ねとらぼ
2025/07/31 18:00(公開)

『ヒーリングっどプリキュア』5周年 「自分を大切にすること」「生きることは戦うこと」を描いた同作が今の時代に必要な理由

【連載:サラリーマン、プリキュアを語る】ヒープリは「自分自身を大切にしても良いこと」「生きることは戦うこと」を描いた作品でした。

ヒープリ5周年

 2025年「ヒーリングっど・プリキュア」(・はハートマーク、以降ヒープリ)は放送から5周年を迎えました。

 7月25日には、キャラクターデザインを手掛けた山岡直子さんの原画やイラストを収めた『山岡直子 東映アニメーションプリキュアワークス』も発売され、再びヒープリに注目が集まっています。

 2020年、新型コロナウイルスの感染拡大とともに始まったヒープリはいわば“コロナ禍とともに歩んだ”プリキュア。

 同作では「自分を大切にしても良いこと」「生きることは戦うこと」といった命題が描かれました。

 社会に排外的な空気が広がりつつあるこの時代にこそ、ヒープリが子どもたちに伝えた「自分を大切にすること」の意味をあらためて認識する必要があるのではないでしょうか。

2025年7月25日に発売となった『山岡直子 東映アニメーションプリキュアワークス』(出典:Amazon.co.jp
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コロナ禍に翻弄されたプリキュア

 ヒープリは2020年に放送されたプリキュアシリーズ第17作。キャッチコピーは「手と手でキュン!ハートつないで地球をお手当て!」。「地球のお医者さん」をモチーフに、病原体を模した敵組織ビョーゲンズから地球を守りお手当するプリキュアたちが描かれました。

 同作は2020年初頭より猛威を振るった新型コロナの影響を大きく受け、制作の中断、話数の削減、内容の変更、映画の延期、ライブイベントの中止など多くの変更を余儀なくされました(なお“地球のお医者さん”の設定と新型コロナ禍が重なってしまったのは偶然だったとのことです)。

 「コロナ禍に翻弄された不遇の作品」といわれることもある同作ですが、主人公・花寺のどか(キュアグレース)を演じた声優の悠木碧さんが雑誌で語った「ヒープリを不遇といわせるつもりはない」という言葉は、今でも多くのファンを勇気付けています。

 当時不安だった子どもたちに「プリキュア」を通して勇気と希望を届けた功績はとても大きかったのだと思います。

主人公の一人、花寺のどかが変身する「キュアグレース」
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「花寺のどかの選択」

 さて、同作において今でも大人ファンの間で話題となるのが「ダルイゼンに対する花寺のどかの選択」です。

 物語のクライマックス、ヒープリではシリーズでも異例の「拒絶」を描きました。

 物語中盤、のどかが幼少期に患っていた大病の原因が、敵キャラ「ダルイゼン」にあったことが明かされます。

 終盤、敵のボス「キングビョーゲン」から追われる立場となったダルイゼンは、のどかに「もう一度お前の体の中にかくまってくれ」と助けを求めるのです。これはすなわち「お前はもう一度病気になれ」ということでもありました。

敵キャラ「ダルイゼン」への対応が議論に

 のどかは、悪人といえども助けるべきなのでは? と悩みに悩みますが、パートナー妖精ラビリンとの対話を経て、戦いの中でダルイゼンの要求を突き放す選択をします。

「都合のいいときだけ私を利用しないで!」
「私はあなたの道具じゃない!」
「私の体も! 心も! 全部私のものなんだから!」

『ヒーリングっどプリキュア』第42話「のどかの選択!守らなきゃいけないもの」 花寺のどかのセリフより

 それまでのプリキュアシリーズでは「敵との和解や共存」を描くことが多くなっていました。しかし、ヒープリでは、ビョーゲンズ=病気という設定から「和解と共存」の道を選ばなかったのです。

 この「花寺のどかの選択」はプリキュアファンに衝撃を与え、いまでもSNSなどで論争の火種となるほどに印象深いエピソードとなっているのです。

花寺のどかはかつて重い病気を患っていた

 同作のシリーズ構成を担当した香村純子さんはこの件に関して、「女の子は何でも受け止めて何でも許してくれる女神ではない」という言葉を通じ「優しさ=なんでも許すことではない」という視点を示しました。

 そして同作を通して子どもたちに「自分を一番大事に思っていいんだよ」ということを伝えたかったと語っています。

香村 そうですね。女の子は何でも受け止めて何でも許してくれる女神ではありません。観てくれている小さな女の子たちにも、今まさにダルイゼンみたいな存在がいないとも限りません。
日常の中で、女の子だからとつけ込まれてしまったり……。そんな時に、「自分を一番大事に思っていいんだよ!それで何か責められたとしても、プリキュアはあなたの味方だよ!」ってそういう事を伝えたくて。
「とにかく、あなたにすこやかに生きていてほしい」という願いを込めて、一年間やってきたんです。

(徳間書店『Animage(アニメージュ)』2021年03月号より)

出典:Amazon.co.jp

 また、後に池田洋子シリーズディレクターはのどかの拒絶の選択について「選択には責任がともない、彼女は突き放した事実を抱えながら生きていく」とも言及しています。

池田 「ビョーゲンズが消滅したからといって、すべて終わってせいせいしたなんて、のどかは思っていません。キングビョーゲンを滅ぼしたこともダルイゼンを見捨てたことも、自分の責任と受け止めていると思います。
ダルイゼンを助けたい気持ちはあった。だから苦しんだんです。最終的に彼を突き放したという事実は、のどかがこの先も抱えていくものだと思います。」

(徳間書店『Animage(アニメージュ)』2021年08月号より)

ラビリンと対話をする花寺のどか

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