METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER
世間には戦争映画というと,それだけで毛嫌いする人もいるが,「大脱走」のように戦闘シーンがほとんどない作品もある。
この映画では,ナチスドイツに囚われの身となった連合国の各国軍兵士どうし,あるいは,ドイツ兵との人間模様を描くドラマ要素を主体としている。しかし,それだけにはとどまらず,戦闘場面なしでも十分に緊張感を味わえるのが,名作たるゆえんだろう。
看守に見つからぬよう,作業音を聞かれぬよう,細心の注意を払いながら,全員が脱走するためのトンネルを掘る。見事に収容所の外へ出られても,緊張感は続く。散り散りとなって市民に紛れ,あるいは敵の兵士に変装しつつ,各々がさまざまなルートで国境を目指す。
トンネル掘りと並行して,身分証明書の偽造や,自分たちの軍服を背広などに改造する作業工程の綿密さや,逃亡手段の多彩なところにも心をひきつけられたものだ。
そして,シューティングや格闘モノが大勢を占めるアクションゲームの世界でも,この「大脱走」のような“変り種の名作”が存在する。コナミの「METAL GEAR」シリーズだ。すでに説明は不要だろうが,戦闘モノと勘違いして避けている人もまだいるかもしれないので,いちおう説明しておこう。
このゲームでは,ザコの敵兵とは戦わずに,隠れてやりすごすのが主体となる。とはいっても,そんなキレイゴトだけですむわけはないので,当然ながら戦闘してもいい。
最初は敵を眠らせるための麻酔銃くらいしか持っていないが,敵地に深く入り込んでいく過程で,自動小銃やショットガン,狙撃用ライフルなど,派手な武器も手に入る。敵の拠点に設置された銃座や対空砲を奪い,兵士を殺しまくったり,ヘリを破壊したりしてもいい。
しかし,それがどんな結果を招くか。現実と同じである。銃声や派手な爆音を立てれば,周りをパトロールしている兵士に見つかり,無線で増援を要請されてしまう。ヘリ1台を落とせても,支援のヘリが次々に飛来し,逆に手がつけられなくなる。
そのため,なるべく敵兵とは戦わないのが基本。で,戦わないためには,見つからないように隠密行動をとればいい。自然と動きは,ホフク前進が大部分となる。主人公がコードネーム「スネーク」と呼ばれるのは,そのためだろう。
敵の視界を避けるだけでなく,音も極力立てないように行動しなければならない。一瞬の動きや音を察知されたら,そのまま動かずにじっと身を伏せていれば,やりすごせる可能性はある。何も操作していないのにもかかわらず,しびれるような緊張感に溢れる瞬間だ。
どうしてもじゃまな敵兵には,サプレッサーつきの麻酔銃で仕留める。ただし,眠っていたり,死んでいる兵士が敵に見つかるとやばい。本当に必要な場合だけにしたいものだ。
また,身体に一発撃ち込んだくらいでは,なかなか倒れず,無線で助けを呼ばれてしまう。物陰や草むらにひっそりと伏せ,ガンサイトで慎重に狙って,頭を一撃で仕留めるのが必須だ。もし外すと大変な騒ぎになる。その場面をほかの兵士に見られてもいけない。
敵に見つかったり,何らかの異常が察知された場合,通常の「潜入モード」から「危険モード」に突入。テンションの高いBGMが流れ,敵兵がわらわらと出てくる。そうなったら,全員を倒すか,騒ぎが落ち着くまで,どこかに身を潜めるしかない。うまくいけば,「回避モード」→「警戒モード」と移行し,「潜入モード」に戻れる。
このように,ゲーム中はまさしく我慢の連続である。しかし,何人か登場するボスキャラとの戦闘では,この抑圧から解き放たれ,派手に撃ちまくればいい。この極端ともいえるメリハリの効き方も,このシリーズの魅力の1つといえる。
最新作となる「METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER」では,時代背景が冷戦時に遡り,使用武器もそれに合わせて変更されている。舞台となる戦場も敵の基地だけでなく,ジャングルから始まり,洞窟や河川,山岳など,過酷な自然環境に身を投じることになる。
それでも,当然ながらゲーム内容は,上記のような従来どおりのシステムを踏襲。さらに,多数の新要素も取り込まれた。しかも,ステルスゲームとしての緊張感を損ねることなく,幅を広げることに見事に成功している。
アクション面では,CQC(Close Quarters Combat=近接戦闘術)を採用。装備している武器の種別がCQC対応であれば,さまざまな技を繰り出せる。これにより場面によっては,サプレッサーつきの麻酔銃で撃つ代わりに,投げ技を決めるのも有効となる。
後ろからこっそりと近づき,一定の間合いで左スティックを倒しながら○ボタンを押し込めば,敵を地面に叩きつけて気絶させられる。ストリートファイターIIでもダルシムばかり選んでいた筆者にとって,この投げ技はなかなかの快感だ。ゲームが進むと,敵も巧妙な動きを見せ,簡単には投げさせてくれなかったりも。
