ねとらぼ
2025/08/10 17:30(公開)

『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』レビュー 「『RRR』やないか!」な魅力と豹変したボーちゃんへの愛

 『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』が8月8日から上映中。劇場版第32作となる本作の舞台はインドであり、後述する通り「ボーちゃんがメインの物語」「インド映画らしさ」という魅力を打ち出している。

『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』 大ヒット上映中 (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2025
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「2年続けての悪夢」からの脱却

 最初に主観的かつネガティブな話題に触れて申し訳ないが、前年と前々年の『クレヨンしんちゃん』映画は、ファンとしてははっきり言って「悪夢」だった。2作とも特に結末部分があまりに不誠実で、子どもに見せたくないレベルだった。その理由は過去のレビュー記事を参考にしてほしい。

 特に『オラたちの恐竜日記』は鑑賞直後の劇場内がお通夜のような空気になり、子どもも大人もラストに悪い意味でショックを受けていたことがはっきり伝わった。この2作は題材がキャッチーだったおかげか2年連続でシリーズ最高の興行収入記録を更新したが、一方で「もうクレヨンしんちゃん映画は劇場で見たくない」と思った方もいたのではないか。

 だが、安心してほしい。今回は『もののけニンジャ珍風伝』や『新婚旅行ハリケーン 失われたひろし』などを手がけた橋本昌和が監督を、あのシリーズ屈指の名作『謎メキ!花の天カス学園』のうえのきみこが脚本を手掛けるという、「磐石の布陣」が復活したのだから。

 そのおかげもあってか、「これだよ! これ!」と心から思えるクレヨンしんちゃん映画が帰ってきたという感慨と共に、新しい魅力もしっかり打ち出されていた。ここからは、その内容と魅力を詳しく紹介していこう。

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ボーちゃんが「暴君」になってしまう衝撃と困惑

 今回、しんのすけたち「カスカベ防衛隊」は、ダンスの「エンタメフェスティバル」に出場するため、インドへと出発。いざインドにやってきて、怪しげな雑貨店に入ったしんのすけとボーちゃんは、そこで「鼻の形」に似たリュックサックを見つけて購入する。実は、そのリュックサックから出ていた「紙」は邪悪な力があり、それを鼻に刺したボーちゃんは「暴君」となり大暴走してしまうのだった。

 「ボーちゃん」をメインに据えただけでなく、「ボーくん(暴君)」になるというダジャレも面白い。しかしながら、固い友情で結ばれているしんのすけたちにとっては、その「闇堕ち」はシャレにならない切実な事態だ。トレードマークといえる鼻水を流さなくなったり、キリっとした表情のままアクション映画ばりの素早い動きを見せたりと、「ボーちゃんらしからぬ」言動に良い意味で困惑できるだろう。

 さらに、ボーちゃんは「僕の何を知っているの?」と問いかける。ボーちゃんはファンにとっても謎が多いキャラクターなので、その疑問に簡単に答えられないしんのすけの心境は、この映画を見にきた観客ともシンクロするはずだ。

 その後もカスカベ防衛隊の面々は、言動が読めないボーちゃんの暴走に翻弄されていくことになる。しかし、とあるアクシデントに見舞われ、離れ離れになっても、それでもなんとかボーちゃんを正気に戻そうと奮闘するしんのすけたちの姿にグッとくるし、見せ場もバラエティ豊かで、その先には思いがけない感動も待ち受けている。

 なお、ボーちゃん役の佐藤智恵は劇場パンフレットで、「今回のボーちゃんは段階を踏んで進化していき、普段のボーちゃんを入れると6つのバリエーションがある」と語っている。例えば、「第1形態は速く動いて速くしゃべる」「第2形態は普段より話し方に抑揚がつく」「自分のことを”私”と言うようになる」「最終形態のボーちゃんは、全知全能の神みたいなイメージ」なのだとか。そうして段階をつけてイメージが変わっていく一方で、「今までのボーちゃんらしさ」も存分に残した佐藤の声の演技にも、ぜひ聴き入ってほしい。

 また、脚本を手がけたうえのきみこは、劇場パンフレットで「ボーちゃんって優しいじゃないですか。何かトラブルが起きても誰を責めるでもない。そんなところが現代社会には必要な存在だと思うんです」と語っている。橋本監督も「ボーちゃんの中で、普段からしんちゃんをリスペクトしている思いが他のメンバーと比べて強いんじゃないかって思うんですよね」と、ボーちゃんの「いいところ」を上げている。本編を観ていても、ただ安易にボーちゃんを闇堕ちさせたわけじゃない、キャラを愛し理解しているからこその展開であることが分かるだろう。

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『RRR』からの影響だ、これ。

 異国の地でのロードムービー的な要素を通じての友情の物語の時点でアツいのだが、さらに暑苦しい……じゃなかった、ホットなのは筋肉隆々のゲストキャラクターの2人だ。

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