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YouTubeに投稿された1本のHip-Hop動画がネット上で大きな関心を呼んでいます。30歳を超えて挑んだ新たな道で待ち受けていた、許されざる理不尽な結末とは……。
話題を呼んでいるのは、crystal-zさんが6月11日に投稿した「Sai no Kawara」という楽曲。「ネタバレを知らない状態で最後までぜひ聞いてほしいです」「これが音楽じゃないなら、何を音楽と思えばいいのか」とネット上で口コミが広がり、無名アーティストの初投稿としては異例の48万再生を記録しています(2020年6月28日時点)。

以下、楽曲に関するネタバレが含まれるため、動画を鑑賞後に読み進めていただくことを強くおすすめします。
楽曲ではまず、音楽仲間と共にセルフパッケージのシングルを自主制作し、シェアハウスで充実した日々を過ごす主人公の人生が描かれます。しかしその後、仲間に家族が増えていったことからシェアハウスは解約し、クルーも解散。32歳となった主人公は「目指してみようか 医学の道」「それは茨の道」と、医学部受験を心に決めます。
アルバイトをしていた塾に辞表を出し、毎月お茶の水で模試を受け、勉強漬けの毎日の中、彼女の晩ごはんで救われる――そんな日々を過ごす主人公。数学の参考書は青チャート式から赤チャート式に代わり、手ごたえも十分です。高校時代のセンター試験の点数も抜き、模試ではA判定をたたき出しますが、「目標の東京の学校は全部 その年も その次の年も全滅」で、合格発表の際には「えっ、なんで?」という結果が続きました。

ここで主人公は「目標のハンデ? 夢にさえ思わねぇ ゴールテープごとずらされるなんて」と32歳という年齢の壁に気が付きます。東京にこだわれば夢は叶わないが、地方受験をすれば彼女とは別れることになるという究極の選択肢の中、主人公は後者を選び、地方大学の医学部に合格。彼女にプロポーズをした後地方へと旅立ちますが、最後のサビはこのようなリリックで締めくくられています。

順調じゃなくていいから
天才じゃなくていいから
堂々巡り 巡り 繰り返し
東京 偉大なこの街
順調じゃなくていいから
天才じゃなくていいから
堂々巡り 巡り 繰り返し
東京じゃ春は来ないし
楽曲の最後には女性アナウンサーが「医学部入試で年齢などを理由に不合格にされたと主張する元受験生の男性が、大学を提訴しました」「34歳の男性は去年、不合格にされましたが、その後大学側が調査した結果、合格点に達していたことが分かりました」と読み上げる声がサンプリングされており、画面は暗転。
複数の男性の声で「大変申し訳ない」「年齢の問題で不合格になりました」「まじめでいらっしゃるから……」「不正ではない」「申し訳ないとしか言いようがない」といった声が複数収録されており、主人公とみられる男性がカバンに忍ばせていたであろうスマートフォンを取り出すところで映像は終わっています。

楽曲に隠された真のメッセージとは
「Sai no Kawara」で描かれている主人公とは、実はcrystal-zさん本人のこと。2018年に明るみに出た医学部不正入試問題の当事者なのです。
順調じゃなくていいから
天才じゃなくていいから
堂々巡り 巡り 繰り返し
東京 偉大なこの街
またサビで歌われている歌詞をよく見ると、「順天堂」「東京偉大(東京医大)」というメッセージが隠されていることが分かるほか、アニメーション動画やリリックの中にもさまざまなメッセージが巧みに組み込まれていることも分かります。
Twitterなどを中心に楽曲に込められた思いやメッセージが話題となる中、ねとらぼ編集部はcrystal-zさん本人に取材を申し入れました。
――楽曲公開後の反応について、率直にどう感じましたか。
crystal-z:楽曲の反応には正直驚きました。上手くいけば1カ月くらいかけて10万回再生いくかどうかという想定でしたので。でも(楽曲に隠された)イースターエッグに関してはあまり解読が進んでいないと感じます。
――動画のアニメーションについてはどのように制作しましたか。
crystal-z:アニメーションに関してはフリッパクリップというアプリを使ってiPadで制作しました。1日10時間ほどかけて2週間位かかりました。一切絵を描いたことがなかったので苦労しました。データが全部消えたりして大変でした。
――順天堂大学に対しては訴訟を起こしたほか、東京医科大学とはADR(裁判外紛争解決)を続けているとのことですが、進捗についてはいかがでしょうか。
crystal-z:それぞれの大学との話し合いはCOVID-19の影響で一時的に止まっている状態です。態度に関しては事務的な感じです。どの裁判も同じだと思いますが。
――楽曲の終盤で使用されている音声について、あれはどのようなものでしょうか。
crystal-z:どの大学ということはお答えできませんが、リアルなものであるとだけお答えしておきます。反響の中にもあったのですが、例えば役者や声優などを使って、こちらで台本を用意したとしてもあの空気感は出せなかったと思います。
――最後に、楽曲を制作していたとき、どのようなお気持ちでしたか。
crystal-z:心境としては文字通り「bomb」を作っているという感じです。
ねとらぼ編集部は順天堂大学と東京医科大学に対して、この楽曲が話題になっていることを把握しているか。大学としてのコメントをもらえないか。楽曲内でサンプリングされている音声は大学の関係者なのか。年齢を理由にした不合格は本当に不正ではないのか。などについて質問しましたが、順天堂大学からは「コメントは差し控えさせて頂きます」との回答が寄せられました。
東京医科大学からは回答がありませんでした。
(Kikka)
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