「キライになったでしょ、俺のことっっ!」
「……」
「普通ひくよねっ! 心の狭いこと言ってるってわかってる。自分も浮気したことあるくせに、シット深いって最低だよね!」
「ケンジ!」
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
迫真の演技で視聴者を引き込むケンジ役の内野聖陽。それをしっかり受け止めるシロさん役の西島秀俊。ドラマ24「きのう何食べた?」が単なる“飯テロドラマ”なんかじゃないことが、はっきりわかるシーンだった。“ごはん”を題材にして、何かを見ている人たちに伝えようとしている。だから、こんな芝居が飛び出すのだ。
先週放送された10話は、好きな人同士が一緒になって出来上がった“家族”というものは、実は脆くて壊れやすいものだということと、壊さないようにするにはどうすればいいのかということがくっきり描かれていた。

好きな人同士の“家族”を壊したくない イラスト/たけだあや
溢れ出るケンジの想い
冒頭のやりとりは、シロさんに小日向さん(山本耕史)と2人きりで食事に行かないでほしいとケンジが懇願する場面。過ちなんてあり得ないと一笑に付すシロさんだが、ケンジには同じようなケースで浮気をして、そのときの恋人と別れてしまった過去があった。
シロさんのことが好きでたまらない。シロさんのことを失いたくない。ケンジはこれまでシロさんと何度も何度も食卓を囲み、そのたびに「幸せ」を噛み締めていた。シロさんを失うことは幸せを失うことだ。
嫉妬、疑い、怯え、自己嫌悪……さまざまな負の感情がとめどなく溢れ出てしまうが、シロさんは逃げずにガッシリと受け止める。ハグやキスだと嘘っぽいが、肩を抱くところにシロさんの包容力を感じる。女らしいとかヒロインとか乙女心とかじゃなくて、男と男、人と人。何も言わず、ケンジの要望どおり小日向さんに断りの電話を入れるところも優しい。
中江和仁監督は1〜3話までの控えめな演出とはうって変わって、内野聖陽の演技を真正面からのカメラで捉えていた。ケンジの感情がより一層ストレートに視聴者に伝わっていたことと思う。
それでいて、開始10分頃にこのシーンを持ってくるという構成の妙も見逃せない。クライマックスだからといって、ドラマの終盤に置くのはちょっと重い。深夜の食事で胃もたれするようなものだ。ドスンという気分ではなく、ふんわりとした気分で床につきたいのが週末の気分である。実際この後、シロさんとケンジは柔らかい日差しの中で、ふんわりしたクレープを頬張って幸せを噛みしめるのだ。

10話の見どころ。ケンジ役の内野聖陽の迫真の演技。女らしいとかヒロインとか乙女心とかじゃなくて、男と男、人と人、ケンジとシロさんのかけがえのない関係が強く刻まれた イラスト/たけだあや
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