これがギャップ萌えなのか……! 御年64歳「長閑の庭」の榊教授に思わずキュン!(※社主は男です):虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第48回
こんな64歳になりたい!
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
この前ニュースを見ていたら、文部科学省の「社会に役立つ学問を」という方針によって、国立大学の文学部や教育学部といった人文系学部の存続が危ぶまれていると伝えられていました。かつて国立大学文系に7年も居座っていた社主として「すわ一大事」と思った次第ですが、よくよく考えてみると自分もそう言われる原因を作った1人なんじゃないかと、軽い罪悪感を感じる今日この頃です。ちゃんと研究に取り組んでいる人文系学生のみなさん、本当に申し訳ありません。
さて、今回はそんな自分の若かりし頃を思い出し懐かしい気分になった、文学部を舞台にする年の差恋愛マンガ、アキヤマ香先生の「長閑の庭(のどかのにわ)」(~2巻、以下続刊)をご紹介。月刊誌「Kiss」(講談社)にて連載中です。
そのギャップ萌え、分かります!
舞台となるのは大学院ドイツ文学科。ドイツ文学を専攻する修士1年生の朝比奈元子は、「君の日本語は美しい」と褒められたことをきっかけに、指導教官である榊郁夫教授に恋心を抱くようになります。
恋愛経験はゼロ、いつも黒中心の地味な服ばかり身に着けていることから「シュバルツさん」(schwarz=ドイツ語で「黒い」の意)とあだ名される元子が恋する榊教授は、御歳64。定年退官間際の、普通の学生から見れば「おじいちゃん先生」と言われてもおかしくない年齢です。
元子と40歳以上離れた、親子ほどにも年の違う榊教授は過去に離婚歴があって現在は一人暮らし。また、いかにもドイツ文学者然とした堅苦しい性格とその厳しい授業のため、一般学生からの受けはさほどよくありません。
そんな教授を元子はなぜ好きになったのか。先にも書いたように、そのきっかけは自分の書いた論文を「君の日本語は美しい」と評価してくれたことによるものですが、それがさらに深まることになったのは、ふとした瞬間垣間見てしまった教授の意外なかわいさ。
普段は歩く堅物のような榊教授ですが、ボタン糸のほつれを自分で繕わない理由を問われ、「その道のプロに任せたほうが合理的」「僕はドイツ語のプロだが他はそうではない」と自説をとうとうと述べた後、頬をほんのり染めながらきまり悪そうに「…それに何より 僕は針が恐ろしい」とつぶやくさまは、まさにギャップ萌え! わかる、わかります、その気持ち!
そんな近しさを感じる出来事もあってか、元子は早々教授に想いを伝えます。しかしそれに対する教授の返答はつれないものでした。
「君のそれは恋ではないよ」
「教授」という着ぐるみをかわいいと思うのであって、その中身はただの老人でしかない、と告げる榊教授。その上、ゼミの先輩・田中くんからは「好きだった祖父の姿を教授に求めているだけではないか」と指摘されてしまいます。
そんな出来事が重なったせいで、元々苦手だった「恋愛」というものが何だか分からなくなってしまう元子。しかし、そこからの展開がとてもユニークなのです。
好意について「宿題にしたまえ」
自分の気持ちを整理しきれない元子は、後日改めて教授に「“好き”ってどれほどの種類があるのでしょうか」と問いかけます。本人は意図せずとも、雰囲気からして告白の再チャレンジとも言えるシーンなのですが、
「では“好意”と“その分類”についての論文も宿題にしたまえ」
と、榊教授。
普通の恋愛作品なら「何でそっちの方向に!?」というツッコミが入りそうですが、こういうところが文学部を舞台にした作品ならではとも言えます。
「論文にしたまえ」と言われた元子が、その定義などについて古今東西の文献にあたり、そのうえ字数や提出期限までまじめに考え込んでしまうあたり、いかにも院生気質で社主個人としてもあるある体験なのですが、ここから彼女の「恋とは何か」をめぐる長い長い模索が始まります。
まあ確かに「恋愛」と言っても、「ちょっと気になる」といった程度のライトな好意から、「特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒にいたい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる。まれに、かなえられて歓喜する状態」(三省堂「新明解国語辞典」)といったガチな感情、敬意に近い恋、はたまた「隣人愛」「兄弟愛」なんて言葉まであるわけで、恋についての彼女の堂々巡りはまだしばらく続きそうです。
なお本編では、榊教授への気持ちを「祖父を重ねているだけ」と言い放った天敵・田中くんが元子に接近し始めたり、榊教授の元妻がドイツから帰国したりするなど、ややこしい構図ができつつあります。
とは言え、彼女も恋愛を自分にとって「善い魔法」と思いはじめるなど、少しずつ成長しつつあるので、ぜひがんばってほしいところ。いや、むしろがんばるべきは榊教授の方かもしれません。
このキュンは「憧れ」なのだ
さて、最後になりますが、今回本作を取り上げた最大の理由は、堅物気質・榊教授の魅力です。少女マンガも大好きながら、男性にあまりキュンキュン来たことのない社主ですが、さっきの「針が恐ろしい」発言など、榊教授がしばしばかいま見せる子どもっぽさにはキュンとしました。本能の部分でヒロインに感情移入できたのは、ひょっとすると本作が初めてかもしれません。
世間には「枯れ専女子」なんていう言葉もありますが、そういう女子でなくとも、そして男でもさえも、本作を読んでいくうちに榊教授の魅力が分かってくると思います。社主もこの2週間、なぜ教授が魅力的なのかを元子のようにまじめに考えたのですが、自分にとってこのキュンは「憧れ」だな、と。
社主は常々早く年をとって田村正和、草刈正雄、井上順のようなしぶさとお茶目さを兼ね備えたダンディズムを醸し出したいと公言しているのですが、本作の榊教授もその系譜上に位置すると思うのです。また若かりし頃、研究職を志望していた時期もあったので、きっと教授の立ち居振る舞いの一つ一つが「かくありたい」という自分にとっての理想像でもあるのでしょう。
どういうわけだか今現在そんな理想と真逆を行くかのような社主になっていますが、榊教授の年齢に達するまであと30年ほど残っているので、いつの日か「その好意というものを論文にしたためてきたまえ(キリッ」と言える、身だしなみにも気遣えるメガネイケメンな老人になろうと思います。とりあえず現状「メガネ」と「老人」の部分だけは実現しそうです。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました(キリッ。
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