ガチャの誤表記が発端で「ユーザーごとに出ないキャラを設定しているのでは」という疑惑に発展していた、スマートフォン用ゲーム「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」。もし事実ならばスマホゲーム業界が丸ごと吹き飛びかねない大騒動になるところでしたが、最終的には「誤表記期間中の龍石全返還」「全ユーザーに詫び石300個(約2万円分)配布」「詫びソースコード公開」という対応で、ようやく騒ぎは沈静化しつつあります(関連記事)。

こうした「ガチャの確率操作疑惑」は、ユーザーの間では以前からささやかれており、過去にも似た事例はありましたが、ここまで大きな騒ぎに発展したのは今回が初めてです。なぜ「ドッカンバトル」はここまでの騒動になってしまったのか、モバクソゲーサークル「それいゆ」発起人であり、スマートフォン用ゲームの炎上に詳しい「怪しい隣人」(@BlackHandMaiden)さんに、今回の炎上の背景や、その裏返しともとれる「ガチャ宗教」の存在について語ってもらいました。

「やりすぎ」「プログラマーの晒し上げ」とまで言われ、賛否あった「詫びソースコード」。ある意味では、ここまでやらなければならないほど大きな騒動だった、ともいえます
ライター:怪しい隣人

出来の良くないソーシャルゲームを勝手に「モバクソゲー」と名付けて収集、記録、紹介しています。モバクソ死亡リストは500件を超えました。年々ソーシャルゲームが複雑になり、ダメさを判定するのに時間がかかるのが最近の悩みです。本業はインフラエンジニア。そのためソーシャルゲームの臨時メンテは祭り半分胃痛半分な気分です。
これまで積み重なってきた「運営不信」が爆発した
「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」の表示不具合に始まる騒ぎから数日がたちました。「ガチャの確率をユーザーごとに設定していたのではないのか?」という疑惑に始まり、そうではないことを説明するために「詫びソースコード」まで繰り出しての説明はソシャゲ界隈(かいわい)でも前代未聞のことかと思います。
実はこれまでも幾度かこの手の「表示がおかしくなったことに始まる疑惑」というのは発生しています。私が遭遇したのは、KONAMIがモバゲーで提供している「戦国コレクション」でのことでした。2013年1月30日に始まったボックスガチャで、今回と似たような表示ミスが発生したのです。

KONAMIがモバゲーで提供中の「戦国コレクション」
ボックスガチャとは、一定のアイテムが入った枠があり、その中で抽選をするガチャ(※)のことを指します。例えば100枚入りの箱があり、その中に大当たりが1枚、当たりが9枚、ハズレが90枚入っているというようなガチャです。100枚全部引けば絶対に当たりが手に入るはずなのですが、なぜか「既に当たりが抜かれた状態のボックスが存在していた」というのがそのときに発生したトラブルでした。さあこれから箱の中身を開けていくぞ、という状態で、「超大当たりが入っている人」「入っていない人」「ハズレだらけの人」――というように、人によって箱の中身が異なっていたのです。
※編注:通常のガチャは「1%を100回抽選する」だけなので、100回引いても絶対に当たるとは限らない(代わりに運が良ければ2回、3回と当たりが出ることもある)。これに対し、現実のくじのように既に引いたキャラは抽選ボックスから除外していき、「ボックスを空にするまで引けば絶対に当たりが出る」ようにしたのがボックスガチャ

