4月に1巻が発売されたばかりのエッセイコミック『生きやすい』(秋田書店/著・菊池真理子)をご存知でしょうか。
ポジティブな印象を受けるタイトルとは対照的に、その内容はひたすらに後ろ向き。「人に頼るのがどうも苦手」「初対面よりも“二度目”の距離感がわからない」「理由もなく気持ちが落ち込んでしまいがち」など、言葉にしにくいけど確かにそこにある漠然とした「生きづらさ」を切り出しています。

モヤモヤした「生きづらさ」に輪郭を与えるエッセイ漫画
目次に目を通せば、作者の菊池さんが感じている「生きづらさ」の幅広さが伝わるでしょう。「拒絶されると心が死ぬ」「眠れない」「服を買うのが苦手」「人に頼れない」などなど、これでもかとネガティブワードが並んでいます。
そして『生きやすい』最大の特徴は、各話タイトルにもなっているこれら「生きづらさ」が作中でほとんど解消されない点です。

まるでネガティブワードのバーゲンセール

理由も無いのに落ち込んでしまう
例えば第1話のテーマは「人と会うと疲れる」。
会話がトクベツ苦手なわけじゃないし、一緒に過ごす相手が嫌いなわけでもない。だけど「もっと相手を楽しませなきゃ」とか「デリカシーの無い奴って思われたくない」とか、必要以上に肩肘張って接してしまい、家に着く頃にはヘトヘトになっている。そんな「生きづらさ」を描いたエピソードです。

飲み会の帰り道が脳内反省会になる人
友人といても疲れてしまう自分を「ひどい人間なのかもしれない」と思い悩む菊池さんでしたが、「一人が好きなのと冷たさは関係ない」と断言する女性との出会いをきっかけに自分自身の気質を「しょうがないか」と受け入れる道を選びます。
最後まで人と会うのは気苦労のままだけど、少なくとも悩むことは無くなったという終わり方。つまり根本的な「生きづらさ」は解消されていませんが、だからこそ同じような葛藤を抱えている読者には、間接的に自分を肯定されたかのような読後感が残ります。

ある女性との出会い

「生きづらい」自分を受け入れて生きるしかない

疲れるものは疲れるけれど
『生きやすい』は、表題通りの「生きやすさ」を描いた漫画ではありません。ですが現状「生きづらさ」を抱えた人にとっては、モヤモヤと言語化しにくい悩みに輪郭を与え、無理に矯正する必要は無いのだと教えてくれる。後ろ向きながらも真っ直ぐ歩く支えになり得る一冊です。
我々は自分自身の「生きづらさ」を受け入れて生きて行くしか無い。その自覚こそが『生きやすい』なのかもしれません。
『生きやすい』1話試し読み












(C)菊池真理子(秋田書店)2019
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