ねとらぼ

バギーの言動の不自然さと「おじさん声ではない」ことで失われてしまったもの

 『海底鬼岩城』で何が最も印象に残るかといえば、多くの人が「水中バギー(バギーちゃん)」を挙げるだろう。「生意気で、しずかちゃんにだけデレデレする調子の良いやつだけど、終盤には涙を禁じ得ない決死の行動を取る」という、ドラえもん映画の中でも屈指の名キャラクターであることに異論はまったくない。

 だが、今回のリメイクでは、そのバギーの言動にも不自然さが生じていると思えた。具体的には、いくら中古のポンコツとはいえ、あれほどの海やレアメタルへの知識があるAIが、「友達」というワードを知らないというのは、いくらなんでも無理がある。

 ここでも前述もした「良いことを言おうとする」ことが結果的にノイズになっている。そもそも、バギーとの友情を強調するがためにのび太と一緒に寝たりすることで、「しずかちゃんに対してだけ調子が良い」というバギーの卑近さが、結局は失われてしまっていないだろうか。

 さらに、「人間の理不尽な行動はバグみたいなもの」「正解と正しさは違う」といったバギーとの会話も、深い言葉のようで、実際は上滑りをしていると感じてしまった。

 確かに「ロボットには理解し得ない不合理な人間の行動」を示すセリフには、例えば『のび太の鉄人兵団』でのしずかの名台詞「ときどき理屈にあわないことするのが人間なのよ」などもあり、藤子・F・不二雄作品の精神に通じる発想ではあるのだろう。

 だが、そうだとしても、もう少しだけでも納得しやすい言葉選びはできなかったのだろうか。そもそも、そういうセリフを入れなくても、『海底鬼岩城』という作品は、最後のバギーの決死の行動でこそ、その「理屈にあわないこと」を描き切れていたと思うのだ。

 さらに、今回のバギーの声が「女の子または子どもに聞こえる声」ということも、個人的にはキャラクターのイメージを大きく変えてしまった印象がある。もちろん今回の広橋涼の声のバギーも愛らしく、今の時代のAIスピーカーに近い印象もあり、このほうが今の子どもには受け入れられるかもしれない。

 しかし、それはやはり旧アニメ版の、三ツ矢雄二が醸し出す魅力とは大きく異なる。その声に宿る「不憫(ふびん)さ」は、例えるなら「くまのプーさんがおじさんの声だからこそ、成長をしない、どうしようもないやつに思える」ことにもかなり近い。もちろん個人的な好みによるところが大きいのだが、「バギーちゃんの声はプーさんのようなおじさんであってほしい」と思ってしまった。

 一方で、バギーに関する良いアレンジと思えたのは、「小さいサイズになることでより身近に存在を感じさせる」ことや、「前の持ち主からはぞんざいな扱いをされていた過去」の描写だった。こうしたところで、キャラクターの背景に深みを持たせるのは、良いアプローチだろう。

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クライマックスの「絶望感」の不足

 そして、今回のリメイクで最も残念だったのは「恐怖感」はまだしも「絶望感」があまりに不足していることだ。

 特に旧アニメ版でのクライマックスにおいて、ひみつ道具のエネルギーが切れ、みんなが敵に捕らえられ、ドラえもんだけがボロボロになりながらポセイドンとしずかの元にたどり着くという場面では、しずかの涙と言葉もあいまって、本当に「もうこれで世界が終わってしまう」という恐ろしさがあった。

 だが、今回はその場所にのび太もついていけているうえに、あろうことか「のび太の無事をわざわざ見せる」ため、「なんか大丈夫そうだな」とさえ感じさせてしまう。

 旧アニメ版であれほど涙を誘ったバギーの決死の行動も、今回の演出では「そこまでの犠牲を払う必要があったのだろうか」と感じられてしまい、クライマックスの感情的な高まりが弱まっている。しかも、旧アニメ版でも「あまり優秀じゃない」と言及されていたポセイドンは、本作ではさらに弱いボスという印象が強まり、加えて前述の改変された言動も相まって、結果として格を落としてしまっている。

 それらは子どもを過度に怖がらせないための配慮なのかもしれないが、前年の評価の高いオリジナル作品『のび太の絵世界物語』のクライマックスでは、まさに絶望そのものといえる描写と展開を用意していたではないか。そこは『海底鬼岩城』という作品では、絶対に外してはいけなかった。

 結論としては、「作品単体で見れば悪くはないが、オリジナルの魅力を場面場面で少しずつ、しかし全体では決定的に損ねてしまった、残念なリメイク」と評価せざるを得ない。また、リメイクそのものに「忠実にしすぎるとただの焼き直しになってしまう」「大胆なアレンジをするとファンから解釈違いと言われてしまう」という難しさがあることも、あらためて痛感した。

 それでも、過去のリメイク作『新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ 天使たち~』『新・のび太の日本誕生』『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』はオリジナル版の重要な要素を外さず、かつアレンジが新たな魅力として昇華されていた。せっかく名作を現代によみがえらせるのだから、それらと同等、もしくはそれ以上のクオリティーのリメイクを期待しても良いと思うのだ。

 次回作はオリジナルになるようだが、今後もドラえもん映画の進化を期待したい。

ヒナタカ

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