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あの国が古都でお好み焼き屋に……!? 大人の秘密基地「慈恩弘国(じおんこうこく)」に潜入してきた

あの「赤い」公国が京都にあった――お好み焼き屋として。あの名作アニメへの愛にあふれたお店で「大尉」に会ってきた。

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 名作ロボットアニメに登場する有名な“あの国”。滅んだはずが、生き延びてお好み焼き屋になっている――? 本当なのか、潜入取材してきた。

あの「赤い」公国は京都に存在した!?

 五重塔で知られる京都の世界遺産、東寺(教王護国寺)。その向かい側にこの店はあった。

 赤い旗の掲げられた車、赤いのれん、「お好み焼き 慈恩弘国(じおんこうこく)」と書かれたひさしをくぐると、ランバ・ラル大尉に扮(ふん)したオーナーと、地球連邦軍のピンクの制服を来た若い女性スタッフが笑顔で迎えてくれた。女性スタッフは「フラウ・ボゥ7号」と呼ばれている(フラウ・ボゥは9号まで在籍)。

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 ロボットアニメの不朽の名作と関わりがあるようだが……?

 「『慈恩弘国』とは慈愛の慈に恩恵の恩、弘法大師の弘。東寺っていう弘法大師ゆかりのお寺があるでしょ。○ンダムのジオン公国とは全く関係なくて、慈愛と恩恵に満ち満ちた弘法様のお国、それを略して『慈恩弘国』としてるんですね」と大尉は苦しく否定する。

 店に入って左の神棚は、一年戦争で戦死した「英霊」を祀(まつ)る「慈恩大社」だ。主祭神は伊勢莉那(いせりな)姫尊と業坐(がるま)美彦大神。御利益は「死ぬまで続く、熱烈な愛に恵まれる」という縁結び。1回50円のおみくじや「破魔~ん矢」という守り矢、持ち上げて軽かったら願いがかなう「重軽(おもかる)ギレンの像」もある。店に出ていらした奥様(ハモンさん)によると、願いがかなって結婚したお客さんもいるという。


慈恩大社

重軽ギレンの像

 座敷席にはスーパーファミコン、テレビの上には大きなモビルスーツのフィギュア。著作もあるプロのフィニッシャー(フィギュアの塗装専門家)の方が常連で、その方の作品だそうだ。


座敷席

店内にはヒートホーク型ベースも

「見て」「聞いて」味わうお好み焼き

 カウンター席に腰かける筆者。箸袋もやはり赤く、あのマークがあった。「暇な時にフラウたちが作ってくれます。この折っている部分は、シャア専用ザクの角の部分をイメージしました」と大尉。

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 大尉のモビルスーツに似た名前の「具腐(ぐふ)焼き」を頼む。目玉焼きが「モノアイ(単眼)」を思わせるしょうゆ味のお好み焼きだ。豆腐も入るという。「豆腐の腐で『具腐(ぐふ)』なんです。モビルスーツは全然関係ないです」


具腐(ぐふ)焼き

 豆腐のほかにレタスも入っていてヘルシー。「あんまり健康のことは考えてないですけど。レタスが入ってると、切るとき、ザクって音がするんですよ。音でも楽しんでもらおうと思って」(大尉)。フラウ・ボゥ7号さんから手渡されたコテならぬ「ヒートホーク」で切り分けると、確かに「ザクッ」と音がした。しょうゆ味の口当たりがまろやか。7(しょうゆ)対3(白だし)で割っているのだという。「舌にガツンとこなくていいでしょう」と大尉は語る。


レタス入り

「ザクッ」と音がした

 ほかに「座苦(ざく)焼き」「怒無(どむ)焼き」などのお好み焼きや、「ヒートロッド」(焼きそば)、「敵のボール焼き」(たこ焼き)、「ズゴック粥」などさまざまなメニューがある。


焼け具合を見る大尉

 メニュー開発はほぼ大尉によるものだが、「きらめきのララァ」「コロニー落とし」といったスタッフ考案のオリジナルカクテルもある。ちなみに「コロニー落とし」はライムのシロップが入っていてコロナビールっぽく仕上げているとのこと、コロナとコロニーのシャレのようだ。


カクテルメニュー

 メニューの中には漢字のものと、そうでないものがある。その違いは何だろうか。

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 「最初は全部漢字でいこうかな、と思ったんですけど途中であきらめたんですね。怒無焼きくらいまでであきらめたのかな……」(大尉)

 戦いに敗れたジオン軍。ジオンのアイデンティティに関わるものは全部連邦軍に没収され、日本のおもちゃ屋さんの管理下にある(――というのが慈恩弘国建国のバックストーリーとなっている)。おもちゃ屋さんに迷惑をかけまいとはばかる気持ちが、店名やメニューの漢字表記として表れているそうだ。

シャア大佐もやってきた

 敗戦後、内縁の妻ハモンさんと共に世界中を放浪し、8年ほど前に京都にたどり着いた大尉。中古の物件を購入し、地球上に19坪とはいえジオンの領土を手に入れた。領土には居抜きで鉄板や店の設備が残っていたという。離散したジオン国民たちも集まるかもしれない、そんな思いで店を開けた大尉。すると戦死したと思っていた仲間たちが次々にやって来たという。

 「シャア大佐とかね、6~7人来てますしね。シャア大佐とアナベル・ガトーはいっぱい来ますね。だいたい登場人物は一通り来ていますね」(大尉)

 また、日本全国にとどまらずオーストラリアやドバイなど海外からWebサイトを見て訪れる人もいるという。

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「この国の人が来ました」地図 海外からもお客さんがやってきているのが分かる

 「慈恩弘国」の対外政策はお好み焼き屋だけではない。定休日の月・火・水・木は大尉の本職である広告制作のほか、劇団「ジオン公国歌劇団」でお芝居・ミュージカルなどの公演で日本中にジオンの思想「ジオニズム」を説いてまわっているという。6月14日には東京で行われる世界コスプレサミットの日本代表選考会に出場する。

 ハモンさん曰く、慈恩弘国で働くスタッフはマンガとかアニメとか好きな子が多いという。現在、声優の学校に通いながら働くスタッフもいるそうだ。

 若いフラウ・ボゥ7号さんは、中学生のころ、シリーズの別の作品が好きになったのがきっかけで初代の作品を知ったそうだ。「好きって言うんやったら、最初から見なあかんやろって思って。それで面白いなって」

 「歴史が長いから、みんな自分にとっての作品がある。いまだに新作が作られている。どのシリーズから見ても、初代の作品を見とかなきゃって。原点に、原点にって」――大尉は誇らしげだった。


厨房でポーズ!

谷町邦子

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