全人類がプリキュアになった日 「HUGっと!プリキュア」が示した「こうでなければならない」からの脱却:サラリーマン、プリキュアを語る(1/3 ページ)
この記事は最終回1話前の第48話の時点で書いています。
全人類がプリキュアになった日
2018年1月20日。その日、全人類はプリキュアになりました。
「HUGっと!プリキュア」第48話「なんでもできる!なんでもなれる!フレフレわたし!」において、男子も女子も、大人も子どもも、お父さんお母さんも、おばあちゃんまで、老若男女問わず全人類がプリキュアになりました。
作中で、ピンチに陥ったプリキュアを応援し、そしてプリキュアからの力(アスパワワ)を受け取った仲間たち全員が正真正銘「変身して」プリキュアとなり、全員大集合で最後の決め技を放ったのです。
そう、ついに「女の子は誰だってプリキュアになれる」から「人類は誰だってプリキュアになれる」に至ったのです。もはや「プリキュアは今、何人いるのか?」の議論は無意味になりました。だってプリキュアは地球人だけでも70億人はいることになったのですから。
かつて「映画プリキュアオールスターズNewStage」において「女の子は誰だってプリキュアになれる」が提示されたとき、同時に「男の子はプリキュアになれない」という呪いが発生しました。2018年末に「初の男の子プリキュア、キュアアンフィニ」が誕生した際には「ただし、変身できるのはイケメンに限る」「ジェンダーレス男子が変身しただけで、キモくて金のないおっさんは変身できない」と一部で揶揄(やゆ)されました。
しかし今回ついに性別も、年齢も、そしてルッキズムをも超越し、全ての人がプリキュアになることができたのです。
(※ちなみに、もともとの「女の子は誰だってプリキュアになれる」は前提として「友達を守りたい。そんな優しい心があれば」が付いています。今回の「全人類がプリキュアになる」も前提として「誰かを応援したい気持ち」があったからなのです。決してタダでプリキュアになれるわけではないのです)。
kasumi プロフィール
プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。
- これまでのプリキュア連載一覧
1人では世界を救えない
「HUGっと!プリキュア」では、その作品のテーマの1つとして「子育て」「育児と仕事の両立」があります。作中では赤ちゃんを育てるプリキュア=ママとして描かれてきました。
つまり、今回「全人類がプリキュアになった」ということは老若男女関係なく、全ての人が「ママという概念」になった、ということです。
そして今作では放送開始当初から一貫して「ワンオペ育児」を否定していました。今回のラスボス、ジョージ・クライは、誰にも頼らずにたった1人で世界を救おうとしていました(時を止めるという間違った方法ではありましたが世界を救おうとしていたのは事実ですよね)。
それに対し、プリキュアは「仲間と一緒に歩んでいく」道を選択します。
キュアエールは第48話の中で、ジョージ・クライの「なぜ戦う?」という問いに対し唐突にこんなことを言います。
「赤ちゃんはみんなで育てるの! 1人じゃ未来は育めない!」。
どんなにつらいことがあったって、プリキュアは諦めない。みんなと一緒に未来を育んでいく。プリキュアたちの出した結論は、ジョージ・クライを改心させるまでに至りました。
子どもを育てるのはいち個人では限界がある。だからこそ「みんながプリキュアになって」社会全体で育てていくのだ、という着地点を迎えたのは「HUGっと!プリキュア」と言う作品にとって最高の結末だったのではないかと思います。
「HUGっと!プリキュア」開始前にあった批判
実は「HUGっと!プリキュア」の放送開始前には「子育てを母親に押し付けている」「子育ては母親がするべき、という旧世代的な価値観を子どもに植え付けるのでは?」といった批判も起きていました。
しかし、いざ放送が始まれば、「HUGっと!プリキュア」という作品は「ワンオペ育児を否定し、子どもは、社会みんなで育てていくもの」という提起を、今の子どもたち、そして一緒に見ている大人たちへと伝えたのです。
「お母さんの負担が大きいから子どもを作るのをやめよう(=未来を止めよう)」ではなく、「お母さんの負担が大きいから、社会みんなで育児をしよう(=未来を進めよう)」と提示しました。
そして同時に「子どもを持つことだけが女性の幸せではなく、それを選択できる世の中にしていく必要もある」と定義しました(関連記事:「子どもを持つことだけが、女性の幸せではない」を描いていく「HUGっと!プリキュア」のすごさ)。
つまりは「育児は社会全体で行えば良いし、子どもを生まない生き方だって良いし、それを選ぶのは周りではなく、個人である」と位置付けた作品だったのです。
第48話に、野乃はなのこんなセリフがあります。
「私には何もないと思ってた」「なんでプリキュアになれたんだろうって」。
「けど違った。超イケてる大人なお姉さん。わたしのなりたいわたし」。
「それは誰でもない。自分で決めることだったんだなって」。
野乃はなは、なぜ自分がプリキュアに「なれた」のか、自問していました。しかし野乃はなはプリキュアに「なれた」のではなく、自ら選択しプリキュアに「なった」ことに気付いたのです。
「選択できる」ということ
良い方向に進んでいるとはいえ、世の中には女性への差別、男性への差別、LGBとTの差別や偏見がいまだに存在しています。その主な足かせは「選択する自由が限られる」ことであると自分は思っています。
自分が選択したのであれば「かわいい服を着る」ことも「子を生まずに生きること」も「働くこと」も「育児と仕事を両立すること」も「専業主夫になること」も、「1人での育児は無理なので誰かに頼ること」も問題なく、社会は個人を支え、同時に個人は社会の一員として誰かを助けて生きていく。社会を作っていくこともまた、個人の役割であるのです。
「HUGっと!プリキュア」の最大の決め技のセリフは「ワン・フォー・オール! オール・フォー・ワン! ウィーアー! プリキュア! 明日にエールを!」でした。
まさに、「社会はみんなで作り上げていくものである」を体現した「HUGっと!プリキュア」にふさわしい素晴らしい決め技だったのだと思います。
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