
ローソンのあきこちゃんと言えば、「ローソンTwitter店勤務」という設定の公式キャラだが、もう1人のあきこちゃんも忘れてはならない。同社CSV広告販促企画部アシスタントマネージャーの白井明子さん。「新世紀エヴァンゲリオン」「けいおん!」「魔法少女まどか☆マギカ」とのコラボなど、同社のヒットキャンペーンを手掛ける張本人だ。
同社のキャンペーンはアニメファンからの注目度が高く、「けいおん!」との2回目のコラボをスタートした際は、Twitterで「ローソン」とつぶやかれる数が普段の10倍になったほど。「『ローソンはどこへ向かうんだ』とか言われてまして」と、白井さんは笑う。
「Twitter」「Facebook」「foursquare」など数々の人気Webサービスを使って、全方位なネットキャンペーンを仕掛けているのも、白井さんの仕事だ。ほかのコンビニとは一味違う「ローソンクオリティ」なキャンペーンがどこから生まれるのか、Webとエンタメの達人である白井さんに聞いてみよう。
「おっかなびっくり」だったTwitter

同社の広告販促企画部は総勢30人。「Ponta」「商品力強化」などのチームに分かれており、白井さんはもともと「エンタメ強化」の担当だった。エンタメといってもいわゆる萌えアニメとの関わりは薄く、ゆるキャラ「リラックマ」を使ったキャンペーンなどを手掛けていた。ネットには詳しくなく、2ちゃんねるやニコニコ動画は「怖い」とすら思っていたという。
白井さんがエンタメに加え、Webマーケティングも担当するようになったのは2010年。少し前からTwitterが流行しており、同社はその年からWebを強化する方針を掲げていた。目的は店舗への送客で、まずはあきこちゃんのTwitter「@akiko_lawson」を「おっかなびっくり」開始。あらかじめつぶやきの原稿を1週間分用意し、十数人でチェックした上で投稿していたという。

@akiko_lawsonは10万人以上にフォローされる人気アカウントに。白井さんは「Webはリアルなものより先行優位がものすごく働く」と感じたという。その後も、Facebookでクーポンを配信したり、こえ部であきこちゃんの声優を募集したりと、人気のWebサービスをとことん活用。mixiページといった新しいサービスにもすかさず対応していった。
今ではネットに強い企業というイメージすらある同社。アジャイルメディア・ネットワークが日本の大企業約300社を対象に調査し、ランキングで発表している「ソーシャルメディア活用企業トップ50」では、日本コカ・コーラ、サントリーホールディングスに続き3位に入った。現在同社が公式アカウントを開設しているWebサービスは16媒体に上る。
アニメキャンペーンの影の立役者? ローソンの“有識者会議”

このようにソーシャルメディアで獲得したファンに向けて白井さんが次に打ち出したのが、一連のアニメとのコラボだ。Twitterで人気のハッシュタグにアニメ関連のものが多かったことなどから、ソーシャルメディアのユーザーとアニメの親和性は高いと判断した。
とはいえアニメにはさまざまなジャンルがある。白井さんは、社内でアニメ好きの人々と非公開のFacebookグループ――有識者会議と呼んでいる――を組み、情報交換。コア層向けか一般向けかなど、作品のポジションが分かるシートを作り、ネットユーザーにウケそうな作品を日夜研究している。
コア層向け作品をさらに分解し、キャラの特徴をマッピングしたシートも作成している。この2つのシートを見れば、作品がどんな内容でどのような層に受けているのか、ほかと比べながら理解できるというわけ。白井さんは、アニメに詳しくない上司を説得するにも、このシートを活用しているそうだ。
そんな努力の甲斐あって、まずコラボすることになったのは「新世紀エヴァンゲリオン」だ。期間限定のタイアップ商品を販売したり、箱根にある店舗を丸ごとエヴァ一色に装飾する“コンビニジャック”を展開したりした。箱根のエヴァコンビニには1日で通常の5倍近い5600人が来店し、大混雑に。周辺の道路が渋滞したり、深夜の騒音が問題となったため、3日で中止せざるを得ないという残念な結果に終わったが、キャンペーン自体は大いに話題になった。
「新世紀エヴァンゲリオン」に続くアニメキャンペーンを考えていたとき、白井さんが出会ったのが「けいおん!」。アニメに詳しい社員に「絶対これイケる!」とすすめられコラボを決めた。キャンペーンの内容は、対象の商品を買うとクリアファイルがもらえたり、オリジナルグッズが当たるというもの。キャンペーンが0時にスタートすると、深夜にも関わらず店舗はアニメファンで賑わい、当時の同社のタイアップ企画で過去最高の売り上げを記録した。白井さんは、店舗にスライディングする勢いでなだれ込んでくる客を目撃したことがあるという。
「けいおん!」キャンペーンは第2弾を今年5月に、第3弾を今年11月に実施した。第3弾初日の同社のWebサイトのページビューは、約7割が「けいおん!」フェアのページで占められた。店舗を丸ごと「けいおん!」仕様に装飾する試みも実施。“エヴァコンビニ”の失敗を反省して、事前告知は一切せず、深夜から装飾を始めたが、ファンの口コミや当日のニュース記事で広がり、翌朝には店頭に行列ができていた。ネットではローソン限定グッズを手に入れるために、対象商品を買い漁るファンの姿も報告されている。

同社がアニメとのコラボを次々に展開できるにはいくつかわけがある。1つは、本や雑誌、DVDといったエンタメ系商材を店舗やネットなどあらゆるチャネルで購入できるようにする「エンタメ360度」という構想を掲げ、力を入れていること。もう1つは、三鷹の森ジブリ美術館のチケット販売などアニメキャンペーンの実績があること。さらに、47都道府県すべてに店舗を展開していることが、アニメの制作サイドから評価が高いと白井さんは語る。
次はソーシャルメディアで主婦もターゲットに
現在のローソンの客層はM1層(20〜34歳男性)が中心だ。ソーシャルメディアとアニメを使ったキャンペーンでもおもな対象はM1層となっている。だがローソン全体としては女性客の拡大を課題に挙げており、テレビCMでは「ウチカフェスイーツ」など女性に受けそうな商品を訴求している。ソーシャルメディアでも今後は女性に向けたキャンペーンを打ち出していく計画だ。「GREEやMobageには地方に住んでいる女性ユーザーが多いと聞いているので、主婦などが来店する動線をソーシャルメディアで作りたいと思っている」と白井さんは語る。
ミニストップが「侵略!イカ娘」とコラボしたキャンペーンを展開したり、ファミリーマートが「ベン・トー」のオリジナルグッズを販売したりと、ほかのコンビニ各社もアニメへの歩み寄りを強めている。もちろん白井さんも手を緩めるつもりはない。「『ローソンは分かってるな』と言われるのが最高の賛辞ですから」――次の仕掛けにも期待したい。
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