思い出してみてほしい。いつも使っているカップに水を注ぐ音、それから、同じカップにお湯を注ぐときの音を。
きっと水と比べ、お湯を注ぐ音は少しこもったような低い音がすると思う。あえて擬音語にすれば、水は「シャー」、お湯は「ジョー」という感じだ(個人差あり)。
これは主観的な違いではない。不思議なことに、温度が変わると本当に音が変化してしまうのだ。

原因は「粘度」
結論からいえば、鍵は「粘度(ねんど)」、要は粘り気だ。水はあたためると粘度が下がり、容器に注がれたときの挙動が変わる。その変化が、音にも現れるのだ。
イメージしにくいかもしれないが、例えば、ボウルの中で卵をかき混ぜる音と、水をかき回す音はかなり違うだろう。それと似たようなことが、水とお湯でも起きているのだと考えてほしい。
冷たい水の方が粘っこい
粘度は流体力学(液体や気体などを扱う力学)で考えられる、流体の「粘りの度合い」を表す数値である。測定するには、流体が細い管を通るときの速度や、流体を満たした容器の中を球が落ちる速度から算出する。
この「粘り」は、分子と分子の間に働く力(分子間力)から生まれる。
細い管を流れる流体があったとしよう。流体は細かな分子から構成され、その分子は分子間力で互いに引き合っている。しかし、壁付近にある分子と、流れの中心にある分子とでは力のかかり方が異なるため、流体全体としての“流れ”にブレーキがかかる。このブレーキが、「粘り」のはたらきだ。

ぺんてるによる、身近な液体の粘度をまとめた画像。例えば、水とガムシロップの流れ方の違いは、視覚的にも分かりやすいはず
温度が上がると分子の振動が激しくなり、分子同士の間隔が広がって分子間力が弱まるので、一般に液体の粘度は高温になるほど小さくなる。20℃の水の場合、粘度は1.002cP(センチポアズ)(※)で、100度になると0.282cPと約3分の1未満まで下がる。
※ cP(センチポアズ)は粘度の単位の1つ。また、mPa・s(ミリパスカル秒)が用いられることもある
水の粘度の変化を、身近なところで視覚的に確認することは難しい。しかし、コップに注ぐという日常的な動作の中で、音の違いとして現れる。だから、われわれはたとえ理屈が分からなくても、何となく「水の音」「お湯の音」が区別できるのだろう。
参考文献
文系でも分かるレオロジー かくはん塾 – プライミクス株式会社
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