ドイツ語圏の人たちが日本のアニソンを流ちょうに歌うワケは?:海外オタク見聞録
YouTubeでドイツ語圏の人たちがアニソンやボカロ曲を日本語で流ちょうに歌っているのを見ますが、日本語とドイツ語は実は音が近いようです。
最近、テレビで外国人観光客への街頭インタビューをよく見かけるようになりました。銀座や秋葉原でのインタビューが多いのですが、特に秋葉原では日本語で応じている方が多いのに気が付かれたでしょうか?
10年くらい前には日本語を話せる人が非常に珍しかったのですが、最近は日本語を話せる方も多くなってきており、特に若い人ほどその傾向が強いようです。国際交流基金の最新版(2009年度)の調査によれば、教育機関で日本語を学んでいるのは約365万人、前回調査の2006年からは22%の増加となっています。
この資料によれば、日本語学習の目的として上位から「日本語そのものへの興味」、「コミュニケーション」、「マンガ・アニメに関する知識」と並んでおり、秋葉原でのインタビューで日本語率が高いのもうなずけます。
海外の動画投稿サイトYouTubeでは日本語でアニソンやボカロ曲を歌っている動画を時折見かけますが、中でもドイツ人やオーストリア人といったドイツ語を母語とする人たちがきれいな日本語で歌っています。これまで筆者が会ってきたさまざまな国の人たちの中でも、ドイツ語圏の人たちが流ちょうな日本語を話すのをたびたび目にしてきました。
語学の習得には文法や語彙も重要ですが、会話をするためには聞き取ってそれを復唱する訓練が非常に重要になります。英語やフランス語では日本語にはない音が多数あるのに対し、ドイツ語やスペイン語では比較的少ないために聞き取りやすく復唱に有利なのです。ということでドイツ語圏やスペイン語圏の人にとっても日本語を聞き取りやすいのではないか、という仮説に思い至りました。
そんなとき、東京ゲームショウの夜に開催されたInternational Partyで日本在住のあるドイツ人と出会いました。「狼と香辛料」の賢狼ホロが好きということで意気投合し、ゲームの話などをするうち言葉に詰まり「日本語でいいですか?」と聞いたところ、流ちょうな日本語で返事が返ってきたのです(それまで私は中国人と思われていたらしい!)。
そこで、日本人にとってはフランス語や英語よりもドイツ語やスペイン語の方が発音しやすいが、その逆はどうなのか確認してみることにしました。
―― なぜ日本に?
「日本のアニメをみて育ったので、日本に来るのは自然の成り行きです」
―― 日本語の勉強を始めたきっかけは?
「アニメで興味を持ち、オリジナルのアニメを観たかったからです」
―― きれいな日本語を話していますが、どこで習ったのですか?
「フォルクス・シューレ(日本語に訳すと市民講座)で10代の頃から習い始めました、高校時代に日本へ留学、その後大学を出て日本で仕事するために来ました」
―― ドイツ語と日本語で使う音が近いと思うんですが、ドイツ人からみてどうでしょう。
「無い音もあるけど近いと思います、ただイントネーションは逆ですが」
―― ドイツ人がきれいな日本語を話すのは、音が近いことが有利になっているのではないかと私は考えているんですが。
「それは思いますね、その意見には賛成します」
まだ私の仮説を補強する材料は乏しいですが、例えば年末になるとあちこちでベートーベンの第九が聞こえてきます。ドイツ語になじみのない方たちがカタカナ表記したドイツ語の歌詞を覚えて歌ってもそれなりに聞こえます。ドイツ語で使用する音が日本語のそれに近いのであれば、逆にドイツ語圏の人が日本語の歌を歌っても同じになるのではないか? そのように考えると、YouTubeでドイツ語圏の人たちがアニソンやボカロ曲を日本語で流ちょうに歌っているのも納得がいくのです。
10代のころに夢中になったものは、その後の趣味、嗜好に大きな影響を与えます。1980年代に欧州に日本のアニメが大量に輸出され、非常に人気となりました。そのころ子どもだった彼らが成長し、夢中になったアニメの輸出国日本にやってきているのです。
著者紹介
松岡洋は日本のポップカルチャー情報を発信するONETOPI「日本のポップカルチャー」のキュレーター。1980年代に「月刊アスキー」に寄稿。海外で起きている日本ブームについて「なぜ日本に魅せられたのか」を調査している。本連載「海外オタク見聞録」ではその調査で得られた情報やエピソードを紹介する。
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