ねとらぼ

 さて、少し長くなってしまったが、本作のことをまだ分かりきっていない、まだたったの3回目しか観ていない状態で本当に申し訳ないのだが、『パリに咲くエトワール』の素晴らしさを8つのポイントにわけて解説していこう。予備知識なく観たいという方は、もういいですから、先に映画館に足を運んでください。お願いします。

※以下は決定的なネタバレは避けたつもりですが、一部内容に触れています。作品を未鑑賞の方はご注意ください。

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1:あなたは1900年代初頭のパリにいる

 本作は「1900年代初頭のパリ」の美麗な背景美術を眺めているだけでも楽しめるだろう。いや、映画館で観てこそ「あの時代のパリにいる」体験ができる。何しろ、主人公の少女・フジコは序盤からパリの街を散策して、顔がにやけることを抑えられずに手で口を覆って、「パサージュ・ジュフロワ(ガラスの屋根がある通り抜け)」では「もったいなくて! じっとしてられないの!」と言いながら走る。それぞれの気持ちが伝わりまくるのだ。

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

 背景のモブキャラがそれぞれ歩いていたり、当時の車や自転車が走っていることで「世界がそこにある」ように感じられるし、室内での陰影をつけた色彩表現も素晴らしい。さらには、「割れてしまった瓶のかけらを拾うために、紙を折って箱を作る」といった日常の細やかな動作が作画に表れているため、やはりキャラクターが「生きている」感覚を得られるのだ。

 その後に変わっていくフジコの心理状態に呼応するように、パリの風景そのものが変わっていくところもある。それぞれの場所の詳細は、発売中の女性向けファッション雑誌「FUDGE(ファッジ)」の特集で現在の写真とともに載っており、パンやジャムやバレエの解説もある充実の内容のためマストバイである。

 なお、美術監督の金子雄司と、色彩設計の柴田亜紀子の尋常ではないこだわりは、藝大出身クリエイター集団アートゥーンとのコラボ動画でよく分かるのでおすすめだ。さらに、リサーチャーである白土晴一の仕事もXで知ることができるので、こちらも要チェックだ。

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2:アニメで薙刀とバレリーナが「両立しない」様を描き出す

 本作の第二の主人公は、薙刀(なぎなた)の名手でありつつも、バレエへの憧れを抱き続ける少女・千鶴だ。彼女は一直線に情熱を持ち夢に突き進んでいるように見えるが、「実は周りが見えていない」様が作画からも分かるようになっている。

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

 例えば、公開された本編映像では、注意して見ないと分からない、千鶴のバレエの動きが「周囲からわずかに浮いて見える」という「欠点」がある。実は、薙刀の鍛錬で彼女に染み付いた所作が、皮肉にもバレエを習う上で「足かせ」になってしまっているのだ。

 実際にバレエ作画監督を務めたやぐちひろこは「千鶴はあの年齢(15歳)からバレエを始めてプロに追い付けるほどの天才なので、基本の動きも含めて最初からうまく描いていますが、谷口監督と話し合った上で『武道をやっていたから関節が開かない、股関節が硬い』という設定を踊りに反映しています」とも語っている。

 そもそも、彼女は薙刀道場の跡取りであり、バレエの夢へ進むことが両親の期待を裏切ることだと分かっている。その葛藤を経た上で、彼女がどのように自己実現をしていくのか……その物語が、薙刀およびバレエの動きにこだわり尽くした作画とも絶妙にシンクロしていることに注目してほしい。

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