Twitterで8月14日ごろから、ハッシュタグ「#漫画家は自分が体験したことしか描けない」が盛り上がりを見せています。「だとすればファンタジーは誰にも描けない」「作家の想像力を軽く見ている」など、特に漫画家からの反論ツイートが多数。一体誰が「漫画家は自分が体験したことしか描けない」なんて言い出したのか……? ところが調べてみると、そもそもそんなことを言った人は存在しなかったようです。

確かに、創作物の内容に作者の経験が反映されることは多々ありますが、「体験したこと“しか”描けない」は過言でしょう。その挑戦的な文言から、このハッシュタグは多くの反発を招き、一時はトレンド入りする勢いに。運転経験がないにもかかわらずカーチェイスを描き切った園田健一さんのエピソードをはじめ、当の漫画家による言及も注目を集めました。
免許がなくとも、車のシーンは描ける
新井理恵さんのカッ飛んだギャグ漫画『×-ペケ-』。作者の経験談なわけがない
「マジかすげえな漫画家」の10文字で反論した平野耕太さん。簡潔でいて意味深長
ただ、この流れには不可解な点が1つ。投稿されたツイートの大多数は「ハッシュタグ名に対する反論」であり、話題の発端となった人は誰なのか、そもそもそんな発言があったのかもよくわからないまま、ハッシュタグだけが広がっていっているのです。
そんな中、小説家の蛙田アメコ(@amecokaeruda)さんが、「自分が騒動の火種です」と名乗り出ました。蛙田さんによると、発端になったツイートは、自身が投稿した「『作家は経験したモノしか書けない』『作品がこうだから、作者はこういう人間のはずだ』という話、目にするたびに『えー!』と思ってしまいます」というツイート。そう、誰かが実際にそういう発言をしたわけではなく、「しばしば見かけるそういう言説」への反論が発端だったのです。
発端とされるツイート
蛙田さんにしてみれば、古くからしばしば議論されてきた話に少々意見しただけのこと。ただ、このツイートがきっかけで、そこから「『作家は体験したものしか書けない』と主張する架空の人物」がいつしか誕生し、無用な怒りを招きながら伝染していったのでは――蛙田さんはそう推理しました。
蛙田さんは騒動の経緯をまとめてnoteに投稿。「『反論する人』が人々に認知されることで『もとは存在していなかった敵』が虚空に発生」したのだと、今回のできごとを振り返りました。ねとらぼの取材には、「昔から繰り返されてきた話題なだけに、加速度的に広がったのだと思います。『火のないところに煙は立たず』というけれど、火はなくても人はキャンプファイヤーをするんだなぁ、人間っていとおしいなぁと感じました」と答えています。

蛙田さんが公開したnote「『作家は経験したことしか書けない』というトピック、火種は僕でした〜『存在しない敵』を作ってしまった話〜」
そんないきさつが知られぬまま議論は続き、ハッシュタグは数日に渡って流行。反論代わりに、体験したことだけでは描き得ないような、奇想天外な漫画を紹介するツイートも多数寄せられています。
さらに、あえてハッシュタグに乗っかった漫画家の体験談漫画紹介や、「荒木飛呂彦はもちろん全部体験してることしか描いてないし年齢3000歳超え」といった大喜利的な展開も。発端の話から大きく逸脱し、不思議な盛り上がりを見せています。
協力:蛙田アメコ(@amecokaeruda)さん
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