「ま行・た行・ら行・あ行」だけで昔話・桃太郎の物語が語られる「文字制限昔話」がTwitterで注目を集めています。すごいという感情以上のなにかがこみ上げてくる……!
これはズルい……!
説明だけだとどういうことがあまり想像がつかないと思うので、一度その文字制限された「桃太郎」を読んでみてください。ちゃんと物語にはなってるけど、これはズルい。
「桃太郎」(ま行・た行・ら行・あ行のみ)
遠い前、ある村、おぢいとおまま居た。
おぢい、森行って、おまま、ウェア洗い。
おまま、ウェア洗ってると、ドォォ、ドォォと、大桃。
おまま、大桃持って、家着いた。
おぢいとおまま、太刀持って桃見ると、生まれた。
桃で生まれた、で、桃太郎と言った。
桃太郎もりもり老いる。
あるデイ、桃太郎、言った。
「デヴィル・ヴィレッヂ行って、デヴィル血祭り。」
餅、もらうと、レッツ、デヴィル・ヴィレッヂ。
餅で、マルチーヅ得る。
餅で、アイアイ得る。
餅で、鳥得る。
で、マルチーヅ、アイアイ、鳥得た桃太郎、デヴィル・ヴィレッヂ着いた。
デヴィルたち、村で獲ったお餅とメダル持って、デヴィル祭り。
桃太郎言う、
「お前ら、モラル、守れ。」
で、もみ合いだ。
桃太郎、いい太刀だ。
マルチーヅ、血ぃ出るまで追う。
アイアイ、目ぇつまむ。
鳥もダメーヂ、与える。
とうとうデヴィル、参る。
「まぢ、まいった。」
と、手、ついて、罪、認める。
桃太郎ら、メダル等持ち、家着いた。
おぢい、おまま、歌い、踊る。
ウィーアー、とってもいいエヴリデイ♪
まず「おぢいとおまま」の登場から始まり、“川に洗濯”という表現のうち“た”しか使えない状況を「ウェア洗い」でフォローする発想。さらに主人公の成長ぶりを「桃太郎もりもり老いる」という、もはや青年を過ぎて中年くらいまでいってそうな一文で説明してくるヤバさ……。
もりもり老いた桃太郎が言った「デヴィル・ヴィレッヂ行って、デヴィル血祭り」はもはや名言ですが、登場する仲間も文字制限の関係上「マルチーヅ」「アイアイ」「鳥」という、絶望感さえ感じる最高のメンバーをそろえるキレの良さが恐ろしいです。こんなの笑うしかないだろ!

読んでて耐えられなかった……
投稿したのは、趣味でアナログゲームを制作しているARAMA(@aramatypo)さん。Twitterではたくさんの「笑い死ぬ」「腹抱えた」などの声と一緒に「天才」「これやってみたい」といった声が寄せられたこの文字制限昔話ですが、思いついたきっかけは「コトバーテル」という自作ゲームのルールから。
このアナログゲームは4〜8人のチーム戦で、“使える文字が限られた状態で、味方の人にお題の言葉を伝えなくてはならない”というもの。文字や濁点の札(計132枚)で遊ぶオリジナルのゲームですが、このときに「普段当たり前に使ってる言葉が制限されたときの大変さと面白さ」を同時に発見したARAMAさん。それから文字と言葉の世界にのめり込むようになって知ったのが、今回使われたリポグラムという手法でした。聞き慣れない言葉ですが、「特定の文字を使わないという制約のもとに文章を書く、もしくはすでに書かれた文章から特定の文字を抜き去って改作するというもの」(Wikipediaより)といった内容の特殊な執筆の手法です。

アナログゲーム「コトバーテル」のルール

計132枚の札を使って遊びます
そしてこの「文字が制限された状態の面白さ」を多くの人に知ってもらおうと考えた結果が、今回の文字制限昔話。だれでも大体の内容が分かる昔話を題材にすれば面白さが伝わりやすいのでは? というところがスタートなため、あえてかしこまった文章ではなく、砕けたカタコトの文章を使用。制限付きの中では余計に難しい表現になる恐れがあるため、作る際には「古語や難しい英語、専門用語は使わずに、遠回しな言い回し、多少違う意味になってしまったとしても、わかりやすい文章にすることを心がけています」とのことでした。
ARAMAさんは他にも「浦島太郎」「輝夜(かぐや)姫」「鶴の恩返し」「花咲爺さん」など続々と文字制限昔話を投稿していますが、作成にかかる時間は1本あたり平均2時間ほどとのこと。作品によっても変わり、処女作の桃太郎は3時間ほどかかったものの、輝夜姫に関しては30分程度で完成したそうです。

「浦島太郎」の文字制限昔話。タートル(カメ)のなれなれしさすごい
ちなみにその輝夜姫は、短い言葉で淡々と状況を述べているだけという、文字を制限したことによる“勢いだけ”を存分に活用した作品になっています。他と違い「わかりやすい言い回しで作ることを放棄した」ということですが、お話によって細かい手法を変えているのもまた面白いです。「きも」という2文字の短い言葉だけに逆に深く胸に突き刺さる……。

「輝夜(かぐや)姫」は短いながら強烈なひと言が……!
また文字制限のルールも実は存在していて、「その物語のタイトルに使われてる行の文字と決めております」とのこと。例として「桃太郎(ももたろう)」なら「<も>のま行、<た>のた行、<ろ>のら行、<う>のあ行」といった形で、これに濁音や半濁音は許可。加えて伸ばし棒に関しては「あ行の中に含まれるかな」という自分ルールがある上で使うことにしているそうです。
文章を読むとその大胆アレンジに笑わされますが、あらためめて考えられた文字制限を確認すると「すげえ……」となるのがまた面白い部分かもしれません。やろうとすると思ってたより難しかったり……。

「鶴の恩返し」で突然出てくる、ARAMAさん自身の気持ち的な言葉に吹きます

実験的にリズム重視で書いてみたという「花咲爺さん」。読み方次第でまた違った面白さを覚えます
そんな文字制限昔話ですが、ARAMAさんは「同じ言い回しは極力避け、新しい言葉を作るように」心がけているとのこと。それは、制限があっても使いやすい「過去(※昔々の表現)」といった言い回しをどの昔話でも使ってしまうと、いろいろなお話がある中で毎回同じ文章の形が出てきて飽きてしまうという考えから。また「輝夜姫」のように文の調子を少しでも変えるようにしたり、「花咲爺さん」ではリズムを重視した七五調で書いたりと変化をつけつつ、「物語1つ1つに全体的に統一感を持たせています」とのことでした。
そして最後の締めの部分の文章では、思わずツッコミを入れたくなるような文章になるよう心がけていて、「物語のオチが弱くて読んだ後に心に残らなかったら嫌ですからね笑」とARAMAさん。その楽しませようとする心が根底にあっての文字制限だからこそ、面白く感じるのかもしれません。
Twitterではいずれの作品も反響を呼んでいて、中にはARAMAさんをリスペクトする形で同じように文字制限昔話にチャレンジする人や、音読する人なども現れ、ちょっとしたブームのような現象になっています。
「笠地蔵」も公開
「猿蟹合戦」の臼の無理矢理感も嫌いじゃない……!
画像提供:ARAMA(@aramatypo)さん
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