
えりちん「池袋レインボー劇場」は、ストリップ劇場を舞台にした家出少女熱血物語
20代でストリップ見たことある人って、ものすごく少ないと思う。いやね、アダルトな場所だからって以前に、ないんですよ。2000年代に入ってから、あれよあれよと閉館。それでもまだ、全国に20件強は残っている。今でも生き残れているのは、踊り子がおり、ファンがいるからだ。
お嬢様、路頭に迷う
18歳になったばかりの少女、ユキ。前髪パッツン、長い黒髪。全く垢抜けない服装で、すっぴん。毛が濃くて、ひげは生えるし、眉毛なんてつながってる。
神戸の老舗呉服屋の孫です。祖母との仲は悪い。そんな彼女、家出した後、上京した彼氏の元を訪れ、一緒に暮らす決意をしました。……が、その彼は別の女と同棲中。
ユキ、路頭に迷う。そんな時に彼女が出会ったのが、ストリッパーの歩夢(あゆむ)でした。もちろん、芸名。

狭いけど、みんなマナーがよくて、案外いかがわしくないストリップ劇場。全裸になるアイドルの小劇場、というかんじです(1巻90ページ)
眼前に広がったのは、歩夢のステージ。花魁(おいらん)衣装で登場し、ポールをつかいながら、ダンスを力強く、たおやかに、見せていく。服を脱ぎながら、身体のしなやかさと美しさを表現する。全裸になってからは、自らの身体をエロティックに、でも下品ではなく、舞う。優雅に全身の柔軟性をつかう。キレイだった……!

ストリップを見て感動して泣く、って結構あると思うのですよ(1巻112ページ)
ユキの決断は早かった。目標もやりたいことも当ても失った彼女、稲妻が走って、踊り子になることを決意します。処女なんだけど、そんなのどうでもいい。
「踊る」ということ
解放の物語です。
ユキはかつて、バレエを習っていました。身体を動かして、飛び回って、全身を軽快に操るのが、大好きでした。

幼い頃のユキ。心の底から、楽しそうでした。自由でした(2巻50ページ)
「嫌いやねん白鳥の湖。あんなん悲惨な鳥やん」「あたしのはもっと自由でハッピーな鳥やで、好きなだけ飛び回れんねんで」
踊っている時、彼女は自由だった。ならそんな悲惨はいらない。みんなが笑顔になって、自分も楽しい。だから人前で表現したい、って思うんだ。
しかし、老舗の呉服屋の縛りはあまりにきつかった。父は失踪、母は死に、ユキを呉服屋に育てるべく祖母は厳しい教育を始めます。祖母は、彼女が大切にしていたレオタードを、焼きました。
踊れない。楽しくできないから、締め付けられる帯をほどいて、脱ぎたくて仕方なかった。
だから、歩夢さんのストリップを見て、何もかもがはじけ飛びました。

走馬灯のように駆け巡る、我慢していた過去。絶頂のように、身体をほとばしる感覚(1巻105ページ)
身体の動きで表現するのがダンスだとしたら、最大限美しい服で着飾り、その後全部捨て去って一糸まとわぬ姿で舞う。先輩の中には、布を使って宙を舞う、まさにシルク・ドゥ・ソレイユのような踊り子もいました。一方でキグルミで登壇する子も。自分の世界観を作ることのできる、アート。
そこに哀れな白鳥はいない。舞台で描かれるのは、生きている人間の美しさ。そして美しいものは楽しい。
「踊り子」は服を捨て去ったアイドルでもあります。スケベ目的はもちろんある。けれどそれ以上に、ファンはカリスマに、ダンスに、美しさにほれている。
ストリップは公演後にお金を払うと、踊り子さんの写真を取ることができます。あいさつしたり差し入れしたりという、ファンとの交流の場。ここでのポラは「衣装」と「脱ぎ」に分かれています。つまりファンは、ヌードが撮りたいんじゃない、踊り子が撮りたい。
ステージの上に上がる踊り子とファンは、ハッピーにならなきゃいけない。
ユキの踊り子奮闘記

演劇や音楽と同じ。ストリップステージの裏側はてんてこ舞い(1巻171ページ)
ユキは働き者で努力家なお嬢様。
ストリップで自由を表現するには、たくさんの練習と、雑務をこなすマメさが必要。歩夢は、家に帰ってきてからもポールダンスの練習して、柔軟してます。これがプロだ。
ユキは最初は何かできるわけじゃないから、とにかく雑務をこなす。舞台は念入りに掃除する(この理由がとんでもないので、読んでみてね)。みんな帰った後に舞台練したいからと、1人残って片付けをして待っている。
ストリッパーは、儲かるわけじゃない。衣装は自腹、小道具も、巡業の移動費も、荷物の輸送も自腹。振り付け作ってもらうのも自腹。1日4公演を全部同じにすればまだ楽だけど、これを4種類変えるとしたらその分お金がかかる。「ショーのために仕事している」という意見が出るくらい。でもみんな辞めない。
2巻で彼女はストリップデビューします。登壇する緊張で、脱ぐかどうかの羞恥心どころじゃない。踊り始めた瞬間、やらかした。

客にエルボー。事故とはいえこれはさすがに(2巻40ページ)
ころんだはずみで、客にエルボー。このあと激謝りするも、もうテンパってなにやってるか分からなくなっていく。
厳しいことを言う客もいる。でもやさしく「頑張ってね」と声をかける人もいる。なにより、最上級の解放感を味わえる場所にいる。もうクビかと思っていた彼女は、歩夢に「立ちたくなくなったのか」と言われた時、言います。
「全然踊り足りないです!!」
アンダーグラウンド
読んでいると、ストリップの世界の情熱がひしひしと伝わってきます。
けれど忘れてはいけない、これは18禁の世界だ。嫌う人も、いる。

職業を聞かれたら、なんて言えばいいだろう(2巻151ページ)
「職業は?」「ストリッパーです」とはなかなか言えない。恥じる必要はなんにもないんだけど、周囲がどう見るかは別です。家族や恋人は、受け入れてくれるかなあ?
このマンガでは結構アンダーグラウンドな話は出てきます。モグリの医者の話。かつての赤線や公娼の話。借金背負ってホストと高飛びした仲間もいる。面接に来た女の子はメロンみたいなリスカでオーバードーズしている。
なにより、ストリップ劇場は、もうからない泥舟。
歩夢「露骨にマ●コが見たいだけなら、ネットで無修正動画見て抜いてりゃいーのよ。わざわざ劇場に足を運んでくれるお客さんが、何をみたいのかって話」
ユキ「えーと……夢?」
歩夢「そうね、ドキドキとか、ワクワクとか、ときめきたいんだよ」
多分、永遠に表舞台には上がらない、芸術。
だけど、永遠にアンダーグラウンドで、人をワクワク幸せにさせる、芸術。
ユキが自分の世界を作って、楽しませるようになる日は、まだ遠い。
(C)えりちん/白泉社
(たまごまご)
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