ねとらぼ

「うめ」の小沢高広さんが今どきの漫画家の仕事について語るインタビュー。引き続き「おかね」について聞いてみました。

「世界は手作りでできている」

――これから社会に出ていく人に、アドバイスを送るとしたら、どんな言葉になるでしょうか。

小沢 「極端なこと言う人に気をつけて」かなあ。

 強い言葉は、コップで水かけられたみたいに一瞬びっくりするかもしれないけれど、たかだかコップの水なので。それよりはちゃんとペットボトルを渡してくれる人をちゃんと信じようと。

――テクニックとして、意識してわざと最初に水をかけてインパクトを与える人もいますね。

小沢 いますね。そんな人とやりあうとコストが高いから、さっと逃げたほうがいいです。近寄らない。もしも近寄ってしまったら、早く立ち去る。

 すっと立ち上がって部屋を出て、ぱたんとドアを閉める。驚いた係員の人に「どうしたんですか」と聞かれて「大丈夫です」と答える。それでさっとエレベーター乗った瞬間の解放感。あの気持ち良さ。こういう「やばいところから後先考えずに逃げ出す経験」は若いうちに、1回体験しておくと、いいかもしれないです。

──「苦労すること自体に価値がある」という考え方は、自分も好きではないです。しなくていい苦労はしないほうがいい。最短距離でいけるのなら、そのほうがいい。

 ですが、本来フリーダムなはずの「クリエイターのお仕事」でさえ、「苦労には、それ自体、価値がある」という雰囲気が出てくる。「お辞儀して見えるように傾けてハンコを押せ」みたいな作法や忖度が、この世界でさえもあり得ます。うめさんの新作『東京トイボクシーズ』の第1話でも、頭が硬そうなお偉いさんたちが会議している場面が出てきますが、どんな分野でも「○○しぐさ」みたいなものが発生してしまうのは、社会の風土なのかもしれませんね。

 しかしそうした風土の中、なぜ小沢さんは、マンガの世界に「コスト」の感覚を持ち込み、「ムダに苦労はせず、力を入れるべきところに一番、力を入れよう」という発想を持つことができたのでしょうか。マンガ家ユニット「うめ」のデビューは2001年。「魂を込めた渾身の線で、人を感動させるんじゃ」という価値観で勝負に出る可能性もぜんぜんあった時代です。

小沢 これは今までも、いろんなところで話してきたことですけど、すがやみつる先生の『こんにちはマイコン』に出会ってなかったら、僕も革新よりは伝統を重んじる人間になった可能性もあります。

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あらしがコンピュータを学び、プログラミングにも取り組んでいく(すがやみつる『こんにちはマイコン』2巻より。電子書籍版はebookjapanで配信されている)

 あの本に出会うまで、ゲームで散々遊んでたくせに、それが誰かが作ったものだなんて、考えたことすらなかったんですよ。それが自分でも作れるかもしれない、と分かったときの衝撃はすごかったです。ゲームだけじゃなく、世界はずっと昔からそこにあったもんじゃなくて、みんなで寄ってたかって作ったんだ、自分もそこに参加してもいい、と気づかせてくれました。

「世界は手作りでできている」

 40年も前の作品ですけど、この作品で感じたものが僕の創作の根っこにあります。創作というか、生き方の根っこです。

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堀田純司 大阪生まれ。作家。主な著書に「僕とツンデレとハイデガー」「オッサンフォー」(講談社)、「メジャーを生み出す マーケティングを超えるクリエーター」(KADOKAWA)、編著に「ガンダムUC証言集」(KADOKAWA)などがある。日本漫画家協会員。Twitter @h_taj

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