外に一歩出て、さわやかな空気に思わず顔を上げました。あたりを見回して、さあ、どこに行こうかな? と少し遠出をしたくなるようなそんな気候になってきました。今回は街の一角に目を留め、立ち止まって眺めたくなるようなご本です。
今回紹介する同人誌
『都市のカケラ -東京編-』A5 42ページ 表紙・本文カラー
著者:藤沢うるう
かつての街並みを今に伝える「都市のカケラ」に注目
街を歩くと、レンガのかたまり、大きな柱……作者さんはそういったものに注目されています。実はそれらは昔の建物の一部や、以前使われていた橋の柱だったりするそうで、しかし現場には案内板などが無いこともしばしばだとか。このご本では、かつて使われた建造物、土木建造物が部分的に残っているものを「都市のカケラ」とし、今の様子がまとめられています。
ご本では現地の写真、住所、竣工年、解体年といった情報、またそれが「カケラ」になっていった経緯とともに38カ所が紹介されています。おおよそ1ページに1カ所が掲載され、カケラについての由来がまとめられていますが、竣工や解体年をきっちり押さえ、時には当時の建物の全体がわかる写真も交えながらもさらりとコンパクトに見せる的確さは、作者さんが近代建築に関わって積み重ねてこられた土壌のしっかりした厚みを感じます。
時代を経た断片の存在感と重み
豪華な雰囲気から何かの記念碑なのかな? という風格の大きな装飾が、もともとは100年前に建っていたビルの屋根飾りだったり、小学校の外階段だった一段が今はベンチとして再利用されていたりといった実例は、なんだかそのカケラの謎解きをしているような、打ち明け話を聞いているような面白さです。
今回のご本では東京にスポットがあてられており、関東大震災、東京大空襲といった出来事や、建て替え、土地開発といった都市が変化していった様子がうかがえます。建造物がそっくりそのままではなく、残っているのはごく一部分です。けれどそのひとかけらには時代を経てきた風格があり、都市が歩んできたいきさつをその身に内包しているなんて、「それでそれで?」と街や建築についての興味をかきたてられます。一方で、その存在感のあるたたずまいには、ただただあるがままを眺めるだけでも十分に魅力的! 「カケラ」が好奇心と静寂さの両方の引力を併せ持っていることがご本から伝わります。
変容して残り、融合していく最先端
人の暮らしが新しく、いいものを取り入れて変わっていくことはわくわくします。けれど、どうしてそうなったかをすっかり忘れて猪突猛進するばかりでは、いつかとんでもない迷い道に入り込んでしまうような気もします。歩んできた道を振り返り、振り返りしながら進むことは、結局のところよりいい前進につながっているように思います。0か100かの選択ではなく、全体の一部だとしても残り、過去を伝えるカケラの底力、そういうカケラが街に散らばっているのも重要なところではないでしょうか。
ご本を読んで、カケラがある場所は過去と現在が交じり合っているのが一目でわかる、変わりゆく街の最先端の現場のようだとも感じました。秋の訪れのこの頃、立ち止まり、ひととき眺めて街のことに思いをはせるのにぴったりな季節かもしれませんよ。
サークル情報
サークル名:わくわく建築
入手できる場所:BOOTH
SNS(著者)藤沢うるう
・X:@fujisawa_uruu
・Instagram:fujisawa.uruu
SNS(サークル)わくわく建築
・X:@wkwk_kenchiku
・Instagram:wkwk_kenchiku
今週の余談
街や都市といったとてもつなく大きいものの移り変わり、またそれが象徴的なひとつの建物だけだとしても、まるごと取っておくのは大変なことです。何を残すと街を残していると言えるのかという点と同時に、カケラが持つ魅力にもはっとしました。
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