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【動画あり】鹿児島県頴娃(エイ)町の「エイ語」が鹿児島出身のぼくも聞き取れなかった

鹿児島でも難易度の高い方言「エイ語」っていったいどんなの? 話し手たちにお茶会をしてもらった。

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 「鹿児島弁ってどんな方言?」と尋ねると、多くの人が「語尾に『ごわす』って付ける」「人を『○○どん』って呼ぶ」と答えるだろう。

 実は今の鹿児島県民はほとんど「ごわす」も「どん」も使わない。筆者は生まれてから18年間鹿児島で過ごしたが、ネイティブな「ごわす」「どん」を一度も聞いたことがない。Facebookでつながっている鹿児島の友達約50人も、教師として36年間鹿児島各地を転々としてきた父も耳にしたことがなかった。ドラマに出てくる薩摩藩・西郷隆盛やアニメ・マンガの鹿児島キャラが使って全国に定着したのだろう。ぼくにとっては「話し手のいない鹿児島弁」なのだ。

 とはいえ鹿児島弁の代名詞である「ごわす」「どん」が完全に消え去っているのも同郷の身として寂しい。県内の地方や年配の方の中には、現代でも「ごわす」「どん」を使う人がいるのではないか……と探ってみたら、「どん」を使う地域を発見。

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鹿児島の薩摩半島の南端にある

 場所は南九州市の頴娃(えい)町。薩摩半島の南端に位置し、UMA・イッシーが生息すると話題になった池田湖のすぐ西隣にある地域だ。

 頴娃町の人々が話す鹿児島弁は市内の人も分からないほど独特で、遊び心も交えて「エイ語」と呼ばれているらしい。そこでは昔の鹿児島弁が今も残っていて「どん」もネイティブに使われているそうだ。

 エイ語!! ジョークとはいえ県民が外国語になぞらえるほど難しい鹿児島弁ってどんなものなんだ? そしてネイティブで話される「どん」もぜひ聞いてみたい。

 ということで先日鹿児島へ行った際に、頴娃町に住む60代の男性1人・女性2人にご協力をお願いして、お茶会をしながらエイ語でおしゃべりをしてもらった。

初めてのエイ会話

 手はじめにどれだけ標準語や市内の鹿児島弁と違うのか知りたくて、「どこ行くの?」「○○に行く」という簡単な“エイ会話”をお願いする。

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どこいくの?

「トヨちゃん、どげいっとこ」

「かわしいっとこ。あすっけいっとこやったいがん、サダコさん」

 ……なんか早くも手ごわいぞ。とりあえず「どげいっとこ」は、「どげ」が「どこ」のなまりと思えばついていける。ただし返答は「サダコさん」という相手の名前以外が早口で聞き取れずさっぱりだ。

 返答の意訳は「川尻(かわしり)へ行くところ。遊びに行くところだったよ、サダコさん」とのこと。鹿児島全域のおじいちゃんおばあちゃんが使う上級鹿児島弁「あそけ(遊ぶ)」が、さらになまって「あすっけ」になっていた。「やったいがん」は「~だったよ」のエイ語独自の言い回し。耳にしたことのない単語をいくつも早口で言われると推測しようがないので難しい。

有名な昔話の冒頭文

 さらに有名な昔話の冒頭文をエイ語でしゃべってもらった。みなさん何の物語かお分かりだろうか。

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「むがい あひけ じさんとばさんが おったちゅほら。じさんが やまへ たぶんといけ、ばさんにゃ かわへ いそあるけいったち。ばさんが いそあるいちょったら かわんかしたから ふっとかーももが ながれてきたち」

 「山」「川」「桃」「流れ」……聞き取れるいくつかの標準語で「桃太郎」のエイ語訳というのはなんとなく分かるはず。「たぶんといけ(柴刈りに)」「いそあるけ(洗濯に)」はどうしても標準語との共通点が見出せず、外国の言葉を習ったような新鮮さだ。

数え方

 さすがに数字は一緒だろうと1から10まで数えてもらったら、「ひと、ふた、みー、よー、いじゅ、むー、なな、やー、ここの、とー」と、5が「いじゅ」になっていた。エイ語の独自性が数字にまで及んでいるのにびっくり。

カオスなエイ語に「どん」のお出まし

 “エイ単語”がオリジナリティにあふれているのを知ったところで、3人にいろいろ会話してもらった。テーマがあった方が話しやすいということだったので、「病院」についてしゃべってもらうと……。

病院について

 おじいさんが1分ほど話すのだが肝心なところがさっぱりだ。通訳をお願いしたら腰を悪くした話とのこと。確認するとなるほど、始めに「こいがいたかったばっじ(腰が痛かったから)」と言っている。後半によく出てくる謎の単語は「あゆむ」だと言われ、おじいさんが腰のために早朝に「歩いて」いる話だとようやく理解できた。文字がイメージできれば分かる単語もあるけど、そもそも独特の抑揚で発音が聞き取れないのに気づく。

