食べごたえのあるメンに、たっぷりのもやしやキャベツ、ぶ厚いチャーシューなどが特徴の「ラーメン二郎」。そんなラーメン二郎に“ただ同行してくれるだけ”のサービス「レンタル二郎食べる人」を、Twitterユーザーの清水くん(@hakumaimosukiyo)さんが始めて話題になっています。「一人では入りづらい」「注文の仕方が分からない」などの場面でご利用くださいとのことですが……一体どんなサービスなのか、清水くんさんに連絡をとり、実際に同行をお願いしてみました。
ラーメン二郎は関東圏を中心に展開するラーメン店。一風変わった注文方法「コール」や、ジロリアンと呼ばれるコアなファン層を持つことでも知られています。

なお筆者はラーメン二郎未経験。清水くんさんに手取り足取り教えてもらうつもりで、TwitterのDMでやりとりしつつ日時や場所を決めました。依頼したのは2月1日でしたが、スケジュールが埋まっているとのことで決行は約3週間後に。
「じゃあニンニク、アブラと呪文を唱えてください」
待ち合わせた駅に現れた清水くんさんは、身長180センチ、体重110キロの大柄な若者でした。しかも、両脇には松葉づえを抱えています。現在は大学3年生で、中学校から大学まで寮生活で柔道に打ち込んできましたが、昨年(2019年)ひざをケガしたため、2月に手術をし、現在は病院の近くに泊まってリハビリを続けているそうです。情報量が多い!

「二郎は初めてですか?」「普段ラーメンは食べますか?」「好き嫌いはありますか?」。駅から最寄りのラーメン二郎に向かって歩く途中で、清水くんさんは、いくつか質問をしてきました。メンの量を決める際の参考にするそうです。
清水くんさんが「レンタル二郎食べる人」を始めてから、取材日までは1カ月もたっていませんでしたが、この日までに十数人を二郎に連れていったと教えてくれました。依頼人の8割以上が女性だったといいます。
さらに「コール」についても教えてくれました。
「店員さんに『ニンニク入れますか?』って聞かれたときに返すのが『コール』です。ニンニク、アブラ(脂)、ヤサイ(もやしやキャベツ)、カラメ(タレなど)の4種類あります」と清水くんさん。「初めてなのでシンプルなやつで」と伝えると、「じゃあ、ニンニク、アブラと呪文を唱えてください」と返ってきました。
5分ほど歩くと店に着きました。列ができていましたが、並んでいたのは大人数のグループだったため、2人組のわれわれが先に店内に通されました。まず、自動販売機で食券を購入します。初心者の筆者は「小ラーメン」を、清水くんさんは「小ぶた増し」を選びました。
なお、ラーメン二郎では「小ラーメン」が一般的なラーメンのメンの量に匹敵します。清水くんさんによると、「初めての方は『大盛り』を避けたほうがいいです。お店によっては『ミニ』とか『プチ』もあるので、迷わずそれを選んでください。不安だったら、食券を見せるタイミングで『メンを少なめに』とか『半分で』って言うと対応してもらえます」とのことです。
カウンター席に着くと、食券を差し出します。ここで「あれっ、教わった呪文はどのタイミングで言うんだっけ?」と混乱してしまいます。清水くんさんが同行した人たちも、ここで「パニッくって『あ、あ……』となる人は多い」そうです。店員から聞かれるまで待つよう、再度教わりました。

清水くんさんは持参したティッシュとウェットティッシュをカウンターを取り出しました。手が脂でベトベトになったときなどに使ってくださいとのことです。さすがの気遣いです。
数分後、ついにそのときがきました。「ニンニク入れますか?」。店員の動きを熟知している清水くんさんに、その少し前から「そろそろきますよ」と教えてもらっていたので、迷わず、なんなら食い気味に「ニンニク、アブラ!」とコールを返すことができました。清水くんさんは「ヤサイ、アブラ」です。
「お店の人もニンニクを入れる前提で味を整えていると思うんですけど、僕はニンニクを入れずにスープの味を味わいたいなと思って。最近はニンニク入れていないんです」と清水くんさんは言います。
それから1、2分後、カウンターにデン! と注文したラーメンが置かれました。もやしの山にアブラ、分厚いチャーシューが2枚のっています。早速食べ始めます。
結論を述べるならば、初めてのラーメン二郎のラーメンは「格闘」でした。アブラが乗ったヤサイから着手し、途中でメンをすすりながら食べ進めます。もちろん「ぶた」を頬張ることも忘れません。若いころは毎晩2合の白米を平らげていた筆者も今は中年。あまりのボリュームに、途中でくじけそうになります。隣を見れば、清水くんさんは早々に食べ終えています。「依頼者が女性の場合は、食べる早さを合わせるんですが、男性の場合はふつうに食べます」と笑っています。

清水くんさんが「完食」するまでの倍ほどの時間を食べて、ようやく筆者も食べ終えることができました。駅で待ち合わせてからここまで、約40分間でした。
まさか依頼が入るとは「サービスを始めたのは思い付き」
清水くんさんがラーメン二郎に通うようになったのは、2年ほど前。もともとラーメンが好きでしたが、地方で暮らしていた中学生のころから、普通のラーメンでは大盛りでも食べ足りないと感じるようになったそうです。「そんなとき、東京には『二郎』という、とんでもなくコスパのいいラーメンがあると聞いて、憧れたんです。大学で東京にきて、初めて行けたんです」。
以来、ラーメン二郎にハマり、大学近くのラーメン店でバイトをするようにもなりました。柔道の厳しい練習の後でバイトに入る日々でしたが、「そんなときにまかないで食べるラーメンは格別です」と清水くんさんは言います。
「レンタル二郎食べる人」のサービスを始めたのは「思い付き」でした。まかないのラーメンをツイートしようとしたとき、ふと「レンタルなんもしない人」の存在を思い出したそうです。何げなく、それをラーメン二郎にからめてツイートをしたところ、予想以上の反応がありました。「DMが2つ3つ届いたら面白いかなと思ったんですが、すぐにスマホの通知が止まらなくなって。関西とか東北在住の人から『こんど東京に行くので』と依頼が入るときもありますし、『多分清水くんのお母さんより年上ですが……』と50歳代の人から依頼されたこともありました」。
「需要がある限りはサービスを続けたい」
もともと人見知りな性格だった清水くんさんでしたが、「これじゃダメだ」と1年ほど前から人前でも緊張しないよう、自分なりにトレーニングを重ねてきました。さらに「レンタル二郎食べる人」のサービス開始によって、一気に初対面の人との関わりが増えました。そんな状況を清水くんさんは「楽しんでいる」そうです。
ラーメン二郎の魅力について清水くんさんは、「お店によって個性が違うこと」だと言います。「スープの乳化具合、メンのかたさ、野菜のゆで加減が違うので、まったく別の味を楽しめる。だから、このサービスをやっていても飽きることはないんです」。
清水くんさんはもうすぐ4年生。就職活動が始まっていますが「社会人になっても需要がある限りはサービスを続けたい」と言います。「特別なことはしているつもりはなくて、ご飯を一緒に食べているだけなんです。働き始めても、ふだん食べるご飯の代わりに誰かとラーメン食べに行くっていうだけなんで」。
なお「レンタル二郎食べる人」は取材日の時点で、3月末まで予約で埋まっているとのことです。
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