廃道家、石井あつこさんによる「廃道」見学ツアーで「歴史」と「山」を存分に味わって来た
密かに話題のスポット「廃道」。その見学会に喜び勇んで参加した筆者が体験することになったのは、本物の歴史、そして、山だったのです……。
ツアーでは、群馬の廃道スポット2つを見学
みなさんこんにちは。フリーライターの種子島健吉です。今回、私は以前インタビューした廃道家の石井あつこさんがガイドを務める廃道見学会に参加してきました。
見学会当日は、東京都江東区にある古石場文化センター(センター内には、区ゆかりの映画監督「小津安二郎紹介展示コーナー」もあり)の近くに集合しました。今回の見学会、センターが主催する講座「廃道を往(ゆ)く」の一環で講座と見学会がセットになったイベントなんです。
第1見学地、幻の明治隧道「数坂隧道」
さて見学会当日、バスに乗り込むと石井さんが本日の行程を説明してくれました。まず、群馬県沼田市、国道120号線椎坂峠(しいさかとうげ)の2世代前の道である「数坂隧道(かっさかずいどう)」に向かうとのこと。
山の中に「隧道」へ続く失われた「峠道」が!
高速道路を走ること3時間あまり、最初の見学地である「数坂隧道」へ続く廃道の入口に到着しました。ちなみに隧道とはトンネルのことです。
石井さんを先頭に参加者のみなさんが山の中へ踏み込んで行きますが、かなり険しい。ついていくのがやっとです。
種子島 あの……険しい「ヤマ」しか見えないんですが、ここに廃「道」があるんでしょうか?
石井 地図には一度も記載されなかった、明治の道の痕跡をたどっています。倒木があるので険しいように感じますが、勾配は意外とゆるいでしょう? 車馬を通すためにゆるやかに造ったのでしょうね。
ゆるやかといっても運動不足のため息が上がりがちな筆者。最後尾付近をついて行くと、みなさん立ち止まりました。何かあるようです。
種子島 これはお地蔵さんですか? あ! 頭がない!!
石井 台風などで倒れたりしたときに破損したのでしょう。急死した馬をまつっていることが多い、馬頭観世音があるということは、本当にここが昔から使われていた道だという確信がもてますからうれしいですね。
119年前の忘れ去られた「隧道」が出現!
種子島 あ! いま木々の合間にグレーのものが見えたような……。
石井 着きました! これが「数坂隧道」です。おおかた竣工(しゅんこう)したところで崩れてしまい失敗してしまったという幻の隧道です。
種子島 でも、こじんまりとしてますね。なんか地味というか……。
石井 石積みが美しいじゃないですか。扁額(へんがく)もぜひご覧ください。
種子島 扁額というのは字が書いてある石ですね? 「数坂隧道」って書いてありますね。
石井 反対側も見てください。
種子島 明治二十七年!!
石井 明治27年、いまから119年前にここを車馬が通れる道にしようと、熱い思いで工事に携わった人々がいたんです。いまは利根村史に数行の記録しか残っていませんが……。
種子島 よく見ると100年以上もの風雨で、石の表面が削られていますね。開通していれば、国道になっていたかもしれないのに……。
石井 数坂隧道工事の失敗後、北にある栗生峠(くりうとうげ)に隧道が作られて、大正9年に開通しました。その際、数坂工事の発起人の方が寄付や応援をしたそうです。当時の人々の村の発展を願う気持ちを想像すると、胸が熱くなりますね。
第2見学地、身近な廃道「迦葉山隧道」
次に向かった廃道ポイントは県道266号線付近にある「迦葉山隧道(かしょうざんずいどう)」です。
石井 第2見学地の「迦葉山隧道」は、気にしなければ通り過ぎてしまう日常の風景の中にある廃道です。そんな身近な「廃道」の魅力に触れてみてください。
「迦葉山隧道」は道ばたにあった!
どんな感じで日常の風景なんだろう――? バスを降りて、道路を横断したら、そこは「迦葉山隧道」でした。今は倉庫になっているんですね。
種子島 でも、反対側の入口はどうなっているんでしょうか?
石井 やっぱり気になりますよね? みなさんこちらへどうぞ
道路を150メートルぐらいでしょうか。進んだ先に、道の跡のようなものが出現しました。右にUターンするようにその場所へ入って行きます。
草を踏み先へ進んで行くと、やはり塞がれたトンネルの反対側の入口がありました。そして、その前には倒れてさびた道路標識が……。今は倉庫となったトンネルと、そのトンネルが廃止されたために不要となった廃道を確認して、100年もの時間をさかのぼった廃道見学会はこうして終了したのでした。
「廃道」は、登山道のように整備されておらず安全ではありません。でも、発売予定のDVD「廃墟賛歌 廃道ビヨンド」(ハピネット、2014年3月4日発売、3990円)なら誰でも安全に「廃道」を見ることができます。
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