また,スティックを動かさずに○ボタンを長押しすれば,敵を羽交い絞めにできる。そのままボタンを押し続ければ,ナイフで首を斯き切って抹殺してしまう(血しぶきのグラフィックが妙にリアル)。その前に素早く□ボタンに押し替えれば,敵の身体を盾にして銃撃が可能。また,L3(左スティック押し込み)に替えれば,ナイフで脅して情報を聞きだせる。特にこの“脅迫”はのちに必要となるので,投げ技も含め,序盤でしっかり習得しておきたい。
また,ステルス面では,カムフラージュが戦略上,重要となる。地形や周囲環境に応じた偽装迷彩服に着替え,顔にペイントを施す。これに姿勢も加えて,迷彩の有効度が算出され,画面右上に示される。
リーフ柄の迷彩服を身にまとい,草むらに伏せれば90%となり,じっとしていれば,かなり近接でも発見されることはない。そのほか,タイガーストライプやツリーバーク(森林迷彩)など,基本的な迷彩服は最初から持っているが,そのほかはアイテムとして取得する。
さらに,サバイバル要素も取り込まれた。それは,食料と治療だ(ただし,オープニングのバーチャスミッションでは治療は使えない)。食料は直接ライフゲージを回復させるものではなく,ライフとは別に設定された空腹度パラメータを満たす。
アイテムとして取得できるレーション以外に,ウサギやヘビ,魚や鳥など,生き物の捕食も可能だ。生き物は食えるばかりでなく,毒ヘビやサソリには刺されることもある。毒は血清を打てば治療できるが,草むらに潜んでいるときに,目の前にコブラが這うなどという場面は,なんとも居心地が悪いものだ。
さらに,山岳地帯ではハゲタカがたむろしているが,敵兵を麻酔銃で眠らせずに銃殺すると,死体にハゲタカが寄ってきて,肉をついばんでいたのは驚いた。こんなとこまでリアルを追求するとは。と思いながら,そのハゲタカを殺して食ってしまうスネークだったりする……。
捕まえた獲物は早めに食したほうがいい。時間がたてば,ハエのマークがついてしまう。つまり,腐ったということだ。食えば腹をこわしてしまう。キノコも食えるが,毒キノコなら食中毒になる。
ライフには,こうした毒や疾病,銃創,切創によるダメージも反映される。治療モードには,血清などの薬品を投与するMEDICINEと,包帯や縫合セットを使うOPERATIONがあり,たとえば銃創なら,OPERATIONモードで「ナイフ」(弾丸を摘出)+「消毒薬」+「止血剤」+「包帯」を選択すればいい。薬などの数には限りがあるが,アイテムとして落ちているし,森では薬草も見つかるだろう。
音も重要な要素だ。「METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER」では,ドルビープロロジックIIを採用した。ドルビーデジタルのように完全に各チャンネルが分離されたサラウンド方式ではなく,2ch音声にエンコードされた5.1chサラウンドだが,その分,リアルタイムに音場をつくりだせる。
つまり,ムービーシーンでのサラウンド再生だけでなく,ゲーム中でも背後で音がすれば,ちゃんとリアスピーカーから音が出るわけだ。小さい音では前後の位置関係をややつかみづらい場合もあるが,ヘリのプロペラ音などでは前後への移動がはっきりと把握できる。
大自然を舞台とするだけに,その雰囲気づくりへの貢献も絶大だ。ジャングルでは鳥のさえずりや,ヘビの這いずり回る音,スネークが草に分け入る音など,多数の効果音が入り混じった環境音が周囲を取り囲む。ちなみに,ヒルに吸われたときも音でわかるので,素早く葉巻で退治しよう。スネークが空腹になれば,おなかも鳴る。
サラウンドというと敷居が高そうに思えるかもしれないが,ドルビープロロジックII対応ホームシアターシステムは,3万円前後でも十分に満足できる音質の製品が揃っているので,これを機に導入を考えるのもいいだろう。音響のバランスがきちんととれていれば,足音だけで敵のいる方向を把握できる場面も多々あり,ゲーム攻略の助けにもなるし。
ちなみに,ゲームをスタートすると,HALO(高々度降下)のムービーが流れたあと,ソ連領内のジャングルでのバーチャスミッションが始まる。このバーチャスミッションは必然的に失敗し,ようやく本編に突入するのだが,ここまで約1時間。
“まるで映画の007シリーズのように,長いオープニングシークエンスだな”と思っていたら,「スネ〜クイータ〜」と歌い上げるオープニングテーマ曲が流れ,これまた007をパロったような印象。
007のオープニングといえば,毎回最先端の映像効果を駆使した凝ったつくりで,いつも楽しみだが,「METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER」のオープニングも同様に,パロディで遊びつつもなかなか面白い演出を見せてくれる。お楽しみに。
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