クリエイターとおかね 第1回前編
まれに「家を建てるために小説を書いた」という人もいますが、本来、クリエイターとおかねは縁が薄いもの。例えば貧乏で有名だったのが樋口一葉で、この人の日記を読むと「昨日より、家のうちに金といふもの一銭もなし」という文章が出てきて泣けます。これだけお金に縁のなかった人が後にお札になるとは、運命とは皮肉ですね。
この連載では、いろんな分野のクリエイターに登場していただき、「お金」についてガチに本音をうかがってみたいと思います。
第1回にご登場いただくのは、マンガ家ユニット「うめ」で原作、演出を担当する小沢高広さん。
経団連の会長が「もう終身雇用は維持できない」と発言したことが話題になりましたが、社会の実感としては、そんなモデルはとっくに過去のものではないでしょうか。
マンガの世界でも、かつては「商業は出版社に任せ、作家はそこに口を出さないのが美学」という風土がありました。しかしそれも、終身雇用と同じようにとっくの昔の話。新しい波が来ています。
妹尾朝子さん、小沢高広さんのおふたりからなるユニット「うめ」は、「東京トイボックス」「南国トムソーヤ」などの作品を、レガシーな紙の出版社から刊行。その一方で、作家による電子書籍出版にいち早く取り組み、またボーンデジタルWeb媒体での作品発表や、noteのようなプラットフォームの利用など、現代ならではの「表現のかたち」を手がけ、作品だけではなくその活動も注目を集めるクリエイターです。結果、昨年度の収入は、ついにレガシーな紙の出版社より、他の媒体のほうがずっと大きくなったそうです。
「どうないでっか。もうかりまっか?」 「うめ」でシナリオ、演出を担当する小沢高広さんにうかがってみました。

「出版社以外」からの収入のほうが大きくなった
――SNSの投稿で拝見したのですが、昨年は「出版社以外」からの収入のほうが大きくなったそうですね。
小沢 2018年度に関していえば、いわゆる紙の出版社からの収益は全体の15%でした。もともと紙の出版社でデビューしたマンガ家としては、珍しい数字かもしれませんね。
収入の中で単純に大きいのは、電子書籍の売り上げです。あと広告の仕事は単価が高い。それともうひとつ、これはちょっと特殊な事情として、昨年は「マジンガーZ」(筆者注『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』)の映画で脚本を担当したので、東映さん関係の収入が大きかった。僕ベースでは、全体の25%くらいになっています。しかも、たまたま去年は紙の出版社での連載がない時期が長かったので、そのために15%にとどまったところはあります。ただ正直、紙の仕事を増やすと、もうからないんですよ。
――もうからない?
小沢 紙の雑誌は、単価は安いですから。今年は1本、紙の雑誌が初出になる一般的な連載が始まるので、「収入はいったんは下がるかな」と思っています。もちろん単行本が当たれば、回収はできるのですが。
――eスポーツを扱う『東京トイボクシーズ』の連載を「月刊コミック@バンチ」ではじめた。『青空ファインダーロック』で、最初期からKindle版配信を手がけられたりして、うめさんというと「編集不要論」「出版社中抜き論」の旗手みたいに見られることもあり得ますが、そうではないんですね。

小沢 そんなふうに「あの人、出版社では仕事やらないんでしょ」といわれているという声を、人づてに聞いたりしたのですが、それは違うんですよ。ベテランから若い人まで、ふつうにいろんな編集さんと仲良く仕事をしています。
例えば『おもたせしました。』(筆者注 新潮社刊。手土産と文学を扱う)は、完全に編集長からの持ち込み企画で、「ちょっと待って。その世界、なにも知らないから」というところから始めたんですよ。
そんなふうに「これはウチ向きじゃないでしょう」という仕事でも、基本的には取り組むようにしていて、編集さんってある意味、人の引き出しを勝手に開けて、売り物にするのが仕事じゃないですか。だからプロに「ちょっとこっちの引き出しを開けてみなよ」と言われたら、それは最初は乗り気じゃなくても信用すること多いです。結果として「こっちも行けるじゃん」という引き出しに、気づいたりするので。
自分のことは、自分が一番、分かってない。実際『おもたせしました。』も、やってみたらやってみたで思ったより描けました。
――アンチではないということですね。
小沢 もし、自分でもいろいろ発信している作家のことをアンチ編集、アンチ出版社みたいに思う人がいるとしたら、それは編集として三流なんだと思います。「作家に対してマウントを取ること」。それが編集だと思ってるような人にはアンチ編集みたいに見えるでしょうね。 そういう人は、いろいろやっている作家が怖いんだと思います。
でも、それもわりと過去の話で、むしろいろんなことを発信しているおかげで、やる気のある若い人が「この人と仕事をしたい」と来てくれたり、学生のころにインタビューしてくれた人がプロになって声をかけてくれたり、「東京トイボックス」の読者だった人が来てくれたり。うれしいことが多いです。
そういう意味でウチはむしろ「あの人、紙じゃなくてもやるんでしょ」という感じで、いろいろ声をかけやすいと思うんですよ、たぶん。だからゲームの世界観設定をやってくれといった話も、いただいたりします。面白かったです。
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