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都会育ちの子にとって、鉄道路線は複線が当たり前です。道路と同じように、電車は一方通行で、並んだ線路を走り、行き違います。そんな私が田舎で受けたカルチャーショックの1つが「単線」でした。

私と単線の出会いは小学生の頃、富山地方鉄道の小さな駅でした。両親が東京生まれ東京育ちの私には「田舎」がありません。田舎がある子がうらやましい。そこで、仲良しだったご近所さんの帰省にくっついて富山へ行きました。そのご近所さんの実家の最寄り駅が単線で、プラットホームが1つ。えっ、何これ……。
初めて単線を見たときは「反対方向の電車は来ないのかな」と思いました。でも、右に行く電車も左に行く電車も同じ線路と知ったときは「どうして衝突しないんだろう」と不思議に思いました。そして、途中の駅ですれ違う様子を見て「あぁ、ぶつからないんだ」と安心したものでした。
でも、それぞれが勝手に走っていたら「駅と駅の間の線路上で鉢合わせしないのかな」とも思いました。もともと電車が好きな子どもでしたから、この体験は鉄道に興味を深めていくきっかけの1つになりました。
その後、全国の鉄道を乗り歩いてみると、東京のように「複線や複々線で電車が2〜3分おきに来る鉄道のほうが特殊だ」と思うようになりました。
単線の列車の行き違いと言えば、2020年9月1日に兵庫県の北条鉄道で「行き違い設備」が完成しました(関連記事)。

これまで北条鉄道は、起点から終点まで1つの列車が往復するだけでした。それが、この新しい行き違い設備によって同時に2本の列車を運行できるようになりました。そのキモが「ICカード」を使った日本初の方法にあります。
今回は、列車を安全に運行するためにとても大切な鉄道の仕組み「閉そく」を解説します。
鉄道の「閉そく」って何? 「走っちゃダメな区間」と「通行手形」がある
列車は運行スケジュールが定められています。あらかじめ決められた時刻で走れば、単線でも車両同士が駅で安全にすれ違えます。
しかし何らかの事情で片方の電車が遅れた場合はどうでしょう。到着予定の列車が遅れているのに反対側の電車が時刻を厳守して発車してしまうと、駅間(1本の線路上)で鉢合わせになります。ダイヤの乱れ、駅員や運転士の勘違いなど、さまざまな原因が事故につながってしまいます。

そこで考え出された仕組みが「閉そく区間」と「通票(つうひょう)」です。
線路をいくつかに区切って「その区間に入る列車は1つ」と限定します。この区間を閉そく区間といいます。そして「閉そく区間ごとに通行手形を1つだけ作り、閉そく区間には通行手形を持った列車しか入れないようにしましょう」という仕組みにしました。この通行手形を「通票」といいます。
原始的な通票は金属製の棒のような形でした。「一目で通票と分かる」かつ「簡単には複製できない」ためです。その形状から「スタフ(竿)」と呼ばれました。
駅長がスタフを運転士に渡すと出発可能になります。列車はとなりの駅まで走って、スタフをその駅長に渡します。そのスタフを反対方向の列車の運転士に渡すと発車OK。これでこの区間を走る列車は「1つだけ」にできます。バトンリレーのような感じですね。

スタフは「閉そく区間に1つだけ」と厳格に決められたため、列車は上りと下りが対になります。常に行ったり来たりの単純往復しかできませんが、鉢合わせにはなりません。
しかし運行本数の多い幹線になると困ることが出てきます。「旅客列車の直後に貨物列車を走らせたい」とか、「各駅停車を駅に待機させて急行列車を優先したい」など。線路を有効に使いたい場面があります。
そこで考え出された方法が「通券(つうけん)」です。通券はスタフ(通票)を補完する紙片で、2つの駅間で打ち合わせの上で発行されました。しかし、常にスタフを持つ駅が通券を発行する権利を持つと決められたので、「片方向」しか続行運転できない課題がありました。

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