コードネームは「勇馬」 ヤマハ純正のイケメンボカロ「VY2」の話を聞いてきた
ヤマハ純正VOCALOIDの男声版「VY2」が発売される。その詳細をヤマハにインタビューし、さらにGarageBand for iPadだけで作ったバッキングとともにVY2に早速歌ってもらった。
ヤマハの歌声合成技術VOCALOIDはサードパーティへのライセンスが主体で、自社ブランドの歌声データベースは出さないという方針だった。それを転換したのは女声VOCALOIDのVY1。ビープラッツが運営するボーカロイドストアで通信販売のみ、キャラなしという形態でスタートしたのが昨年9月。その男声版である「VY2」が4月25日に発売される。価格は1万1800円。
その詳細についてヤマハVOCALOID開発チームに聞いてきた。
コードネームは勇馬、アイテムは脇差
パッケージで使われたイラストは、なぎみそさんと風乃さんが手がけた。なぎみそさんは刀のイラスト。刀は長脇差と脇差の2種類。風乃さんはパッケージのインナースリーブのイラスト。近代的天守閣と月が2つある、和風かつSF的な絵だ。
なぎみそさんへの絵柄指定は、ヤマハの木村義一さんによれば「イケメンな刀でお願いします」だった。若い男性用の和風な持ち物だとほかに思いつくもあるが、それだとキャラが固定してしまう恐れがあったからだという。なお、VY2のコードネームは勇馬(ゆうま)。若武者のようなイメージだ。
刀を持つボカロキャラという意味では、がくっぽいどの神威がくぽと重なる部分がある。これについてはインターネットの村上昇社長に許諾済み。「いいですね。戦わせましょう」と円満解決だかどうかわからない方向に。
VY1に続き、「キャラのないボカロ」となるVY2だが、「キャラコンテストはやりたい」と木村さん。脇差、和風、イケメンといったイメージからどんなキャラが生まれてくるだろうか。コンテストの際にはVY1もいっしょにやりたいという。
男声VOCALOIDとしての特徴・実力
「安里家ユンタ」に次ぐ新しいデモ曲は、Re:nGさんの「貴方に花を 私に唄を」。Re:nGさんには、男声ボカロならこの人ということでお願いをした。
デモ曲の印象は、少しハスキーな部分もあるが、若々しい声。「かすれた部分も除去せず、リアルになるように残している」とヤマハの小山雅寛さん。「VY1と同じく滑舌をはっきりさせることを重視した。使いやすいVOCALOIDにするために、できるだけのことはした」と木村さん。
VY1のときには、無味乾燥になりがちなスクリプト(音声収録のときに歌うことば)に意味をもたせやすいようイラストをつけたが、今回はそれはない。スクリプト自体は前回と同じ。ただし、中の人にはうなぎパイを差し入れたという。うなぎパイを食べてるときもイケメンだったそうだ。
中の人は、代表作をいくつか持つ若い声優さん。名前は非公開。年齢も明かされていないが、これまでの男声VOCALOIDの中の人の実年齢では最も若いそうだ。
Netぼかりす、英語版VYシリーズ
VY2がアナウンスされたのは昨年秋のY2 AUTUMN 2010。その時は年末までにはリリースすると発表されていた。当時の予定としては、ユーザーの歌声によって自然でリアルなVOCALOID調教を可能にするNetぼかりすも同梱されることになっていた。これがVY2にバンドルされない理由について聞いてみた。
Netぼかりすは、初心者向けの簡単なツール、上級者向けでフル機能の音楽ツールという2つの方向性があるが、価格体系なども含めて検討中と、ヤマハ 研究開発センター Y2 PROJECTの田邑元一さんは説明する。処理はクラウドで行うことになるので、月額課金、一括購入の両方にするか検討されているようだ。初心者に振るか、上級者中心でいくかで変わってくる、インタフェース部分の作り込みも課題のようだ。
VYシリーズの英語版も企画中だ。女声、男声の両方。既に多くのストックがあるヤマハ社内のデータベースから蔵出しするか、修正を加えるか、新規で録り直すか、これから決めていくという。VOCALOID自体、日々アップデートされているので、データの作り方も変わってくるので、できれば録り直したいという意向のようだ。
実際に試してみた
VY2の製品版を一足早く試用できたので、その印象を少し書いておこう。
Mac OS Xに、CrossOver Macを使ってインストールしてみたが、VOCALOID2のインストールテンプレートを使って、問題なく登録できた。インストールされる容量は732Mバイト。VY1とあまり変わらない。
現在販売されている男声VOCALOID2は、リリース順で、がくっぽいど、ボカロ先生、歌手音ピコに次ぐ4つ目となる(鏡音レン、ガチャッポイドは除外)。その中で音域的にいくと、がくっぽいどとボカロ先生の中間に位置する。木村さん曰く「C2が一番おいしい」そうだ。これは男声の中でもかなり下のほうの音で、がくっぽいど以外ではあまりパンチがでない。
VY2はその音域の押し出しが効く。いわゆる「いい声」「イケメンボイス」である。「イケメン」という形容詞はこの声にも当てはまるようだ。声の質は、実際に中の人が若い、ということもあるが、既存の男声VOCALOIDのどれとも違う、クリアで張りのあるものだ。
試しに1曲、サンプルとして作ってみた。
曲は、沢田研二の「時の過ぎゆくままに」。これまで男声VOCALOIDを使って試してはみたものの、イメージが合わずにやめていたものだ。
VY1で評価の高かった滑舌は、VY2でも気をつかって調整されたようで、発音のクセはあまりない。母音、子音ともバランスにおいては現在の男声VOCALOIDの中ではベストと言っていいだろう。この曲ではほぼベタ打ちで、DYN、PITなどのパラメータはいじっていない。「生きてることさえ」のところ(22秒あたり)は木村さんが「おいしい」といったC2付近だ。ドスのきいた、いい声だと思う。
細かいことを言うと、「あ」と「れ」を接続したときに「げ」のように聴こえてしまうところが気になったが、トラック分割や、先行する音の長さを調整することで対応可能だろう。
バッキングはGarageBand for iPadの内蔵音源のみで作った(http://blogs.itmedia.co.jp/closebox/2011/04/garageband-for--4ba7.html)。GarageBand for iPadのバッキングでやったことには意味がある。VY2のiPad版もリリース予定だからだ。
VY1は、Windows版VOCALOIDのパッケージ以外に、iPhone版アプリの「iVOCALOID-VY1t」iPad版のアプリ「iVOCALOID-VY1」が出ている。このVY2版も準備中で、夏までには出るらしい。
VY2版iPadアプリ「iVOCALOID-VY2」が出れば、バッキングはGarageBandで、ボーカルはVY2で、どちらもiPad上で作って、Mac上で編集・合体させて出来上がり、といったことが手軽にできるようになる。現在は無理だが、アプリ間のオーディオデータのやりとりが実装されれば、VOCALOIDのボーカルを含めたミックスダウンまで可能になるかもしれない。
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