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4年前、ある港に放流された4000匹のクエの行方を海に潜って調査した記録がYouTubeで話題です。動画は「かなり希少な事例なのでは」「いろいろと考えさせられます」と反響を呼び、記事執筆時点で25万回以上再生されています。
動画を投稿したのは、水中の生き物を観察したり海の保全活動に取り組んだりしているYouTubeチャンネル「スイチャンネル sui-channel」。以前には、砂しかなかった場所に魚礁を作り、5年半前と現在を比較した様子が話題になりました。
今回は4年前、ある港に放流された4000匹のクエが現在どうなったのか、海に潜って確かめた様子を見せてくれるようで……?
日本の漁業に迫る問題
日本の漁業は現在、さまざまな水産資源の減少が問題視されています。これまで、水産資源を増やすために全国各地の漁業者が種苗(しゅびょう、人工的に育てた魚や貝の子ども)の放流を行ってきました。
しかし、こうした放流の効果は不確実なものが多く、放流しているにも関わらず減り続けている生き物がいるのが現状です。その一例としてここ数年では、サケの放流が逆にサケを減らしているのでは、といった放流の問題を指摘する声が上がっているのだとか。
そこで今回、ある港で4年前に放流された4000匹のクエがどうなったのか、実際に海に潜って確かめていくことにしたようです。
4年前に放流されたクエを追う
2021年8月初旬。スイチャンネルさんが潜っている海域では、漁業者が4000匹のクエを放流したそうです。スイチャンネルさんは放流があったことを知らなかったため、ある日、海に潜ったところ突然クエだらけになっていてびっくりしたのだといいます。
クエの放流を行ったのは、現在潜っている場所から700メートルほど離れた港の周辺とのこと。放流翌日には手作りの魚礁の中にたくさんのクエが現れ、3日後には浅瀬がクエだらけになっていたそうです。
その年に放流したクエは体長20センチ前後、年齢はおそらく1歳前後。人工的に産卵された卵から育てて、ある程度大きくなったところで放流したそうです。放流直後であっても、1キロ程度の距離なら軽く移動できることに驚きますね。
放流直後はかなり狭い範囲にたくさんのクエが集まり、非常に密度が高い状態になっていたそうです。これは自然の状態ではまず見られない数であり、また人の手で育てられたため人への警戒心が薄く、放流直後のクエたちの死因1位は「釣り人」だったのだとか……。
放流したクエは警戒心が薄いことからとても釣れやすく、港はもちろん沿岸でも結構な数が釣られてしまったそうです。そこで、漁業者が釣り人にリリースをお願いするという事態になっていたのだそうですよ。
放流直後のクエの面白い行動
そんな放流直後のクエたちには面白い行動が見られたのだとか。というのもたまたまタコを食べている魚がいたところ、その周辺にクエが集まり、その様子をみんなで不思議そうに眺めていたそうです。その様子はまるで、タコの食べ方を教えてもらっているような光景だったそうですよ。
タコは本来クエの好物ですが、おそらくタコがエサとして与えられたことはなかったのでしょう。もしかすると、このときタコを初めて目にしたクエがいたのかもしれません。
ほとんどの個体は移動
放流から約2カ月後。ほとんどの個体は移動していったようで、クエの密度は激減していました。それでは、あれだけたくさんいたクエたちは一体どこに移動したのでしょうか。
1つ目の場所は、港から約3キロ沖合にある潮当たりのよい岬の突端、あるいはその周辺の海底20~30メートル付近にある沈み瀬と呼ばれている起伏の激しい地形の場所とのこと。
この場所では体長60センチを超える大きなクエをよく見かけるそうです。天然のクエも好むだろう地形が多いものの、天然のクエはそれほど出会う魚ではないのだとか。それでも一度潜るだけで数匹のクエを見かけるため、おそらく放流された個体なのではないかと考えているそうです。
2つ目の場所は、県や市の事業として海中に投入した人工的な魚礁です。この場所は、一回潜ると1時間で5、6匹のクエを見かけるのだとか。水深が浅く、本来天然のクエが定着するような環境ではないこと、遭遇する密度が高いことを考えると、こちらもまず放流した個体だと思われるそうです。この魚礁には50匹以上が定着しているのではないかと推測しているそうですよ。
3つ目の場所は、クエを放流した港の消波ブロックです。放流した場所にそのまま定着していることに驚くばかりですが、この場所には60~80センチほどある大きなクエもいるのだとか。なお、消波ブロックの隙間をのぞいて回ったところ、この日だけで10匹前後のクエと遭遇したとのこと。この場所には最大20~30匹のクエが定着しているのではないかと考えているそうです。
これまでの調査結果を照らし合わせると、放流した場所から数キロ以内の範囲だけでも、少なくとも数百匹のクエが定着している可能性がありそうですね。
放流の意義とデメリット
ところで、これまで見てきたクエにかなり成長の差があったことに気付いたでしょうか。実はこの周辺では、スイチャンネルさんがクエの放流を確認した2021年以前にも、何度か同じ規模の放流を行っていたそうです。体長が60~70センチあるような大きな個体は、2021年以前に放流されたクエである可能性が高そうですね。
これまでの調査結果を見ると、クエの放流効果はかなり高いことがうかがえます。実際にこの地域では、数年にわたってクエの水揚げ量が増えているそうなので、放流の意義はあったといえるでしょう。なお、クエが属する「ハタ類」は放流効果が高いと考えられていて、大阪湾の関西国際空港周辺で行っているキジハタの放流もかなり個体数が増えていると話題になっていたそうですよ。
しかし、放流には意義がある一方でデメリットがあります。こうした放流で最も問題となるのが、エサとなる生物資源への影響です。クエのような大きな魚が狭いエリアに密集していることを考えると、それなりの捕食圧がかかるのは避けられないことでしょう。無計画な放流を続けてしまうと、数年、数十年後に悪い影響が出ないとも言い切れません。
実はこの地域では、2021年の放流を最後にクエの放流を休止しているそうです。休止の理由は、エサとなる生物への配慮とクエの密度を考えてのものとのこと。スイチャンネルさんも現状を確認した上で、クエの放流は一度休止してもいいのではないかと漁業者の方に話していたそうです。
スイチャンネルさんによる調査で、4年前に放流した4000匹のクエの大部分が新天地を目指して分散していったと思われること、少なくない数が周辺に定着し成長していることが分かりました。
増えるからこそただやみくもに放流するのではなく、生態系全体を見据えた放流というものが重要になるのかもしれない。そう話しつつ、「次は1匹釣り上げて味の検証もしてみたい」と目標を語るスイチャンネルさんなのでした。
「自然保護って難しい」「いろいろと考えさせられます」と反響
この動画のコメント欄には「自然保護って本当に難しいですねぇ」「これだけクエ生息してる場所はなかなかなさそう」「大阪ですが、最近よくキジハタ釣れますね。数年前はほんと幻の魚だったのに」「放流しすぎてもダメだし、生態系のバランスも考えなきゃいけない」といったさまざまな声が寄せられています。
この他にも海の生き物に関する情報は、YouTubeチャンネル「スイチャンネル sui-channel」やX(@suichan7)で発信しています。また、磯焼けを防ぐために長崎の海で実施した環境保全活動の記録をまとめた書籍『プロダイバーのウニ駆除クエスト 環境保全に取り組んでわかった海の面白い話』(KADOKAWA)が販売中です。
「スイチャンネル sui-channel」動画まとめ
動画提供:YouTubeチャンネル「スイチャンネル sui-channel」
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