
(C)Rensuke Oshikiri/SQUARE ENIX
ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育った恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」(原作/アニメ)は、当時を経験していた人も、そうではないゲーム好きも、そしてかつて子どもだった全ての大人が、共感できる悩みをたくさん練り込んだ作品です。

家庭用ゲームの世界
2話は、お嬢様の大野晶が、ゲーム好き少年矢口春雄(ハルオ)と共にいることで救われたのを実感する重要な回。1話ではクソガキ状態だったハルオが、今回は王子様に見えるよまじで。
風邪をひいたハルオのところに、学校のプリントを持ってきた大野。彼の部屋に入った大野はそわそわしっぱなし。なぜならPCエンジンが置かれていたからです。

赤面大野さんのかわいさに気付かないハルオよ(1巻P79)
1991年は、スーパーファミコンが飛び抜けて人気だった時期です。だからこそPCエンジンかメガドライブを持っている人はゲーム好き玄人みたいなかっこよさがあったと思う。
特にPCエンジンはアーケードゲームからの移植がとても多い。この点については、プール清掃のシーンでハルオが友人に延々とうんちくを語っています。プラスチックでできた薄いHuCARDは、ファミコンスタイルのカセットしか見たことのない時代にはとても先鋭的でした(そのかわりセーブはパスワード制)。ハルオは買ってもらえていませんが、CD-ROMを初めて採用したのもPCエンジン。未来のハードだったんだよ。
彼が風邪をひいたのは、PCエンジンを自慢しすぎたため、大野に水をぶっかけられたから。大野は周囲の人からはちやほやされている優等生ではあるものの、誰にも心を開いていません。けれどもハルオに対しては水をかけるくらいに意思表明ができます。「スト2」で拳を交え、「ファイナルファイト」を協力(?)プレイした間柄。持ち上げるのではなく、対等に接してくれたのはハルオが初めてでした。好きか嫌いかは別として。

子どもなのに、いつも萎縮してしまう(1巻P81)
ハルオが彼女にPCエンジンをやらせたときも、彼女は自分を抑え込みっぱなし。背筋を真っすぐにしてプレイしている様子は、育ちのよさが見えすぎる印象的なシルエット。
アーケードゲームの達人の彼女でも、ゲーム機は一つも持っていない。厳格な家庭で育てられたため、買ってもらえるわけがない。
ハルオ「こいつもこいつで俺と同じく…日々たまった鬱憤をゲームで発散してたのかな」
ハルオの鬱憤は、学校ではみ出し者になって居場所がないということ。大野の苦しみはエリートに育てられるがゆえに自我を抑圧されてしまっていること。ベクトルは真逆です。どちらも自分を押さえつけられているという点では同じ。そんな二人が、ゲームという共通言語で、苦しみを共有していきます。

大野、自分を解放する(1巻P85) (C)Konami Digital Entertainment (C)さくまあきら (C)土居孝幸
彼女の苦悩に気づいてからのハルオのかっこよさたるや。大野にPCエンジンの素晴らしさを説明しながら、次々とゲームを勧めます。「妖怪道中記」「獣王記」「PC原人」……あらためて見ると、キテレツでカオスなデザインのゲーム多いなあ。ハルオはゲームが持つヘンテコなところが好きらしい。
大野に対してハルオは、素で優しい。親切にしてあげようとかではなく、共感したがゆえに自然に気遣いができています。でも本人の中ではゲームの方が優先度が高いので、大野からゲームを奪おうとすらする始末。あまりにも裏表なくて、心底ゲームバカで、本当にすがすがしい。この日の体験は、今まで一人きりで蓋をしたままだった大野の心をどんどん解放していきます。
幻のゲーセンへ
ハルオが聞いた、幻の10円ゲーセンの話。スト2対戦のメッカと言われちゃ、行くしか無い。そこで取った大野の行動は、非常に大胆でした。

ネットのない時代は都市伝説も多かったですねえ(1巻P95)
大野、ハルオがこぐ自転車に二人乗り。これはハルオ視点なので、なんでついてくるんだよ的に描かれています。でも女子が男子の自転車の後ろに乗るってことの意味、彼は全く気づいていない。信頼してないと乗らないからね? 後ろを向いて、背中合わせで乗っているのは特徴的。楽しいことに対して、前を見るハルオと、後ろを見る大野の視点の違いがそのまま出ています。
二人が謎のゲーセン「がしゃどくろ」に向かうシーンでは、ハルオが延々と大野に話しかけ続けています。大野は一切しゃべらない子なので、表情と身体攻撃のみでしか気持ちを表現しません。なのに二人のコミュニケーション、めちゃくちゃ自然で滑らか。ハルオも特に気を使っているとかではない。
ゲームで語り合えれば、言葉なんていらない……のかどうかはまだわかりません。なんせ今進行しているコミック版も、ゲームと言葉両方のコミュニケーションのねじれが生じていますし。ただ大野と自然に接することができるのは、ハルオだけです。

イケメンすぎるんだよなあ(1巻P112)
自分のやりたいことができず、言いたいことが言えない大野は、まるで幽閉された姫。その気持を理解し、手を差し伸べてゲームの世界に一緒に向き合ってくれるハルオは、助けに来てくれた勇者のよう。靴ずれした彼女を見て自分の靴を貸すシーンなんて、こんなんほれちゃうでしょ。それでいて「おぶるのは無理だぜ? 重そうだし」と気取らないのがまたイカス。

この作品屈指の名シーン(1巻P99)
ゲームのことだけを考えて、夢中になって二人乗りででかけた午後。ハルオ「よくよく考えたら俺らもアホだぜ 終業式終わって早々 昼飯も食わずゲームしに行くんだもんなっ」
何もかもかなぐり捨ててゲームに向き合うというのは、自分の全てを解放しているということ。間違いなくこのとき、ハルオと大野は自分の気持ちに正直でした。
にしても「ゲームセンターがしゃどくろ」は一体なんだったのか……伝奇物が得意な押切蓮介作品らしい迷い家。ガチモンのホラーはここだけです。カビ臭い恐怖のシーンではあるんだけど、幻の一瞬って、それはそれでロマンティックじゃない?

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