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 そして、ますます驚いたのがお茶会メンバーの次の指摘。

「今の会話に『どん』入っていたよ。」

 え!? どこに!? 動画を何度も再生してみて、早口の言葉の中で17秒くらいにさらっと「医者どん」と言っているのを発見。初めての生「どん」なのに全然気づかなかったのが悔しい。

そもそも「どん」ってなんだ

 「どん」は名前の後ろに付ける敬称。単語自体に特別なアクセントがある訳でもなく、標準語の「さん・様」と変わらないトーンで使われているようだ。お坊さんのことを「ぼいどん」、大工さんのことを「でいどん」など、職業にさらっと付けて使うことが多いとのこと。ぼくだとライターどんになるのだろうか、かわいいので呼んでください。

お茶会中はさまざまなところで「どん」が飛び出した

 では「ごわす」は使うのだろうか。聞いてみたが、さらに純粋なエイ語を話す年寄りの方でもしゃべらないそうだ。もともと武家が用いる丁寧語だったので武士と一緒に廃れてしまったのかもしれない。

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 あとの調べで、「どん」は頴娃町以外にも大隅地方の鹿屋市など、鹿児島県本土のいたるところで年配の方が使っていることが分かった。田舎でおじいちゃんおばあちゃんの会話に耳をすませばネイティブどんはけっこう出てくるかも。

エイ会話にはリスニング力と単語力が必須

 では、最後にもう1本、かなり難解な上級エイ会話のサンプルをお聞きいただこう。

スピード違反?

 最後はオチがついたようでみなさんドッと笑っているが、なるほど、わからん。英会話スクールのCMに出てくる英語できない人みたいになった。

 内容は、スピード違反の取り締まりにあったので近くに住む兄さんに知らせようと電話したら、兄もすでに同じ場所で取り締まりにあった後で、兄弟そろってお間抜けだったというもの。「あにょ(兄)」「けいのこ(軽自動車)」「きょでそろ(兄弟そろって)」など、ここでも要所でエイ単語がさく裂だ。ちなみに「巡査どん」も登場しているぞ。

 聞き取れない一番の原因はイントネーションのようだ。上級鹿児島弁を理解できる父に動画を見せたところ、本土のどの鹿児島弁とも違っていて耳に全然入ってこないと驚いていた。エイ語のしゃべりは抑揚が激しく耳に全然なじまない。

 イントネーションを攻略してもまだエイ単語がある。父によると、上級鹿児島弁から予想できる単語を差し引いても、会話の3割はエイ完全オリジナルの言葉らしい。話の要旨は掴めてもすべて理解するのは無理だともらしていた。エイ語、どんだけだ。

なぜ「エイ語」は生まれた?

 同じ本土にありながらも、頴娃でここまで独特な言葉が話されているのはなぜだろう。お茶会のみなさんにお聞きしたところ、頴娃あたりが江戸時代に薩摩藩・島津家による密貿易の港だったからという説が飛び出た。琉球王国など外国とのやりとりを幕府の役人に知られないよう、島津家が貿易で話させた暗号のような言葉が頴娃独自の言葉として残ったのではないかというものだ。

頴娃町にある「番所鼻自然公園」。密貿易を監視する薩摩藩の番所があった(写真は南九州市のサイトより)

 ほかにも1588年まで豪族「頴娃氏」がお城を構えていた地域だったからという説もあった。もしやそこで話されていた言葉が密貿易で引き継がれたのだろうか……エイ語の独自性の理由はいろいろありそう。

 最後に念を押しておくが、頴娃の人々は町外の人といるときは一般的な鹿児島弁や標準語を用いながら和らげて話す(若干イントネーションや語尾は残るけど)。またテレビの普及や交通の便が良くなったのもあって、世代が若くなるほどエイ語の使用割合は減っていっているそうだ。薩摩の歴史を物語る重要な方言かもしれないので、ずっとこの先も残ってほしいところ。

 本物の「どん」が聞けたのが嬉しかったのと、エイ語が分からないほど世界の広がりを感じた今回のお茶会。言葉に戸惑うぼくを前にしたおじさんおばさんのニヤけ顔は、ほかの人には知りえない頴娃の魅力を楽しんでいるようで温かかった。

頴娃の大野岳から見える薩摩富士・開聞岳のパノラマ(南九州市商工観光課Facebookページより

おまけ:お坊さん「ぼいどん」が出てくる動画

おまけ2:あまちゃんの「じぇじぇ!」は「あべあべ!」になる

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