ねとらぼ

「風」「光」にも注目してほしいクライマックス

 そして、クライマックスの「風」「光」に筆者は思いっきり涙した。「風見鶏」がどのタイミングで、どのように動いたのか。「街灯」の光も灯りはじめるのだが、それよりも強く光って見えるのは誰なのか。その光を見ているのは誰なのか。風とは想いの向かう方向であり、光とは希望だ。

 また、東ゆうは「だって、アイドルって大勢の人たちを、笑顔にできるんだよ? こんな素敵な職業ないよ!」という狂気を見せてしまい、亀井美嘉から「近くの人を笑顔にできないできない人が……」といわれてしまっていたが、ここではまさに近くの人、友達みんなの、そして東ゆう本人の(涙を流しつつの)笑顔がある。

 これまで本当の気持ちをお互いに言えなかった東ゆうとくるみが、「じゃあもう1回(アイドルを)やってみる?」「絶対やだ」と気軽に言い合えるようになったのも、なんと尊いことだろうか。

(C)2024「トラペジウム」製作委員会

 東ゆうはやべーやつではあるし、客観的には「自分がアイドルになるためにみんなを利用していた」ことも事実だろう。だが、大きな過ちと反省を経て、「好き」を原動力に行動し続け、なおも夢を追い続ける東ゆうは、カッコよく見えた。そして、「呪い」でもあった(アイドルが)(東ゆうが)(みんなが)「好き」という気持ちはそれぞれの宝物になり、この経験を経て彼女たちの友情はずっと続くようにも思えたのだ。

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この物語が伝えていることは

 本作が伝えていることは、「どんな経験だって生きる糧(かて)になるし、それで大きな気付きを得ることもある」「誰かをひどく傷つけたとしても、その人の行動が救いになることもある」という、やはり誰の人生にも起こり得ることだ。

(C)2024「トラペジウム」製作委員会

 そのメッセージは、中盤で工藤真司が勝手にみんなの写真を撮り、くるみに「撮るなら撮るって言ってよ」と苦言を呈され、「安心して、いいの撮れました」と応えるシーンにもリンクしている。誰かが自分本位で勝手にやったことが、その時には不快に感じたりもしても、大きな過ちだったとしても、その過程にあったことは一生の宝物になったりもする。ラストでみんなが見た光景を思えば、それもまた明白だろう。

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タイトルの意味は

 そして、タイトルのトラペジウムとは「不等辺四辺形」という、「どの二つの辺も平行でない四角形」もしくは「オリオン大星雲の中の4つの星の集まり」を指す言葉だ。4人の気持ちは決して並行(同じ)にはならない、でもどこかで「交わってはいる」し、それが星(夢)のように美しく見えるときもある。そんなことを示している、見事なタイトルだ。

(C)2024「トラペジウム」製作委員会

 この「トラペジウム」の魅力を掘り下げていけば、もうキリがない。きっと、人生のどこかで、この物語を(東ゆうのヤバさと共に)思い出し、勇気付けられることだろう。ぜひ、配信ではじめて見たという方も、劇場公開時に熱狂した多くの人と同じように、「こんな素敵な映画ないよ!」になってほしい。

ヒナタカ

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