
「けつぴたし」している筆者
卵形の石にお尻を突き出しながら痔の平癒を願う奇祭「じかたまじない」が、6月29日に栃木県茂木町の国神神社で開かれた。
毎日のようにPC作業で長時間座っていたぼくは、4月にとうとう痔になってしまった。日ごろから奇祭に興味があったので、まさかあるわけないだろうと「奇祭 痔」とGoogle検索にかけたところ、この「じかたまじない」を発見。お祈り方法がなんともユニークだったので、暗いイメージの痔を楽しく治せるならと参加してきた。

「じかたまじない」の開催地・国神神社。ほぼ茨城県との県境にあり、都心から車で片道約4時間……痔にはつらい道のりだぞ
痔の御利益がある神社は日本でここだけ!
「じかたまじない」は、毎年旧暦6月1日(むけっついたち≒無血致し)に仕事を休んで川でお尻を清め、国神神社に捧げた卵を食べて痔を治そうと祈る、茂木町山内下平地区の伝統行事だ。いつ始まったのか記録はなく、「じかたまじない保存会」事務局長・大久保正義さんが生まれた78年前にはすでにあったらしい。大久保さんが把握する限り、痔のご利益を願う神社は国内で国神神社のみらしく、大変めずらしい行事だそうだ。


国神神社は針葉樹林に囲まれた、非常にスピリチュアルな空間


伝統に習って、まずはみなさん卵を本殿にお供え
もとは栃木の県民手帳に記され、毎年観光バスが2台も来るほどにぎわった行事だったが、1988年に神社が対応しきれなくなり一度は途絶えてしまう。寂しく思った大久保さんら地元の人が保存会を結成し、2012年にめでたく復活。ぼくたちが体験できるのは、復活と同時にリニューアルした新しい「じかたまじない」となる。
そこで生まれた儀式が「けつぴたしの儀」だ。あいさつを終えた宮司さんが、みんなの前でデモンストレーションを始めた。

復活の折、新たに作られたモニュメント「尻洗いの石」。
いざ、けつぴたしの儀
まずは手水舎にある卵型の白御影石「尻洗いの石」に水を二度かける。石へお尻を向けて、合掌。そのまま「けつぴたし」と唱えながら、お尻を石へ上下にすりつけるような動作を、3回繰り返す。揺れる烏帽子と白袴。正装した宮司がこんなにハッスルしているのは初めて見た。最後に石へ向いて一礼、儀式は終了だ。


宮司の小堀真洋さん。水をかけて卵を清めたあと……


けつぴたし!!! さすがは宮司さん、上下のゆさぶりが一番大きかった
けつぴたしの儀は老若男女だれでも参加OKで、当日は70人ほどの参加者が集まった。何人でも同時に「けつぴたし!」できるし、気の済むまで何回も儀式を繰り返してもいい。痔の予防も兼ねているので、痔ではないであろう小学生もお尻を振っていたし、赤ちゃんを石に向けて揺さぶる大人もいた。
どんどんけつぴたししていく。60歳前後の男性たちが2人ずつ、威勢よくお尻を振って「けつぴたし!」 婦人が3人一緒に、落ち着いた声で「けつぴたし!」 太鼓の演舞を披露した中1〜社会人2年目の男女4人が、高い声で「けつぴたし!!」

保存会の人たちを皮切りに、どんどん「けつぴたし!!」 恥ずかしさとがむしゃら感で、みんな表情が甘酸っぱいぞ

子ども3人による、腰が引き気味のけつぴたし。やらされた感満載だったが、おかげで君らのお尻はこの先きっと大丈夫だ!
フレッシュな地元の若者たちによる、フレッシュなけつぴたし

けつぴたしに抗う子ども。大人たちも「だよねー嫌だよねー」とほほえましく見守る。これも奇祭の風物詩
人前でお尻を振る行為や、自分が痔であることを披露するのが照れくさいようで、みんな苦笑いしながらお尻を振る。終えると、恥じらいの通過儀礼に挑んだ勇敢さを称えるかのように、境内のみんなが拍手をして祝う。
なぜ保存会はこんな奇行を行事に取り入れたのだろう。「けつぴたし」とは、昔からじかたまじないで「(川に)ケツをひたす」行為のことを指す。川でお尻をきれいにするのは現代では恥ずかしいので、復活にともない「尻洗いの石」で擬似的に清めるようにしたのだ。なんにせよ恥ずかしい気もするが、こうして奇祭は変態性を極めていくのかもしれない。

筆者もいざ、痔を治さん
ぼくの痔は治るのだろうか……けつぴたし!
ぼくもトイレットペーパーに血をつける日々から抜け出したい。一人でいざ、けつぴたし。石にお尻を向けて気づく。めっちゃ見られてる……! 他に同時進行のイベントもないから、周りの人の視線はどうしてもけつぴたし中の人に集中する。ここでお尻を振って変なキーワードを叫ぶの、けっこう恥ずかしい……。ええい、これも痔を治す試練!
「けつぴたし! けつぴたし! けつぴたし!」
叫んだ、振った。針葉樹林に囲まれた境内に自分の声が響いて、そのあとみんなから拍手をもらうとすっきりする。ご利益あるかも。

お尻を振るたびシャッターを切られるのって恥ずかしいんですね、ぼくも次から撮るとき自重します


せっかくなので3人けつぴたしも体験。人数が多いほうがエンタメ感が増して恥ずかしくない
儀式に参加した人もしなかった人も、最後は神社にお供えしたゆで卵を持ち帰る。これを食べて痔の平癒祈願は無事完了。復活前からずっと変わらない行為だ。にしてもこの奇祭の著しい卵推しは一体なんなのだろう。

手水舎にあった、鶏が卵を産んでいるモニュメント
昔、少なくともこの地域では、卵はめったに食べられない栄養価の高い食材だった。田植えの終わったこの時節、水仕事で体を冷やして痔を抱えてしまった農民たちが卵を食べて治癒を願ったのが、じかたまじないの発祥だと保存会は推測している。ゆでたまごをほおばりながら祖先を思う。痔はデスクワークが増えた現代の病だと捉えていたけど、先代たちも悩まされていたのか……日本人の歴史は、痔と格闘の歴史でもあるのかも。

茂木のいたるところで田植えを終えた水田が青々としていた
また、昔の人たちが休みの日に集まっておいしい貴重な卵を食べたのは、地域の親睦を深める場だったのではと、保存会は話す。
「けつぴたしの儀」を終えた高2の女の子に感想をたずねたら、「お尻を振るのってかわいくないですか?」と笑顔。中1の男の子も、「これで一生痔にならない気がする」と冗談交じりにニヤつく。痔を通して楽しい時間を過ごす姿はおそらく昔と変わらない。来年も山内下平の人々はやはりお尻を振って「けつぴたし」と唱えるのだろう。
奇祭から帰って一週間、ぼくのお尻の調子は現状維持といったところだ。痛むたびに例の振り付けと呪文が脳内再生され、つらいのに思い出し笑いをする奇妙な体験を味わっている。
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