"推し"がいるのは幸せなことだ。「大好き!」「かわいい」「尊い」といったさまざまな感情が生まれて、心が浮きたってくる。でも、そのうちに「ずるい」「憎い」という感情が生まれたら……?
マンガ『ガチ恋粘着獣』(星来、竹書房刊)は、人が人を推すときに生まれるエネルギーを、正負を問わずとことんパワフルに描く。だから「好き」の先の「憎い」もこのマンガには描かれる。

主人公のヒナは女子大生。男性3人組の動画配信ユニット「コズミック」の一人・スバルにガチ恋している。画面越しの彼を祝うために手作りケーキを用意し、たとえお金がなくても彼の好物の626円のドリンクを飲み、日常生活をスバルの色に染めようと努力する。
ある日、そんなヒナの元に見知らぬ鍵アカからのDMが届く。開いて見ると、それはなんとスバルからのDM。しばらくして2人は付き合うことになるが、実はスバルはファンを食いまくるろくでなしだった。スバルの裏切りを知ったヒナはある行動に出るが……。

「つながり」から始まる推しとのドラマ
推しとファンの関係性を描いたマンガといえば『推しが武道館いってくれたら死ぬ』『ミリオン・ドール』といった作品が有名だろう。これらの作品では、基本ファンは推しのプライベートに関わらない。演者のプライベートに介入するのは"よいファン"の行いではないからだ。
しかし、『ガチ恋粘着獣』では"つながる(この場合は交際関係に至る)"というルール違反からドラマが始まるため、他作品ではスルーされがちな感情がズバッと描かれている。
ヒナは、スバルの浮気相手の1人・りこめろが高額の投げ銭をしているのを見て、カード決済で5万円課金して奨学金を食いつぶしたり、スバルとコラボしたインフルエンサーの女の子に嫌がらせのメッセージを送りまくったり……。その上、演者とつながるのだから、完全にヤバいファン。

そして肝心のスバルは、自分のファンの嫌がらせのせいで女の子が活動休止したのを見て、「嬉しい……!! そんな事しちゃうくらい俺のことが好きなんだ…?」と考える自己中野郎。こうして要素だけ抜き出すと、なんだか陰鬱(いんうつ)ドロドロな後味になりそうな話だ。
展開はダーク、なのに読後感はポジティブ!
しかし、ダークな展開に反し、『ガチ恋粘着獣』は妙にポジティブで、むしろ明るい気持ちで読める。
彼女たちがスバルに「嫌われたかも」と悩んだり、身勝手さに怒ったりすると、髪の毛がブワッと逆立ち、渦を巻く。驚いたときには瞳孔が開くし、嫉妬に支配されると顔が般若になる。なんだか役割や場面に合わせてメイクや衣装が変わる能や歌舞伎っぽい。しかも、みんな手足が長くて髪形が派手で、普通の服を着ていても衣装みたいに見える。
また、昼間は優秀な会社員のりこめろが、ゴスロリ服を着ているときは語尾に「めろ」をつけたり、ヒナはヒナで、スバルが別の女の子からもらったプレゼントをつけているのを見て、「早く浄化しないと……」と思ったり、どこか芝居じみている。

そのせいか、起こる出来事はことごとく卑近(ひきん)なのに、ゴージャスな気分で楽しく読めてしまうのだ。
そして、彼女たちは喜ぶときも泣くときも怒るときも常に全力だ。理屈や正しさ抜きで「ガチ恋」していないと、ここまで潔くお金も時間も使えない。絶対まねしたくないけど、正直かなりうらやましい。日常生活でこんなに欲望に忠実に生きられる瞬間、いったいどのくらいあるだろう?

それでも、クソな演者のせいでひどい目にあうファンの話なんて読みたくない人もいるだろう。しかし、そこでひとひねりあるのがこの作品の強いところ。ヒナは意外な力技で「演者>ファン」の力学をひっくり返す。憎しみの爆発の果てのヒナの決断、ぜひその目で確かめてほしい。
ヒナとスバルの物語はすでに完結しているが、今は新しいガチ恋・琴乃の話が進行中。感情的で危なっかしいガチ恋たちの行方をぜひ見守ってほしい。
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