「コスプレ」といえば、数あるオタク趣味の中でも相当にコスト、時間、材料、技術力、熱量を必要とするジャンルの一つ。しかし特段(狭義の)オタクではなかったにもかかわらず、60歳からコスプレにトライした結果、新たな人生の楽しみを見つけたのが、“亀仙人”こと河口知明さん(@kohguchi)です。
河口さんはなぜその年齢で、それまで全くなじみのなかったコスプレに挑戦することになったのか、そしてそのメリットとは何だったのか。ご本人に直接お聞きしました。

“亀仙人”こと河口知明さん
連載「オタクの老後」
この連載はねとらぼとYahoo!ニュースの共同連携企画です。90歳の「ゲーマーおばあちゃん」が注目されるなど、昨今、高齢者でもオタク趣味を持っている人は珍しくなくなってきました。いわゆる「オタク第一世代」(1960年代)も60歳を超え、「オタク」と「老後」は今後より身近なテーマになっていくと考えられます。オタク趣味とどのようにして長く付き合っていくべきか、老後の人生を満喫するためのヒントを全4回の連載で伝えます。
コスプレイベント主催をきっかけに、自らもコスプレの道へ
河口さんは今年(2021年)で71歳になる現役コスプレイヤー。およそ10年前に、広島のコスプレイベント「コスカレード」の主催として初挑戦した『ドラゴンボール』の亀仙人コスプレがネットでは大きな話題に。それ以降も『進撃の巨人』のピクシス司令や、『ジョジョの奇妙な冒険』のジョセフ・ジョースター、『NARUTO』の三代目火影猿飛ヒルゼンなど、自身の年齢を生かしたコスプレに次々トライ。現在も、広島県内外でコスプレイベントを開催しながら、自身もさまざまなコスプレを披露しています。

『進撃の巨人』のピクシス司令
またコスカレードの主催者としても、河口さんはその年齢や経験を生かして自治体や企業とのパイプ役となり、個人では手配が難しい公共施設や文化財でのイベント開催に尽力。さらにはポップカルチャーイベント「ポップカルチャーひろしま」とも協力し、国外のコスプレイヤーを広島に招待するなど、町おこしをしつつ日本のポップカルチャーを世界に広げる活動を続けてきました。

2019年に開催したイベント「ポップカルチャーひろしま2019」の様子
河口さんがコスプレイヤーとして活躍するきっかけは、当時(2009年ごろ)の広島市長からの相談でした。そもそも河口さんは広島でTシャツを印刷する会社を40年間経営した、れっきとした社長さん。コスプレ以前の趣味はクラシックカーやクラシックバイク。また、2000年の段階でネットを通じた広告を打ち、自社の売り上げを大きく伸ばしてもいます。
「PCとか新しいものにはずっと興味があって、主催したレースの結果を自分のWebサイトに載せたりしていました。そういう意味では、コスプレの前からオタクっぽいところはあったのかなあ……と思いますね」(河口さん)
そんな経験から得たネット販売のノウハウを、今度は地元広島の経営者に伝えていこうと決心します。そのことを当時の広島市長にメールで提案したところ、たちまち会ってみたいということになり意気投合。市長と相談した上で「広島アキハバラ塾」を開講することになりました。広島なのに秋葉原という塾の名前も、当時の秋葉忠利市長から取ったものでした。
その後河口さんは秋葉市長から「海外出張したとき、広島といえば原爆と平和しか話題にならない。他にも日本のいろいろな文化が広島にもあることをアピールする方法はないだろうか」という相談を受けます。以前から「日本のオタクカルチャーは世界的に人気がある」という話を耳にしていたた河口さんは、「それならコスプレイベントがいいのではないか」というアイデアを思い付きます。
「このアイデアを話したら、広島城でも(被ばく建物の)旧日本銀行広島支店でもどこでも貸すからやってほしいということになりまして。それで市長室の方でアドバイザーとして見つけてきたのが、今でも一緒にイベントをやっているカワサキマミです」(河口さん)
カワサキさんは広島のオタクカルチャーニュースサイト「広島オタクマップ」を運営している筋金入りのコスプレイヤー。河口さんから依頼を受けたカワサキさんは、河口さんに対し一つの条件を出します。「主催者の人たちもコスプレをして、場の空気を壊さないようにしてほしい」――。
こうして河口さんは、60歳にして初めてのコスプレに挑戦することに。選んだキャラクターは『ドラゴンボール』の亀仙人。髪の毛も全部そって、発泡スチロールで甲羅を自作。アロハシャツにサングラスと髭を組み合わせ、初めてなのにほぼ自作の衣装を用意しました。こうして始まった「コスカレード」は、今や多数の外国人、取材者、行政関係者の見学も招き入れる一大コスプレイベントとなっています。

河口さんによる、初めての「亀仙人」コスプレ
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