テレビ東京のドラマ24「バイプレイヤーズ 〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜」。第2話のサブタイトルは「バイプレイヤーと共演NG」。いきなりドキッとするタイトルで、序盤の話題が「ふなっしーとにしこくん現場で大もめ」。えええーっ、と思ったら、いわゆるまとめ系サイトのウワサでした(ちゃんとラストで「共演NGではありません」と書いていますよ!)。
人のうわさも七十五日とは言いますが、今はネットで一瞬で拡散されて信じる人がいるもんだから大変。今回は遠藤憲一さんと松重豊さんの「共演NGのうわさ」の話。

遠藤憲一さん(右)と松重豊さん(左)。いやいやこれどっかで見たことあるんですけど
今までのおさらい
このドラマは、出て来る俳優さんたちのキャラクターをデフォルメしながら、本人を本人が演じています。
「絆を深めてほしい」と言われ、3カ月のシェアハウス生活をすることになった、遠藤憲一さん、大杉漣さん、田口トモロヲさん、寺島進さん、松重豊さん、光石研さん。大御所のバイプレイヤー(名脇役俳優)。みんなアクが強いので、合わないところもあるけれど、さすが50代以上、大杉さんをリーダーに、それなりに共同生活をはじめます。
とはいえ、大人だから「聞きづらい」ことは山ほどある。その一つが、10年前にそりが合わず空中分解した6人の映画「バイプレイヤーズ」。未だにみんな引きずっている心の傷。
2話で話の中心になるのは、真面目で繊細で心配性な遠藤さんと、しっかりもので冷静な松重さん。2人がダブル主演することになったのは「相方」というドラマでした。
……えっ、それ、似たようなのどっかで聞いたことあるんだけど。
周囲のうわさが壊すもの
共演が多い2人。「芸能界、共演NGの噂の人」というネット記事で名前があがります。んなわけない。さすがに6人とも笑い飛ばします。
ゴシップやスキャンダルは、どうしてもこういう根も葉もないうわさを流しがち。大杉さんの「こういう真相って、当人同士しかわからないからねー」というセリフや、松重さんの「共演NGって、マスコミとかネットは、変なうわさたてたがりますよね」など、今まであちこちで見てきたんでしょう。無視するに限る。

ゴシップメディアが撮影した写真。2人で話しながら食事しているだけなのですが、「共演NG」「険悪ムード」「疲労困憊のスタッフ陣」とねつ造記事が
ただ、周囲はこういうのを信じてしまいがち。現場は「本当にNGだったらヤバイ」という気づかいで、みんながこそこそ言い始める。いかにもそれっぽい空気になってくる。親切心が空回り。
2人の心には、引っかかっているものがありました。「バイプレイヤーズ」の時のこと。配役を交換するよう監督に言ったことが(実は双方)ずっと頭に残っていた。2人とも「悪いことしたなあ」と思い続けていた。
この思いを言葉にすることができないままだった。うわさがどんどん膨らみ、撮影現場の状況が怪しくなるにつれ、「ひょっとしてあの時のことを怒ってるんじゃないか?」と1人で紐付けてしまってモヤモヤしはじめる。

うわさを聞いてしまったため、あれこれ気になって怯え、余計なことをしてしまう荒川良々さん。彼に悪気はまったくないんです
これって俳優ならずとも、よくあること。どんなに信用している相手でも、頭に疑問がふっと浮かんだ瞬間、「もしかして」の疑念が浮かんでしまう。相手を責めるのではなく、自分が傷つけてしまったのではないか、というウジウジ。
遠藤さんと松重さんは言葉で確認するより先に、2人がもっとも通じ合える方法、撮影中の激しいケンカのアドリブ演技で、お互いの信頼関係を確認しあいました。練習なき殴り合い。相手が「絶対受け止めてくれる」と信じてなきゃできません。それで十分すぎる。
一番あたふたしていたADも「あの2人どこが共演NGなんですか、最高ですよ!」。
虚偽のうわさなんて、演技一つで吹き飛ばす。これがプロフェッショナルだ。
「かぶる」ってなんなんだろう?
「キャラがかぶる」というのは、一般的にはあまりいい意味では使われません。劇中の現場では、スタッフは遠藤さんと松重さんが「かぶる」という言葉に超過敏反応するのは、分からんでもない。
遠藤さんと松重さんが今回「かぶる」と劇中で言われたのは、どちらも「名脇役」として知られ、かつ刑事役などが多いから。今回の「相方」は、論理的な刑事と感情的な刑事。おそらく入れ替えてもお互い演じきる技量がある、という2人の役者としての認識が、ちらほら見えます。じゃなきゃ「役の交代」なんて話そもそも出てきません。
遠藤「なんかあれだよね、お互い役奪い合ったり」
松重「そのあと勝手にうじうじしたり」
遠藤「やっぱさ、俺たちかぶってんだよ」
10年前の映画「バイプレイヤーズ」の話であり、今回の「相方」の話でもあります。
かぶってるんですよ、それぞれ役に対して本気になって、そのためなら何もかもをかけて、最後までやり遂げようとする「役者バカ」な姿勢が。
プロの役者であろうという情熱がかぶっているから、安心して任せられる。
序盤の会話、一通り見た後だとなかなか味わい深いです。
遠藤「遠藤と松重は現場では目すら合わせないなんて、本当に信用してるやついるんだからしょうがないなあ」
松重「ほんとですよ、この歳で仲良しこよしってのがおかしいでしょう」
遠藤「えっ、じゃなに、おれたち本当は仲良しじゃないってこと?」
松重「え、いやいや違いますよ心配症だなあ遠藤さんもー」
この「仲良し」の意味、2人の間でおそらく食い違っている。
松重さんは「なあなあの仲良しこよしじゃなくて、もっと深いとこで認めあっている仲だ」という意味で、遠藤さんは「現場で目を合わせないなんてことはない、背中を預けられるような仲良しだよ」ということなのでしょう。
だから最後、撮影中に2人でアドリブで演技をする時、遠藤さんから松重さんへの「本気でいくぞ」のセリフが、見直すほどにグッと来る。
これで一つ、10年前のわだかまりが解けました。ここまで皆の心をかきまわす「バイプレイヤーズ」、どんな映画だったんでしょう、明かされていくのが楽しみ。
2話の細かいところですが、パンメインだったシェアハウスの朝食が、1話の寺島さんのリクエスト通り「ごはんと納豆と味噌汁」になっていたのには、感動しました。料理担当の松重さん……!
3話は光石研さんがえらいことになって、週刊文春とか不倫とかなんとか言ってましたが……そこまで踏み込んじゃうんですか。大丈夫なんですか。怖いよ、フィクションだと分かっていても。
(C)「バイプレイヤーズ」製作委員会
(たまごまご)
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