当時問題になっていたボックスガチャの内訳表示。人によってはレアカードが既に「排出済み」となっていたことから炎上に
ボックスガチャでは今どれだけ引いたか明示されるのが通常なので、この場合は「オイ当たりが入ってないぞ!」というだけのトラブルではありました。無論、それも大問題ではあるのですが、さらに問題だったのは「当たりが少ない人ほど課金率が高い・熱心にゲームをプレイしている人なのではないか」という疑惑が発生したのです(※)。
編注:運営側はその後「前回のボックスガチャの残りカード枚数がそのまま表示されてしまった」と説明
ボックスガチャは引いた後の残数が見えているからまだいい。では、コレが普段のガチャにも適用されていたら? 課金率の高い人は見えない形で当たりの存在しないガチャを引かされ続けているのでは? という疑念が爆発しました。
とはいえ、今回の騒ぎのようにTwitterなどのSNSやまとめサイトで大きく話題になることはなかったように思います。Twitterの拡散力がこの4年で大きく変わったのか、それともプレイヤー層の差なのか。いろいろと理由はあるかと思いますが、ドッカンバトルの騒ぎについては運営への不信もあるのかな、と考えています。
不安を癒やすために生まれた「ガチャ宗教」
皆さん多かれ少なかれ、運営への不信や疑念は胸に抱えながらガチャを引いているものと思います。そんな不安をどうやって癒やしているかを見ていくと、ジンクスか都市伝説か、あるいは祈りにも似た宗教のような状態になってしまっている人が多い気がしました。オモシロイと思ったものを幾つかピックアップしてみます。
引く時間を調整する
昔からよく聞くジンクスです。「夜中の1時に引く」という単純なものに始まり、プレイヤーの稼働時間を計算して「ガチャを引く人が多い時間帯は確率がどんどん低下し、少ない場合は確率が上がるので人が少なそうなときに引くのが良い」というものもあったりします。これもよく言われる「課金率の高い人には厳しい調整を、課金率の低い人には甘い調整をしてガチャを回させるようにする」といった思考から生まれたジンクスなのかな、と思わされますね。

1時に引くと当たりが出やすい?
乱数調整(※)
多くのゲームには「フレンドポイントで引ける無料ガチャ」と「石やコインで引く有料ガチャ」が存在しています。前者をある程度回転させることで後者の確率を操作するという、お話だけ聞いていると「お、おう、そうだな」という気分になるものです。「フレンドポイントで小当りが出たら大当たりが出やすい」ぐらいならかわいいもので、世の中にはExcelでずっと記録を取り「小当りが出た後フレポガチャをさらに回し、さらにこのような状態からうんぬん……」といろいろと調整を重ねた結果、大当たりの出現率を上げることができた、という方もいらっしゃいました。その結果のスクリーンショットを拝見できないのが大変残念です。
※編注:そのゲームが使っている乱数の法則を分析し、プレイヤーが好きな乱数を自在に引くテクニック。例えば初代「ドラゴンクエスト」のリアルタイムアタックでは、ゲームスタート直後から所定の操作を完璧に再現することで、メタルスライムと確実に遭遇できるテクニック(状況再現とも呼ばれる)が実際に使われていたりする

フレンドガチャで小当りが出た時に引くと大当たりが出る説
聖遺物&聖地
「Fate/Grand Order」の話なのですが、「Fate」シリーズでは「サーヴァントを呼び出す際に、英霊と縁の深いアイテムを触媒とすることで呼び出す英霊を指定できる」という設定があります。そのため欲しいサーヴァントを召喚するときは、それにふさわしいアイテムを用意したり、サーヴァントに縁の近い土地でガチャを引いたりといった行為が実際に行われています(どちらかというと「ガチャを引くためにその土地へ行く」というよりは「その土地へ行ってみたのでせっかくだからガチャを引く」という状況になっている人が多いようです)。筆者も一度「Fate」の舞台になっている場所(神戸大橋)でガチャを引いたことがあるのですが、その際は縁のあるようなないようなキャラがやってまいりました。

聖遺物というか聖地

一応、縁のあるようなないようなキャラが出た
ちひろ蒸し
「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」(以下デレステ)において、事務員のキャラクター(ちひろさん)の周りに「アロマディフューザー」というアイテムを置き、なんだか蒸されているような状態にするとSSRが出やすい、い言うものです。懐かしい、という声が聞こえてきそうなのですが、今年(2017年)に入っても結構使われている手法のようです。詳しくは過去の記事を御覧ください。

最近でもわりと行われている「ちひろ蒸し」

当時の「ちひろ蒸し」。もっと祭壇のようにしている人もいた
……とまあ、最後の方になるとお笑いネタになってきてしまいますが「笑いの種にでもしないとやってられない」という部分は往々にあると思います。それぐらい、ガチャというシステムには不信感が漂っている、一触即発の存在であるということを今回の事件は示してくれたとも言えます。定期的に「艦これ」や「アズールレーン」のようなガチャ圧の低いゲームが絶賛される流れになるのも、同じようなことなのではないでしょうか。
ソーシャルゲームを運営される方々は、そのへんのプレイヤー心理を踏まえた上で今後もガチャを運営して行っていただければ、と思います。
(怪しい隣人)
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