「キャラクターをどうやって三次元に連れてくるか」 BANDAI SPIRITSが挑む、次元を超えた“変態技術”(後編)(4/5 ページ)
山上:通常のキットなら、設計担当者も金型担当者も、なんとなくこれまでの経験則で「ここにこれだけゲートがあればこう流れるだろう」という予想はつくんですけど、今回は全くやったことがない構造だったので、みんなの期待を悪い意味で裏切る結果ばかり出ましたね……。
西村:金型に樹脂を流して、何秒か待って、冷えて固まったら完成なんですけど、パーツが巨大すぎて冷えるまで何秒かかるのかも分からないんですよ。普通のガンプラなら大体目安があるんですけど、これだけパーツが厚いと全然分からない。だから樹脂を流す時間、流す温度、冷やす時間というのを何度も調整してやっとここまでたどり着きました。
山上:肌の赤みの表現に目が行きがちですけど、そもそもこの厚みの物を成形するということ自体が割と珍しいんですよ。これだけ厚いと、冷える時に縮みますし。そこも調整が必要でしたね。
――こんなプラスチックの塊みたいな部品、普通は作らないですよね。
西村:少なくともプラスチックモデルで抜くことはないですね。普通だったら塩ビとか使いますから。一回下地のオレンジの部分を打ったあと、もう一回それが溶けるほどの温度の肌色のプラスチックを流さなきゃいけないんで、それでまた形がずれてしまうという……。
――そっか。下のプラスチックがずれたり溶けたりしちゃうんですね、これ。
西村:全部じゃないけど、若干溶けてます。下地のオレンジの上に肌用のプラスチックを流し込むと、どこかに溶けやすい位置と溶けにくい位置が発生して、それによってオレンジの部分がどれくらい溶けるかが変わってくる。
山上:でも、オレンジの部分のゲートはこの脚の内側の位置にしか作れないという制限もあるわけです。目立っちゃうので。
西村:成形についてご存じであればご存じであるほど、いかに気の遠い作業か分かっていただけるかと……。
――さぞかし大変だったろうとは思っていましたが、そこまでとは……。
山上:本番用の型ができるっていわれた、その予定日から2週間くらい調整し続けましたからね。何回データを直したことか……。もう、樹脂が誰も想像していない動き方をするんですよ。顔とかでも、下から赤みが透けているということは、ピンクの層と金属の型の間の間隔がものすごく狭くなるわけです。で、そこに樹脂を流し込むためには、高温の樹脂を普通より高圧で押し込まないといけないんです。
西村:それだけの高圧をかけると、下地の層が完全に溶けちゃったりとか、下地の部分が大きくずれてオレンジの部分が外に出てきちゃったりとか、そういう事故が起きます。金属と金属の間にプラスチックを流すならノウハウはたくさんあるんですけど、金属とプラスチックの間にプラスチックを流し込むとなると全然分からないので……。
――話を聞いてるだけでゲンナリしてきました……。
山上:これ、打ち始めと量産したあとで樹脂の流れ方にブレがないか見ないといけないんですよ。だから最初に抜いたやつと30個めと50個めと……というふうにサンプルをたくさんもってきて、それをおっさん5〜6人が眺め回すわけです。フミナ先輩の脚を。で、一回切断して断面にどう樹脂が流れたかを見ないといけないんですね。だからフミナ先輩の脚をぶつ切りにしたものをみんなで眺め回していることになってしまって「この光景はやばいな……」と思ってました(笑)。
――単純に考えて、これ脚も胴体もムク(※)だから使ってるプラスチックってすごく多いですよね?
※ムク:中空ではなく、中身まで樹脂が詰まっている状態。通常は外側部分のみをパーツにするところだが、フミナ先輩はインサートした下地を透けさせる必要があったため、胴体も脚も樹脂で埋める必要があった
西村:そうなんです……。だから持ってもらうと分かるんですけど、このキットって重いんですよ! だから樹脂量もかかるわ加工費はすごいわで、お金はかかってますよ。胴体と脚以外の部分も、普通のガンプラでは考えられないような樹脂量でパーツの厚みをつけてるんで。
山上:間違えたのかなってくらい重いですよね。僕ら自身も作ってる途中に素でびっくりしてました。
西村:正直ちょっと引いてました。
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