Netflixでの配信開始以来、「リラックマとカオルさん」が人間の心をざわつかせ続けている。無理もない。かわいいリラックマのショートアニメを見て癒されよう……と思って第1話を再生すれば、その内容は「中小規模の商社に務めるアラサーの女性が友達と花見をやろうとして重箱に弁当を作るものの、友達たちからは次々にドタキャンの連絡が入り、ヤケクソ気味にリラックマたちと花見をする」というもの。まあ正味、キツい。

あらためて説明しておくと、「リラックマとカオルさん」はタイトルの通り、サンエックスのキャラクターであるリラックマが出てくるストップモーションアニメである。1話10分ちょっととコンパクトで見やすく、なるほどこれは仕事帰りとかに大人が見る癒やしアニメ的な内容なのかな……と思いきや、内容はかなりハードかつソリッド。落ち着いた雰囲気の中にギラリと悪意が光る内容は、脚本の荻上直子(「めがね」とか「かもめ食堂」とかの人ですね)の面目躍如だ。制作期間は2年、撮影期間は7カ月とのことで、そんなに時間をかけてこんなアニメを……という恐怖すら感じる。

このアニメ、主人公カオルさんまわりのディテールの詰まり方が邪悪である。細部が生々しい。まずカオルさんの見た目の問題というのがある。おれはあのカオルさんの撮影用パペットの顔を見たときに衝撃を受けた。具体的にいうと、口の左右から顔の横にかけての凹凸である。ほうれい線というほどはっきりしたものはまだ発生していないけど、頬の肉が確実に重力に負けつつあるあの凹凸……。正確かつ邪悪、職人芸的命中精度である。
さらに言えば、カオルさんの性格というのもいささか露悪的だ。基本的には真面目で勤めもマトモ、他人に対してそこまで強く出ることはしないものの、頭の中ではけっこういろいろ辛辣で、いざ幽霊に襲われそうになればリラックマを身代わりに差し出す多少の自分勝手さがあり、そして意外と性欲が強い……。なんとすさまじい人物設計だろうかと、おれは舌を巻いた。いや〜、いるんでしょうね、こういう人。とにかく露悪の力で視聴者に爪痕を残してやろうという、強い意志を感じる。

でもまあ、だいたい誰だって人間はこんなもんでしょ……と、おれはかねがねそう思って見ていた。そもそも、カオルさんのやることといえばかわいいものである。ちょっと突飛(とっぴ)なことをやろうとしてリラックマから生えてきたキノコを食べようとしたり(ここでいきなり炭と七輪が出てくるのがカオルさんのカオルさんたるゆえんである)、いきなり結婚を決めた後輩がハワイ土産に買ってきたマカダミアナッツのチョコレートに文句を言ったりと、まあこの年の人間だったらそんなもんだわな、という範ちゅうに収まっていると思う。
それに、ストーリー的にはちゃんと因果応報というか、調子に乗ったカオルさんにバチが当たるという作りになっている。性欲が暴走した結果68万円も借金を作ったり(それにしても生々しい額である)、マカダミアナッツのチョコレートに文句を言ったら結果的に自分だけハワイに行けなくなったりと、ちゃんとお灸を据えられている。カオルさんはいわばアラサー女性版野比のび太であり、「リラックマとカオルさん」はちょっぴりビターでシビアな「ドラえもん」と言えるだろう。
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