他人のお金で食べる肉はおいしい。財布を気にせずお高い肉が食べられるなんて、そりゃ幸せに決まっている。
それはさておき、今回はお金の話ではなく、金属の金(きん)についてである。ざっくり言うと、金のフライパンで焼く肉はうまいのか? ということ。
あまり見たことはないが、もし金のフライパンがあれば、熱伝導率もいいし錆びないし良さそうじゃないか。そこんところどうなのよ?

熱伝導率って何だっけ?
フライパンや鍋は熱伝導率が良いものが優れているとされがちだが、そもそもそれはなぜなのか?
熱伝導率とは、物質の熱の伝わりやすさを表す値である。熱が伝わりやすいフライパンは、熱した箇所だけが熱いということがなく、食材をムラなく均一に焼くことができる。また、細かな温度調節が効きやすいのも大きなポイントだろう。
金属の中で熱伝導率が一番高いのが銀、それに銅、金……と続いていく。銀は高価なので調理器具としてはあまり使われないが、銅製のフライパンや鍋は比較的よく見かける。
一方で、熱伝導率が低い素材が必ずしも悪いわけではない。熱伝導率が低いと熱するのに時間がかかるが、裏を返せば冷めにくいということでもある。
フライパンや鍋に使われる熱伝導率が低い素材は、例えば鉄や焼き物など。土鍋を囲んでゆっくり味わう鍋料理などは、冷めにくいという性質を上手に利用している例といえる。

おいしくなる気はする
さて、金のフライパンを使うメリットとして、まずは熱伝導率が挙げられる。しかし、前述の通り銀や銅の方が数値の上では勝っており、残念ながら金の最大の長所とはいい難い。
それよりも金の持つ性質の中で特筆すべきなのは、化学反応を起こしにくいという点だろう。金は特殊な状況を除いて化学的な反応を起こさない。一般的な金属が自然界では酸化した状態にあるのに対して、金がそのままの状態(川底の砂金がイメージしやすい)で入手できるのはこのためである。
実際、キャビア専用のスプーンは風味を損なわないために金でできていることが多いという。庶民には縁のないリッチな世界だ……。

銀にしろ銅にしろ鉄にしろ、普通の金属であれば調理中に食材と反応し得るので、全く反応せずにできた料理というのは誰も食べたことがない未知の味のはず。反応するといっても本当にごくわずかなのだが、繊細な料理の世界ではそれでも影響があるのだろう。
最大のデメリット
しかし、上に書いたようなメリットを完全に消してしまう致命的なデメリットが金には存在する。それは金が柔らかくて重い点だ。
金は非常に柔らかい金属として知られ、装飾品としての用途でさえもその柔らかさがネックとなってほかの金属が添加される。加熱すると柔らかさがさらに増してしまうため、フライパンにはまるで向いていない。
また、金の比重は19.3。鉄(比重:7.9)の2.4倍、アルミニウム(比重:2.7)の7.1倍と、非常に重い金属なのだ。一般的なアルミのフライパンを850gとすれば、同じ形状の金のフライパンはなんと6kg! ちょっとした米袋くらいの重さがあり、調理するのにも一苦労である……。
実際には存在しそうにないが……
誰か大金持ちがいたら金でフライパンを作って焼いてみて欲しいところだったが、どうやらその数歩手前で壁にぶつかりそうなことが分かった。
でも、アツアツの黄金の上で蒸気を吹きながら焼けるステーキ……。想像するだけで何か幸せになった気がしてくる。他人の金(きん)で焼いた肉、もし本当に目の前に出てきたらおいしく感じられる自信がある。
参考文献
density of metals – WalframAlpha
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