ひと昔前、通信業界で「ラストワンマイル問題」という言葉がよく使われました。
最後の1マイル、あと少し足らない──。ラストワンマイルは通信回線を利用者の家や会社までつなげて、ネットが使えるようになるまでの最終区間や最終行程のことを指します。「あと少しでできる」、あるいはそれがなければ「肝心のところがだめ」の例えとしても使われることがありました。

実は今、超高齢化社会となった日本を初めとする先進国の交通インフラにも「ラストワンマイル問題」が出はじめてきています。
自動運転が実現した未来の交通社会はどうなっているのか。自動車メーカーが多数参加するようになり、近年はまるでモーターショーのような様相もある、米国で行われたITの大型展示会CES 2019。この展示会で多くの企業が未来を示し、期待させる多くの自動運転技術を披露しました。
ここでは、実際に私たちの生活に直面する問題だと自然に理解できた、2つの日本メーカーの取り組みを紹介します。
お年寄りと地域の課題を分かりやすく解消 ヤマハ発の「自動運転カート」
「自動運転車」で頭に浮かぶのはどんなクルマでしょうか。ロボットが操縦したり、映画に登場するような未来的なデザインのクルマを、あるいはテスラのような何となく実現に近いイメージのある乗用車かもしれません。
二輪車メーカー大手のヤマハ発動機が示したのは「自動運転のEVカート」です。その形は、ゴルフ場にあるカート、あれです(ちなみにヤマハ発動機はもともとゴルフカート、ランドカート製造の大手でもあります)。同社はCES 2019の会場でこの自動運転カートのデモ走行を披露し、多くの来場者がデモを実際に体験していました。

ヤマハ発動機は、2017年から国土交通省が先導する「中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービスの実証実験」に参加する1社。自動運転の中でも「電磁誘導式」の仕組みを用いた自動運転車両の開発を進めています。今回のCES2019で披露したのは、この実験車両を一歩進めた新世代マシン「Public Personal Mobility(PPM)」です。

ヤマハが述べるPublic Personal Mobilityの何よりのメリットは、「低コスト」なことです。
開発競争が著しい自動運転車は確かに、夢から“もう、すぐそばまで来ている”と感じられるようになりました。しかし現段階では汎用的な乗用車向け自動運転のための部品だけでも、10万ドル(約1100万円)を超えるコストが掛かるという話です。レーザーレーダーや3Dセンサー、制御システムなど、自動運転の技術や部品からそもそもとても高額。数千万円の乗用車を買える人は限られます。バスなどの大型車両となればさらに高額になることでしょう。
それに対して、電磁誘導式は決められたルートのみを走るシステムです。自律して走行するのは同じですが、走行エリアを限定するので他の汎用的な自動運転車やシステムと比べれば軽いシステムで済みます。車体価格もヤマハによると、「既に商品化済みのEVゴルフカート」をベースにできることから、2019年1月時点でも1台当たり数百万円単位で実現できるそうです。
もっともベースは電動のEVゴルフカートですから、速度は最大でも時速20キロほどで、前述したように決められたルートしか運行できません。遅い? 不便そう? いえ、利用シーンに特化すれば、これはむしろメリットです。
分かりやすい利用シーンは、街中で駅や要所を定期巡回する「地域のコミュニティーバス」です。「ある地域。住人がいるので需要はある。人口は減っているが、その分割合の増した高齢者の多くにとって、たった1つの移動手段であるほどまでに重要である。しかしおカネの面もそうだが、それよりも先に運転手のコストと人手の確保に大きな課題があり、継続の是非を問われている──」。地方自治体の多くに望まれているのは、「人」にフォーカスしたこうした乗り物なのだそうです。
そこでPublic Personal Mobilityは「AI車掌」と呼ぶ機能を実装しました。クルマは無人ですが、機械が車掌の代わりに乗車チェックや乗客とのコミュニケーションを担います。事前登録した情報から、カメラで乗客の顔を認証したり、その乗客がAI車掌に向かって「いいよ!」といったジェスチャーをすると発車する、といった仕組みを備えます。

顔認証による乗客の管理も、田舎の小コミュニティーなどでの運用を想定したからこそのものだそうです。ご近所の皆さんを認識できるならば、乗車/降車だけでなく安否確認もできますし、移動スーパーなどの機能と絡めた決済機能、通報・通知機能や防犯などを結び付けるといった応用もできるかもしれません。
デモ走行では、人が横から飛び出してくればしっかりと認識してそっと停止。極めてスムーズでした。
自動運転の車両は慣れないと漠然とした不安がまだ残るものですが、乗客はカメラに向かってジェスチャーすれば一定の制御もできます。Public Personal Mobilityは、まず速度がゆっくりなことがまず大きいのですが、いざというときに制御できることも不安を感じなかった理由かもしれません。とても快適な乗り心地でした。
PPMのコンセプトカーも出展
ヤマハブースにはPPMベースのコンセプトカーも出展していました。

これはまさに「“移動する”憩いの場、公園のベンチ、あずまや」。
将来PPMが単なる公共交通として使われるだけでなく、お年寄りのコミュニケーションの場となっている姿も想像し、なんだかほっこりしてしまいました。……いえいえ。人ごとじゃありません。このお年寄りの姿は20年後、30年後の私、そしてあなたかもしれないのですから。

続いては、「日々の買い物」や「広い施設内の移動」の課題も解決する自動運転技術です。
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