香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」を巡り、高松市に住むITエンジニアの男性が、条例の見直しなどを求める陳情書を香川県議会・西川昭吾議長あてに提出したことが分かりました。
陳情書は2通あり、いずれも6月17日に県議会事務局に提出。1通は条例そのものについての見直し議論を求める内容、もう1通は制定過程における問題点を洗い出し、県民への説明責任を果たすことを求める内容です。通常の処理であれば、陳情の内容については本会議で報告・審査され、そのやりとりは議事録にも残ることになります。

提出された陳情書(2通)※きしもとさん提供

片方は条例の見直し議論を求めるもの、もう片方は制定過程における問題点洗い出しを求める内容となっています ※きしもとさん提供
陳情書を提出したきしもとみつひろ(@Attihelo37392M)さんはTwitterで、今回のアクションについて「陳情した項目に関する議事録を確実に残すこと」が大きな目的であると報告しました。
きしもとさんに今回の条例について話をうかがうと、陳情には盛り込まなかったものの、ITエンジニアとして看過できないことがあるといいます。
きしもとさん:私たちITエンジニアは、業務を通じて、コンピュータの持つ可能性、人の持つより良く生きたいという願い、そして人の持つ可能性を、お客様とともに育み、引き出していくために仕事をしています。そうした仕事を医学的な事情で制限させるのであれば、世界的レベルで確証された信頼性のあるエビデンスの提示以外、ありません。それがないと、仕様書(工業製品の製作にいう設計図)を作る際、数値に落とし込んでの対策が取れないからです。しかし、この条例では非科学的な根拠をもってその制限の理由としており、これは前述のエンジニアの仕事の目的を不当に制限するものです。コンピュータの可能性を不当に制限することは、そのユーザーの持つ選択肢や可能性も制限することになります。
ここでいう人の願いや可能性とは、闇夜を照らす光明のようなものです。ITエンジニアとして断じて看破できないこととは、コンピュータの可能性を不当に制限する行為をもって、その「光明」を覆い隠そうとする、あの条例が掲げる思惟です。このことから、私は、この条例の内容については「法律用語にいう『個人の尊厳』に近いもの」を侵す存在であると認識しています。なぜそんなことをするのかと、言いようのない悲しさすら覚えます。
加えて、制定過程への疑問についても、「個人的な感想を含みますが――」と前置きしつつ、次のように語りました。
きしもとさん:あの条例は、制定過程の疑惑が作った「生まれ故郷の良いイメージ全てを覆す悪評」を、全世界に向けて展開しようとしています。これは、香川県民全員の名誉と尊厳を傷つける『罪』に等しい行為です。県議会は、逃げずに、その罪を、制定過程の検証・結果の公開を通じて償ってほしいと考えています。少なくとも、今回のアクションによって、陳情内容に関する議論はされます。過去に犯した過ちは変えられませんが、反省して対策を提示しなければ、その過ちを赦す気概は世論に根付きません。今回の陳情を機に、議会制民主主義を貴ぶ議会に生まれ変わってほしいと思います。
ただ、きしもとさんによると、今回のアクションはあくまで中立の立場から行っているもので、上記のような「個人的な思い」はあえて陳情には盛り込まなかったといいます。目的は条例の完全否定ではなく、あくまで「より多くの県議に議論の席についてもらうこと」。特に「条例採決時に反対票を投じた・棄権した3会派に所属する県議に対して、できるだけ多く陳情に賛成の立場に回ってもらうこと」が重要だときしもとさんは語ります。
また前述の通り、陳情を行うことによって、少なくとも公開の場で、問題についての議事録を残させることもできます。こうしたアクションによって、検証の機会を少しでも拡張し、外堀を埋めていくことができれば、問題解決に向けていくらかは貢献できるのでは――というのがきしもとさんの考えです。
そのうえで、今後どうなっていくのが理想か尋ねると、「ゲーム障害対策が必要である点は、条例賛成派の方や県議も同じ考えだと思います。ただ、みんなが望む姿にならなかった。どこで道をたがえたのかを検証し、議論を通じ、みんなが望む形にしていくのが工程としては理想」ときしもとさん。最終的には、条例に賛成する県議らと対話する機会を設け、全面的なリビルド(作りなおし)を図りたいとのことでした。
きしもとさん:どこかのSF映画ではないですが、テクノロジーに対して過剰な恐れを持つと、それが偏見や、ひいては憎悪の対象として認知されるようになります。見れば刹那に『否定しろ』『壊せ』『抹殺しろ』――そんな思想につながりかねません。まず、ITというテクノロジーに恐れを抱かず、触れて理解し、勉強を欠かさないようにしていただきたいと思います。テクノロジーには罪はありません。善悪もありません。自分たちの行動の責任を、この話題関連でいえば、ビデオゲームやITというテクノロジーに転嫁させることは、お控えいただきたいのです。それは、大人が子どもに示す『大人のあるべき姿』ではありません。ITというテクノロジーについて理解を進めていただくために、私たちITエンジニア(特に、技術営業職)はいます。遠慮なく、頼ってください。
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