ねとらぼ

倫理観がどうこうではなく、ヒッチコック的なサスペンスを目指していた

──話題騒然となった第10話について、ぜひお聞かせください。第9話はポン子の結婚式と、おばあちゃんのムジナと葬儀を同時に行うという、ちょっと倫理観的には危ういかもと不安になりつつも、お父さんのブンブクの「感情が迷子だ!」というセリフに共感できる感動的なお話でした。対して、第10話は「死体を隠そうとする」ブラックコメディーとなっており、おそらくは悪い意味ではない「第9話の感動を返して」という意見も目にしました(笑)。どちらも死体をめぐる物語という共通点がありますが、そのことも意識されたのでしょうか。

村越 企画の初期から、第10話のような殺人事件ものはやりたいと思っていました。物語のベースは竹中さんともお話していましたが、物語の詳細は脚本家の和田さんの力が大きいです。ただ、みな倫理観をあえて崩そうとか、不謹慎なことをおもしろおかしくやろうというよりは、アルフレッド・ヒッチコック監督の「ハリーの災難」に通ずる、「死体をどうするかで右往左往するブラックコメディー」を意識していたんです。

竹中 第9話と第10話を意図的にリンクさせたというよりも、脚本作業を進める上で自然と繋がりができたようなイメージですね。第10話の脚本の決定稿ができたときに、村越さんが「意図してなかったけど、第9話との並びがすごいですね」みたいな話をしていた記憶はあります(笑)。

──その第9話と第10話のリンクというかギャップが、極に達するのは第10話のラストカットですね。おばあちゃんと、温和宇宙人と強面宇宙人が空に並んだあのカットを見たとき、良い意味で「ひどい」と口に出して大笑いしてしまいました(笑)。

竹中 出来上がった画を見て、うっすらと「こうなるんだ……」と驚いたことは覚えていますね(笑)。そのブラックさは、脚本家の和田さんのセンスなのかと思います。

村越 そこも「お客様は粗末には扱えないから、おばあちゃんと一緒に埋めてあげよう」というややズレながらもヤチヨたちなりに考えた形跡が見て取れるのかなと。

──それもそうですよね。実際に劇中では(バレないように死臭を消そうとしていたという動機はともかく)ポン子が死体をお風呂で洗っていたことは、丁寧に扱っていたといえなくもないですし。 他にも劇中では「火曜サスペンス劇場」を思わせる映画が上映されていて、ヤチヨが「地球人の倫理観を理解いただくためにご覧いただいている」と言っているので、倫理観については「自覚的」に打ち出しているエピソードであると思いました。

村越 そうですね。あの時のヤチヨやポン子が「ホテルのために行動することを優先した」結果として、「今の地球人の価値観としては倫理感がないように見える」状況になった。もしもオーナーや人類が残っていたら、また違う状況になったとは思います。

──なるほど。ヤチヨはホテルの存続を、かつて存在した日本の法律よりも優先する、そこは一貫していますよね。それでも、死体遺棄が日本の法律では懲役3年以下の罪になることに対し、ポン子が(ヤチヨと出会ってから527年と75日6時間も経っているから)「3年ってチョロいね」と言うことは、やっぱり「アウトだよ!」と思ってしまいますが(笑)

村越 物語の中ではなく現実ではその通りです。作中でも「日本の法律上では完全にダメ」だと言っていますが、作り手として、あのヤチヨとポン子の行動が正しいとは、もちろん思っていません。

竹中 その上で、「3年ってチョロい」は、2人の長い時の流れを相対的に示した、いいセリフだと思います。

advertisement

死因は結局わからない? キャンディーは爆弾だった?

──単純に疑問なのですが、第10話での温和宇宙人と強面宇宙人の死因は、結局何だったんですか? 劇中で謎のまま終わった気がするんですけど。

竹中 特に謎にしているつもりはありませんが、言及する必要性も無いと思ったので、あの形にしています。もったいぶる必要性も無いんですが、言うタイミングを逃したので、どんどん言いづらくなっています。だからもう聞かないでください。

──いや、教えてくれないんかい! あ、いえ失礼しました。あとポン子の娘のタマ子が温和宇宙人からもらったキャンディーを食べていて、話の流れ的にあのキャンディーが爆弾なんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたんですけど、大丈夫だったんですか?

村越 爆弾と普通のキャンディーは色が違うんです。あれは普通のキャンディーなので大丈夫ですよ。(筆者注:第10話を見返すと、温和宇宙人がタマ子にキャンディーをあげる時、一度は赤い包み紙のキャンディー──つまり爆弾──をあげようするも、あせって引っ込めて、緑の包み紙のキャンディーをあげるというシーンがありました)

──それはホッとしました。あの温和宇宙人が、爆弾テロリストで本当に悪い人だったというのも、考えさせられるところがありますね。

竹中 彼は悪い人ですね。あのキャンディーで「2面性」を示したところもあるんですよ。実際のマフィアの人も、子どもには優しかったりしますからね。

advertisement

ヤチヨは「タヌキ星人は殴っていい」というアルゴリズムで動いている

──倫理観といえば、ヤチヨが思い切り暴力を振るっているのもすごいですよね。キャラクター原案の竹本泉さんが描かれているスピンオフコミック「アポカリプスホテルぷすぷす」の第10話では、「そもそもロボット三原則は地球人類以外には適用されません(あと良心回路はありません)」とあり、「うん……まあ……そういうことだろうな」と納得しました。

※ロボット三原則:SF作家アイザック・アシモフが考案したロボットが守るべき3つのルール。その第一原則に「ロボットは人間に危害を加えてはならない」とある

竹中 僕らの中では、ヤチヨは「タヌキ星人は殴っていい」というアルゴリズムで動いていますからね(笑)。

──ひ、ひどい(笑)。あ、いえ、失礼しました。でも、「ヤチヨの暴力がひどすぎる」というギャグも含めて面白いですし、第3話での暴力は物語上では必要なものだと思いました。ヤチヨがあの時に、タヌキ星人家族たちの(地球人およびホテリエの価値観からすれば)ひどい振る舞いを見て殴って以降、そのアルゴリズムに従っているとも言えそうですね。

竹中 でも、あの第3話の出来事は「文化の違い」でもありますよね。地球人から見てよくないことでも、タヌキ星人にとってはよくないことをしているつもりはなかったんですよ。

──それでも、その場所のマナーやルールはちゃんと守るべきという教訓の話でもありますね。やはり、しっかりしたロジックが各エピソードで貫かれている作品だと思いました。まあ、それでも、やっぱり暴力はダメですが(笑)。

竹中 すぐに手が出るアニメですよね。第8話も暴力というか、ケンカの末に解決する話だったりしますから。

──まだあの話はケンカの末に仲直りする話ですが、続く第9話でポン子の婚約者だったポンスティンが、何も悪いことをしていないのに、いきなり殴られてていてめちゃくちゃかわいそうでした(笑)。

村越 ヤチヨはあの時、大切な従業員であるポン子を失うと、ホテルの存続が危ういと思っていたから殴ってしまったんです。やはり彼女の中にはアルゴリズムというか、ロジックがあるんですよね。

──本当に、ヤチヨにとってはホテルが最優先されるというロジックが一貫していますね。だからこそ、第8話で今までのように働けないと知ったヤチヨが、やさぐれてスケバン暴走族となるというのもわかる気がします(笑)。

関連タグ

Copyright © ITmedia Inc. All Rights Reserved.