マイクロソフト本社内(シアトル)に、マイクロソフトが考える5〜10年後の未来を想定した空間「Envisioning Center」(エンビジョニングセンター)という特別施設がある。ここは、顧客やパートナー企業が本社キャンパスを訪れた際に見学するための施設で、マイクロソフトの技術やデバイス・サービスが将来の生活にどのような変化をもたらすかということを体験できる施設だ。一般公開はされていないが、ロックスターなども訪問する施設だという。
その施設に、今回特別にお邪魔させてもらえることになったのでリポートしたい。近い将来、私たちの周りはどのような環境になっているのだろうか。

エンビジョニングセンターのエントランスをくぐると、そこは10年後の未来。この未来空間には、3つのテーマがあるという。1つは、「Bringing People」。離れていても1カ所に会する(人を集める)という意味。2つめは、「Enhance Our Intuition」、直観を行動に。そして3つめが「Natural Flow」、自然の流れを。この3つが、この施設の全てに共通するテーマだ。
まずは、職場。会議室では、壁を使ってディスカッションしている。今の会議室と違うところは、ペンやポストイットも全てがデジタルで表現されているという点。何か情報が欲しいときには、もちろん壁をタッチすることで検索できる。

自分のデスクに近づくと、自分のポケットに入ったデバイスか何かで本人認証され、床と水平だったデスクが使いやすいように斜めに起き上がる。このデスクにタッチすると、製品のプロトタイプを作るときの材料情報や部品の形が合うかどうかということまで調べてシミュレートしてくれる。



さらに、何かを調べてある記事にたどり着いたとき、同じテーマについて書いている他の記事やイベントを紹介してくれる機能もこのデスクには備わっている。
また、スマートフォンをデスクに接触させ、スマホ上にある見たい写真やスケジュールを指でデスクに向かってスライドすればスマホ上のデータがデスクに一瞬で共有され、デスクでも情報を見ることができる。

大きな会議室では、壁一面にスクリーンが。その反対側に10脚ほどの椅子と壁からL字型に突き出したベンチ(?)が用意されている。

ちなみに、この写真に映っている椅子がとても不思議な座り心地だった。脚がバネのようになっており、重心を前や後ろに倒すとぐわんぐわんとゆっくり動く。会議のスタイルに応じて、椅子のデザインも変化してくるのだと実感した。
現在の会議室の多くは机を囲んで座ることがほとんどだが、このような会議室では机を囲む必要はない。壁一面の大きなスクリーンにタッチしながら話がすすめられていくのだ。納期の変更もタッチしてスライドすれば、自動的にそのあとのスケジュールを計算してスクリーンに映し出してくれる。また、スクリーンが大きいためバーチャルで工場見学をすることもできる。


続いて職場の外へ出て、公共の場所(パブリックスペース)へと案内された。ここでは、新しい買いもの経験などを見ることができる。

例えば、モデルカー屋さんでは台にモデルカーを置くとその商品の情報が出てくる。今はパッケージや取扱説明書などに情報が記載されており、欲しいと思ったその場では限られた情報しか手に入らないものも多い。もちろんネットで検索すれば情報は出てくるが、詳細を知るためにはこちらからいろいろな情報を入力しなければならない。
しかし10年後の買いものでは、商品を選ぶ際にこうして詳細な情報を手に入れることができる。これはおもちゃだけでなく、家具などを買うときにも役立つのではないだろうか。あらかじめ測っておいた寸法とわざわざ自分で照らし合わせなくても、データによって管理されその家具が合うのか合わないのかが瞬時に分かるようになるということにつながる。



家の中にもいろいろな技術が取り入れられるだろう。陶芸が趣味の人は、ろくろがなくてもバーチャルでろくろを回し、そのデータを3Dプリンタで印刷できるようになる。

中でも1番変化がありそうなのはキッチン。大きなディスプレイにいろいろなものが映し出される。例えば、写真やレシピ、冷蔵庫の中に何があるかなど。料理が苦手な人はコックさんにディスプレイ越しに教えてもらうこともできるし、「あのレストランで食べたあの料理が作りたい!」というときはレストランに行ったときにスマートフォンを媒介して収集したデータからレシピが再現される。



ディスプレイのデータはキッチンと連動し、手元で材料や調理時間、作り方などを確認しながら料理することも可能。間違えていたらディスプレイのコックさんが教えてくれる。




リビングでは、家族と過ごす時間がより体験的なものになる。例えば、壁に掛った写真は時間によって変わり、4Kの画面越しにはおばあちゃんを呼び出し会話をする。これは既にもう行われていることかもしれない。


こんなメルヘンの世界はどうか。ぬいぐるみをかざすと、そのぬいぐるみが主人公になって物語が展開される。ディスプレイの中と現実が連動していて、物語に合わせて照明が変わったり、物語に出てくる箱を実際にリビングにある鍵を振ると画面の中の箱が空いてストーリーが展開されていく。画面の中で桜が散れば、部屋中が桜色に染まり、床に落ちた桜の花びらを足で除けると画面の中の桜もそれと連動して動く。こんな世界が、すぐそこに実現しようとしている。





ここまで、シアトルのエンビジョニングセンターで見てきたマイクロソフトが考える未来の空間を紹介してきた。既に社会で実現しているものもあれば想像さえしていないものもあったが、実はこの全てが現在存在する技術で実際に動いているという。
私たちの未来の世界を少しだけ垣間見た。こんな未来が訪れたとき、自分はどこにいて、何をしているのだろうか。
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