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「ぜ、ぜんぜん平熱ですよ?」――体温計がもしウソつきだったらインタラクション2012

プラセボ効果の応用で、もしも体にウソの情報を送り続けたら、人体にはどんな影響が現れるのだろうか。神戸大学の研究が面白い。

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 薬理作用のないものでも「薬ですよ」と言って渡されると、なぜか効き目が現れてしまう「プラセボ効果」。ではもしも、体温計が「ぜ、ぜんぜん平熱ですよ?」とウソをついたら、やっぱりプラセボ効果は現れるのか――?

「虚偽情報フィードバックを用いた生体情報の制御システム」について発表を行った、神戸大学の中村憲史さん

 3月15日から17日にかけ、日本科学未来館にて開催中の「インタラクション2012」。神戸大学の中村憲史さんらによる、「虚偽情報フィードバックを用いた生態情報の制御システム」は、そんな「情報によるプラセボ効果」に着目した研究だ。

虚偽情報を送ることで体はどう反応するか、中村さんたちは4つの仮説を立ててその通りになるか検証実験を行った。グラフの緑の矢印は実際の生態情報、赤い矢印は虚偽の情報、青い矢印はそれによって変化する生態情報の動きをそれぞれ表している

 実験では、体温ではなく「心拍数」を使った。被験者にはエアロバイクをこいでもらい、運動中の心拍数の変化を計測する。ただし被験者に伝えられるのは、実測値とは違う「ウソ」の心拍数だ。

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 その際、身体はどう反応するのだろうか。中村さんたちの研究班では、「緩和」「発起」「維持」「隠蔽」の4つのパターンを想定し、実際にそうなるかどうか実験した。結果、約6割のデータに有意差が認められたという。例えばある被験者の場合、実測値よりも高い心拍数を表示し続けたところ、実際に心拍数の上昇が認められたそうだ(発起)。

 また別の実験では、被験者に30分程度のプレゼンテーションを行ってもらい、やはり心拍数を計測・表示することで緊張の度合いを測った。このときもやはり、同じように「ウソ」の心拍数を見せ続けたところ、こちらも5割のデータに有意差が認められた。ある被験者の場合は、実測値よりも低い心拍数を表示することで、心拍数を下げる(緩和)ことに成功。つまり、虚偽情報によって緊張を和らげられたということになる。なるほど、「虚偽情報による身体への影響」は確かにあると言ってよさそうだ。

 ただし、影響があるのは間違いないとしつつも、その現れ方には個人差があるという。「緩和」には反応するが「発起」には反応しない人、「緩和」と「発起」どちらでもなぜか心拍数が上昇してしまう人などだ。思い通りに心拍数を操作するには、その人の特性をまず把握しなければならないという。

実験データの一部。左は心拍数を上げる「発起」、右は心拍数を下げる「緩和」についてそれぞれ試しており、どちらも虚偽情報によって心拍数を操作することに成功している

 今回は心拍数を使って実験したが、これをうまく使うことができれば、「緊張の緩和」以外にも「効率的な運動」、さらには「眠気の解消」(眠い時は心拍数が下がるので、逆に心拍数を上げれば眠気も解消されるのでは、という仮説)などに役立つ可能性があるという。中村さんによると、「自分が緊張しいなので、自分のために行った研究でもあった」そうだ。今後は心拍数だけでなく、体温などほかの生態情報についても調査を行っていきたいという。

 実験では運動時と緊張時という状況で行ったが、例えばウェアラブルPCやヘッドマウントディスプレイなどを使えば、こうした「虚偽情報」を日常生活に取り入れることも可能になる。そうなれば、常に最適な虚偽情報を送り続けることで、プラセボ効果により健康を維持する――といったことも不可能ではない、のかもしれない。こうなるともう「体調を管理する」というより「体調を管理される」といったレベルで、それはそれでちょっと恐ろしい気もするが……。

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ウェアラブルPCと心拍センサ、ウェアラブルディスプレイを使った虚偽情報自動生成システムの案。アイデアレベルながら「面白い」「自分でも知らないうちに健康状態が操作されるのは怖い」など、会場では賛否さまざまな意見が飛び交った

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