINI



うそのたばこ店? アウラ舎?

 お邪魔したのは19時ジャスト、お店は既に超満員。10人も入ればいっぱいというスペースに、20人近いお客さんが。そして、全員がトランプやコインなどを触っています。全員がマジシャンかと思いきや、中にはカーディストリー(トランプをジャグリングのように扱う技術や、その技術をもったひとたち)も。もともと、マジックとカーディストリーの相性は良くて、両方を兼ねるひともいます。入店率200%のマジシャン&カーディストリーです。

 ひとまず、店主の大川原さんにお話を伺うことにしました。

――初めまして。大盛況ですね。

【川】 ここではお話も難しいので、2階へ行きましょう。

 というわけで、2階に上がってみたところ、そこは……


2階のアトリエ

――ここは……? 倉庫というわけではなさそうですね。

【川】 暗室とアトリエです。

 そう、うそのたばこ店さん、金曜日以外はどうなってるのかと思ったら、ほかの日は、「寫眞(写真)喫茶アウラ舎」として営業しているのです(火・水は休業)。アウラ舎自体のオーナーは大島さん、そして金曜日だけは大川原さんがうそのたばこ店マスターとして店に立つとのことです。


大川原さん(左)と大島さん(右)

 わたしは知らなかったのですが、アウラ舎さんは、レトロカメラの界隈ではかなり知られたお店でした。

――アウラ舎さんはいつからの営業ですか?

【島】 そろそろ2年ぐらいですね。

【川】 ぼくはカメラが趣味というわけではないのですが、カフェとしてこのお店に通っていたんです。

――寫眞喫茶が、どうしてトランプを売ることに?

【川】 ぼくはもともと、仮面屋を営んでるんですが……

――仮面屋???

 大川原さん、仮面を専門に販売する「仮面屋 おもて」という店の店主でした。しかも、ねとらぼでも既に記事になってます。仮面を専門に販売するお店は、おそらく国内では大川原さんのところだけとのこと。

【川】 「たばこを売る什器にトランプを入れたらかわいいんじゃないかな」って思って、大島さんに話をしてみたんですよ。

【島】 それで、よかったらうちでやってみる? ってことになって。

 せっかくなので、アウラ舎さんの設備を見せてもらうことにしました。



――なんていうか、ガジェット萌え感を刺激されますね。

【島】 これはライツ社、もともとライカのカメラを作っていたメーカーの機具です。部屋の電気を落とすと……


部屋が……
暗室に

――あ、映画で見たことありますね! こういうの。

 暗室に入る、という経験自体が初めてでした。ほんのり酸っぱいにおいがするのは、現像に使う酢酸のものだそうです。アウラ舎さんは、1階はカフェ、2階は時間貸しの暗室で、暗室は最大2名が利用できるとのこと。確かに、1階もよくみると、カメラ推しのディスプレイです。


1階のディスプレイ

うそだけど、本当

 あらためて、大川原さんにうそのたばこ店についてのお話を伺いました。

――大川原さんは、本業は仮面を売っていて、うそのたばこ店はまた別のお仕事ということでしょうか? まったく関わりがないようにも思えますが。

【川】 仮面って、仮装のために使うひともいれば、コレクションとして集めるひともいます。仮面を売るって、ファンタジーっぽくて、その「できごと」自体が好きです。ぼくはトランプを売ってますけど、トランプのコレクターではありません。でも、トランプをたばこのふりをして売る、うそだとあからさまに提示した上でトランプを売る、という行為を楽しんでいます。どちらも本当っぽくないけど現実、という意味では、共通点がありますね。


大河原さんがやっているもう1つの店舗「仮面屋おもて」

――トランプを売ることは本当だけど、そこに「たばこを売るように装う」という「うそ」を持ち込んで演出する、ということでしょうか?

【川】 お客さんが「うそだけど本当」を楽しんでくれるのを期待しています。ぼくはもともと舞踏や演劇を研究していて、サーカスの文化、特にクラウン(道化)をテーマにしていたのですが、仮面にせよクラウンにせよ、境界にあるものに興味があります。どこにいるのか、何者なのか分からないものが面白いと思っています。

 「仮面屋」というのは「何者か分からないけど、ここに存在するもの」という立ち位置です。ぼくは仕事で企業や教育現場に行くこともあるんですが、そこに「仮面屋」がいたら、なんだかよく分からないでしょう?

 ただ、メディアの取材なんかを受けて消費されて、陳腐化している感じもあります。

――そうすると、「うそのたばこ店」は、「仮面屋」に変わるような立ち位置ということですか?

【川】 そういう面もあります。


増殖する「うそのたばこ店」と収益化

――気になってるのは、「これって、商売として成り立つの?」ということなんですが……

【川】 実は、「うそのたばこ」を売ってるのは、ここだけではありません。ほかにも5店舗、業態は雑貨店や飲食店などいろいろなところで、店の雰囲気に合わせてトランプを置いてもらってます。100店舗を目指しているところです。

――じゃあ、委託でトランプを置く、チェーン店みたいなものということですね。富山の薬売りみたいな。

【川】 わたしたちがその店に行ってディスプレイのアートディレクションをして、あわせてカードゲームを教えたり、マジックをしたりといったイベントを組んでいます。さらに、異業種の店舗同士のコミュニケーションをはかって、店舗間でお客さんが行き来したり……といったゆるいコミュニティを目指しています。現在、店舗募集中です。

――「わたしたち」……? 大川原さんだけじゃないんですか?

【川】 3月に法人登記しました。会社名は「株式会社うその」です。最初は「うその株式会社」にしようかとも思ったんですが、ネタをずっと引っ張るのもしんどいので。


「オフ会会場、みたいな気持ち」

 大川原さんとのお話を終えたあと、お客さんにも話を聞くことにしました。21時の時点で8人ほどのお客さんが残っていたので、「このお店は初めて、というひとは?」と聞くと、4人の手が挙がりました。どこから来たのか聞いてみると、都内や千葉のほか、静岡からの出張帰り、というひとも。年齢層は10代後半から20代、男性だけでなく女性の姿もありました。



 お客さんの1人に、手品を見せてもらいました。



 話を聞くとこのお客さんは、「ねすもあ」の名前で自分の創作した手品を解説したDVDも販売されているとのこと。というか、わたしも名前を知ってました。このタイミングで本人に会うとは思ってませんでした。

 お客さんたちに、どうしてこの店に集まるのか聞いてみると、「最初はトランプを売ってる店、っていうイメージで来てたけど、何回か来てるうちに、マジシャンとかカーディストリーの集まるオフ会会場、みたいな気持ちになってきた」との声が。

 さらに聞いてみると、周囲にマジックを趣味にしているひとがあまりいない、という声が。確かに、わたしのまわりにもいません。手品に限らず、マイナージャンルの趣味の場合、似たようなケースは多いでしょう。それが週に1度、同じ年齢層で同じような趣味の人間が気軽に集まれる場所があったら、確かに足しげく通うだろうなあ、と思いました。事実、初めて来たというお客さんに「また来たいと思いますか?」と尋ねてみたところ、「来週も来たい」という返事がありました。

 スカイツリーのたもとにある「うそのたばこ店」は、売り物は「たばこのようにディスプレイされたトランプ」だと聞いていましたが、行き場を求める若いひとたちの場所でもあったようです。蜃気楼というよりは、壺中天――壺の中の別世界――ですね。


うそのたばこ店(金曜のみ営業)

寫眞喫茶アウラ舎(火・水定休)


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