パソコンに出会い翼を持った79歳“マーちゃん”が見るデジタルの世界
会場からは大きな拍手と歓声が。
「広める価値のあるアイデア」を共有するためのコミュニティ「TEDx(テデックス)」が主催するイベント「TEDxTokyo 2014」が5月31日、渋谷ヒカリエホールで開催された。テクノロジー(Technology)・エンターテインメント(Entertainment)・デザイン(Design)の3つ軸を持ち、それぞれの分野でとがった人がスピーチするというこのイベント。その中で、今回最も多く参加者の笑いを誘い、鳥肌を与えたであろうプレゼンター「マーちゃん」の発表をレポートする。
「マーちゃん」こと若宮正子さんは、現在79歳。高校を卒業して以来、銀行に勤めていた。1995年に退職した後は母の介護を行わなければならず、あまり外出できなかったと言う。そんなある日、ふと見た雑誌に「パソコンがあると家から一歩も出ずにいろんな人とおしゃべりができる」と書いてあった。マーちゃんは、当時とても高価だったPCを衝動買いしてしまったのだそう。
「このたった1つの買い物が私の人生を大きく変えたんです。私は翼をもらったんです。その翼は、パソコンがないときには知らなかったひろ~い世界に私を連れて行ってくれたんです」と、マーちゃんは手をいっぱいに伸ばして言う。
とはいっても、マーちゃんはPC初心者。PCを買ってからというもの、苦難の毎日が待ち受けていた。しかし、介護とおしゃべりを両立させるためには、何としてでも面倒な設定を自力でやらなければならなかった。そして、3カ月経ったある日曜日の朝、「マーちゃん、ようこそ」というメッセージが出てきた。
「接続に成功したんです!」――そう両手のこぶしを突き上げるマーちゃん。会場からは大きな拍手と歓声の声が上がった。ここから何か吹っ切れたのか、マーちゃんの本気のプレゼンテーションが始まった。
「老人クラブなので、チャットといってもつぶやきだけではないんです。人間が年を取って、病を経て、そしてあちらの世界に旅立っていく、そういったズシーーーっと重いような内容のものがずっしりと語られている……そんなシーンもあるんですよ」、「私はこの魔法の翼でこんなに元気になれたので、他のシニアの方にもぜひお伝えしたいと思い、シニアのICT学習のボランティアにも参加したんです。そんなとき、シニアにとって面白いパソコンの学習教材がないことに気付いたんです。特に、Excelがそうでした。皆さん、Excelをどうお思いですか? なんかね、数字ばっかり並んでて、うっとうしい! みたいな……。でも、『面白い教材がないなら私がつくればいいんじゃない?』と思いたったんです」――マーちゃんの話は、ものすごい勢いで会場を引き付け、引き込んでいった。
そして見せてくれたのが、Excelで模様や絵を描く「Excel Art」だった。「手芸の延長線上にExcelを持ってくればシニアにとっても楽しくなるだろう」と、マーちゃんは考えたのである。セルの塗りつぶしやグラデーション、パターン、罫線など、Excelが持っているあらゆる機能を駆使し、日本古来の文様をデザインした紙袋や金魚・ヨットなどが書かれた「楽しい夏休み」というテーマのうちわを見せてくれた。「こんなふうに、Excelで世界に1つだけの私だけのグッズを作れるんです。た~のしいですよ~!」と、マーちゃんは陽気に語る。
マーちゃんの発表が終わると、会場はスタンディングオベーション。持ち時間はとっくにオーバーしていたが、そんなことよりもマーちゃんの持つ純粋な感動とクリエイティビティに会場は熱くなっていた。
「今日は、私はICT(情報通信技術)の伝道師」――冒頭に放ったマーちゃんの言葉が思い起こされた。
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