百合マンガの最初の1冊を選ぶならこれ(断言) 「あの娘にキスと白百合を」です!:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第23回
この百合マンガがすごい(俺調べ)。
ねとらぼ読者のみなさん、ごきげんよう。虚構新聞の社主UKです。
すでにご存じの方も多いかと思いますが、来月19日、スタジオジブリの映画「思い出のマーニー」が公開されます。原作はイギリスの同名児童文学ですが、映画では舞台を北海道に、少女・杏奈とマーニーの交流を描いたものになるそうです。公式サイトも公開されていますが、社主がこのトップページを見て最初に抱いた感想は、
でした。映画を楽しみにしたいので、ストーリーは見ないようにしているのですが、仮に百合百合しいお話でなかったとしても問題ありません。要するに社主はこういうイラストを見て、「百合!」が第一声に出てしまう程度には百合が好きだということです。
そんな社主が今回みなさまにぜひおすすめしたいのが、「コミックアライブ」にて連載中、缶乃先生の学園青春百合マンガ「あの娘にキスと白百合を」(~1巻、以下続刊/KADOKAWA)です。
「のんのんびより」などでおなじみの「アライブ」ですが、社主にとっての「アライブ」は何はなくとも「ひまわりさん」。毎月連載を楽しみにしています。そんな同誌で今年1月号から始まったのが本作「あの娘にキスと白百合を」(以下「あのキス」)でした。
美しい見開きカラーから始まる本作。しばしページをめくりめくり、読み終えるなり「こんなの好きに決まってるだろ! 単行本3冊買います!」と、1話切りならぬ、1話買いを決めました。それほどまでに社主の百合アンテナが反応を示したのです。一部では知られていた社主の百合好きですが、これまで本連載であまり触れてこなかったのは、本作の単行本化を待ってのことでした。
ああもう……こんなの好きに決まってるだろ!
本作の舞台は中高大一貫の女子校・清蘭学園。中等部から高等部に進学した品行方正、成績優秀の秀才少女・白峰あやかの前に、突如現れたのは天才少女・黒沢ゆりね。彼女はそれまで勉強・スポーツ共にトップだった白峰さんをいとも簡単に抜き去ってしまいます。しかし天才ゆえの天然か、黒沢さんは授業中は居眠りばかり。運動部からの相次ぐ勧誘もすべて断るなど、いまひとつクラスメイトと打ち解けられません。
「皆 貴女と仲良くなりたいのよ 勿論 私もね」――清蘭学園の「生徒の鑑」を自負する白峰さんは、曇りひとつない笑みで黒沢さんにそう語りかけ、友達作りの後押しをしてあげます。そしてそのやさしい笑顔にすっかりほれ込んでしまった黒沢さんなのでした。
さすが優等生の白峰さん……と言いたいところですが、残念ながら裏表のない素敵な人ではありませんでした。その日の夜、学生寮で牛乳をがぶ飲みしながらルームメイトで従姉妹(いとこ)の瑞希に当たります。
「なあーにが“天才”よ! そんなの軽々しく使っていい言葉じゃないのよ!!」――中間考査で2位だったことがよほど悔しかったらしく、期末考査での首位奪還を誓います。しかしそんな白峰さんの裏の顔を知らない黒沢さんは彼女になつく一方。
さて、期末考査の結果発表。白峰さんは深夜にまで及ぶ猛勉強の結果、500点満点中495点を叩き出すものの、黒沢さんはそれをさらに上回る498点。このわずかな3点が秀才と天才の差、というものでしょうか。帰りの玄関、98点の答案を黒沢さんに見られてしまった白峰さんは、ついに「貴女さえいなかったら私は完璧でいられたのに」と本音をぶつけてしまいます。さらに彼女は続けます。
この一言が黒沢さんにとどめをさしてしまいました(いい意味で)。それまで「天才だから」という理由で周りから遠巻きに見られてきた彼女に対して、「ちょっと要領がいいだけのただの人」と言い放った白峰さんは、それまで出会ってきた誰よりも自分の心の核心に迫った人だったのでしょう。そして黒沢さんは、そのままじりじりと白峰さんに近づいていき……。ここから先は言わなくても分かりますよね。
大事なことなので2度言いました。物語はこの後、白峰さんと黒沢さんを中心に、清蘭学園の少女たちの友情と恋愛模様を描いていきます。第1巻ではまだこの2人のお話が多いですが、次巻以降では彼女たち以外の人物にもスポットが当たっていくことになるでしょう。
数ある百合マンガの中でも社主が特にこの作品にほれこんだ理由は、百合をテーマにしながらも百合一辺倒にならない、そのバランス感覚の良さにあります。学園ものとしての青春・友情な要素も含みつつ、くすっと笑えるシチュエーションもある(ちなみに社主は黒沢さんがじっと見つめてくる顔と、白峰さんのことになると耳としっぽが生えて犬になってしまう、そのギャップが大好きです)。まさに百合マンガの最初の1冊として最適な作品と言えるでしょう。
またそれぞれの状況に合わせて、人物の表情や描き方もバラエティに富んでいるので、どのページも軽く流すことなく、じっくり読んでしまいます。これは実際「あのキス」を手に取って、1ページ1ページ鑑賞するように読んでみることを強くお勧めしますが、本当に全てのページにわたって隙がないのですよ。
あらためて百合とはなんぞや
さて、話を冒頭の百合マンガに戻すと、百合と言ってもいわゆる「ガチ百合」から、ほのかな百合まで、背徳感漂う百合から、あっけらかんとした百合まで、その度合いは実にさまざまです。これはもう完全に価値観の問題で、「百合マンガに何を求めるか」の違いでもあります。ただ、もしかわいい少女たちが登場するマンガを読みたいというだけならば、萌え系でも良いわけで、わざわざ百合を選ぶ必要もないのです。
それでは萌え系マンガと、百合マンガの違いは何なのでしょうか。百合の良さは何よりその「近寄りがたさ」なのではないかと社主は思います。マンガやアニメのかわいいキャラをしばしば「俺の嫁」と言いますが、百合マンガの登場人物は、たとえかわいくても嫁候補にしてはいけないと思うのです。それでは百合の世界に「自分=男」という異物を混入させてしまうことになってしまいます。
女子による女子のための世界=百合なのであって、読者としての男は草食どころか、もはや草と化して見守るのがベストだと思うのです。そんなわけで、社主は「あのキス」を読むときは雑念を払い、完全に草になりきっています。
あとは「少女だけの純粋な世界」に対するユートピア的願望もあるかもしれません。リアル女子高、あるいはリアル女子関係というものを仄聞(そくぶん)する限り、残念なことに清蘭学園のような世界はこの世のどこにも存在しないのではないかと……。現実は恐ろしい限りです。
百合の世界は純粋の上にも純粋を重ねた、邪(よこしま)な気持ちを持たぬ清い者だけがそっと見守る、そんなはかなげな、マンガならではのユートピアなのです。あれ、何か自分で自分の首を締めているような気がしなくも……。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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